1話。プロローグ①の巻
なろう初投稿。文章が粗く、タダでさえアホな文章がさらにアレに
なってますので、苦手な人はプラウザバックお願いします。
どうやら俺は転生したらしい。
その事に気付いたのは10歳になった時だった。
非常にメタい話で恐縮だが、決してトラックに轢かれたとか神様が誤って蝋燭を消したとかではない。
普通に死んで、普通に転生したのだろう。
まぁ30代前半で死ぬのが普通かどうかは知らないが、特に何かドラマチックな事が有ったわけではないだろうと言うのは確かだ。
そして今の俺は、アレだ、ゲームっぽい世界に居る。
何でそう思うのかって?周りがアレなんだよ。
使われてる言葉は日本語で、文字も平仮名と
カタカナに漢字が使われる現代日本語。
建物や衣類は中世の日本っぽいんだけど、何故か上下水道がしっかり完備されてて、トイレも洋式と和式があるんだ。紙もある。(ウォシュレットはねぇけど)でもって気みたいなのが普通にある世界だ。
まぁ、かめは〇波みたいなのは出ないけど、肉体強化って言うのか?ソレが当たり前に行われていて、ソレが出来ないと死ぬような世界に居る。
さらにゲームっぽいと思ったのが、俺の主君だ。
あぁ、その前に俺の立場だけど、それなりに偉い家の次男に生まれている。
10歳になって前世の知識を思い出したが、ソコで今まで当たり前だと思ってたことが異常だったと認識することが出来たんだ。(とは言っても自分の名前とか何をしてたとかはさっぱり思い出せないけど)
俺の主君は主家の次期当主なんだけど、なんと同い年の女性なのだ。
いや、中世でも女性の当主はいるよ?井伊直虎とか、陰の当主って意味なら寿桂尼が有名だろう。
だけど井伊直虎は桶狭間で親族が死んだとか色んな理由があったろ?
寿桂尼は今川義元の母親だし。
普通に嫡子だからと言う理由で跡継ぎにされるような社会では無いんだ。
その場合婿養子や、その子が次期当主になって家を継ぐもんだろう?
それなのに女性が次期当主ってのは異常だ。ゲームとか小説である男女が入れ替わる設定があったりするけど、ソレに近い。
でもって、名前だ。
俺の名前はシゲマサ。家名はヨシヒロ。
主君の名前はヨシシゲ家名はオートモ。
漢字で書けば大友義鎮だな。
・・・そう、かの有名な九州のキリスト狂(誤字に非ず)ドン・フランシスコこと大友宗麟だ。
つまりココは修羅の国。九州。そりゃ気を使えなきゃ死ぬよ。
つか吉弘家の次男でシゲマサって、高橋紹運だよな!?
763人で籠城する城を4万の鬼に囲まれた際、3千人以上の島津と言う名の鬼を道連れに玉砕した修羅の中の修羅(数字は諸説有り)。
いや、ソレは良いんだ(良くないけど)
問題は何で大友宗麟が同い年なのかって話だ。
大友宗麟と高橋紹運は15歳~18歳くらい違ったハズだ。(大友宗麟が年上)
それなのに同い年で、さらに俺が小姓っておかしいよね?!
子供の義統ならまだわかる。百歩譲って弟の塩市丸も。だけど宗麟は違わね?
キリシタン気触れだったり、家臣の妻を強奪したり、島津との戦いで馬鹿やったりとコイツの成すことは色々有り得んからな。
とは言え今はまだ次期当主でしかない。
俺が早く生まれたのか、それとも向こうが遅かったのかはわからんが、まだ間に合うんじゃね?と言うのが俺の感想だ。
そんなこんなで現在15歳。この5年で学べることを学んだ俺は、父親や兄と比べればまだまだ未熟だが、それでも一人の修羅として恥ずかしくない程度の力を得たと思っている。
でもって同い年の主君の宗麟様、まぁ今はまだ大友義鎮だが(元服はしたらしい)俺の目の前で絶賛混乱中である。
「ど、どうしよう千寿!このままお父様が言うように湯治に行ったら、私は殺されるんだって!」
腰まで届く茶髪で小柄。でも一部はしっかりと女性らしさを感じさせる少女が、オロオロと言う擬音が出そうなくらい狼狽えている。(千寿と言うのは俺の幼名だ。姫様は俺を幼名で呼ぶのだ)
まぁいずれ歴史に残る(色んな意味で)ヒトではあるが、今は俺と同い年だからな。
そりゃ命を狙われたら怖いだろう。
実際に、このままだと殺されるのも間違いじゃない。
だけどソレは今じゃ無いって言うのも確かなんだよな。
本来なら今回の件も俺がちゃんと順序だてて説明するんだが、今回はソレをされないように周囲の連中が邪魔してきたんだ。
つまり、俺が居ないときに姫様(俺はそう呼んでいる)に対して、姫様擁立派の連中がこの情報をやや大げさにして伝えたんだよ。
この情報。つまり姫様暗殺の情報なんだが、大友宗麟が次期当主の時点でわかるヒトにはわかるだろう。
そう、二階崩れの変である。
コレは大友宗麟の父親が、今まで次期当主として育ててきた宗麟ではなく、弟である塩市丸に跡を継がせようとした為に発生したお家騒動として知られている。
俺が知る世界ではどうかわからないが、この世界では嫡子として厳しく育ててきた姫様より、甘やかして育ててきた塩市丸に愛着が沸いた当主様が、姫様を廃嫡する為に姫様の周辺に居る姫様擁立派の重臣の暗殺を企てているというのが現状だ。
姫様としては以前から父親である当主様が自分を冷遇しているのを知っている。
当然何が悪かったか分からないから、とりあえず今まで以上に習い事を頑張りきちんとした結果を出して来た。
ソレを見た当主様が、姫様には弟の塩市丸様に家督を譲る気は無いと思い込み、また警戒する。
警戒された姫様はまだ足りないのかと思って更に頑張る。
そして当主様がその頑張りを更に警戒すると言う不思議な悪循環だ。
でもって、この度当主様は姫様に湯治に行くように命令した。
そして姫様が居ないうちに、姫様擁立派の重臣を粛清しようとしているのだ。
その情報を掴み、このままだと当主様に殺されることになる重臣たちが、姫様を焚き付けて当主様に反乱を起こす為の錦の御旗にしようとしてるってのが現状だな。
実際ソレが無いと家中の他の連中の支持を得られず、タダの反乱として処分される事になるから、連中も必死だ。
ちなみに俺は当主様の粛清対象には含まれていない。
まぁ実家が大友家最強の修羅の巣窟である吉弘家だ。
下手に敵に回せば死を招くし、内乱になれば少なくない被害が出る。
だからこそ俺は姫様と一緒に湯治に行くように命じられているわけだ。
つまり逆説的に、今回のご当主様の狙いは姫様ではなく、姫様擁立派の重臣であるという事になる。
まぁ俺ごと事故死させる可能性もあるが、現在の大友家で俺を確実に殺せるのは親父と兄貴くらいだ。
あとは修羅が50人も居れば殺せるかもしれないが、ソレで生き延びたら実家が敵に回るし、そもそもそんな大規模な暗殺をしてはバレバレな上塩市丸様に悪評が立つからな。
だからこそ俺と姫様は無事なはずだ。
だがここで重臣である彼らがいなくなれば、当主様は俺が何を言おうと姫様を廃嫡し、塩市丸様を次期当主にすることが出来るようになるだろう。
逆に言えば、彼らが生きているうちは内乱を警戒して廃嫡することが出来ない。
そもそも彼らが姫様を擁立するのは、忠義ということも有るが、結局は自分たちの栄達の為だ。
幼いころから姫様の側に居た彼らは、姫様からの覚えも良ければ信頼も厚い。
だから姫様が次期当主になれば大友家の要職に就けると確信している。
反対に塩市丸様が跡を継げば、向こうの側に居る連中が幅を利かせることになるから、ソレは認められないってわけだな。
家督争いって言うのは当人の気持ちもあるけど、その周囲が騒ぐんだよ。
それ故に騒ぐ周囲を粛清するという訳だ。
その後は姫様を出家させるか、後顧の憂いを断つために殺そうとするだろう。
だから重臣だけでなく、姫様も「このままなら殺される」と言うのは決して嘘じゃない。
ただし「このままなら」だ。
姫様が死なずに済む方法は幾つか存在する。
俺はソレを知るが故に、きちんと姫様に選択をしてもらおうと思うんだ。
「落ち着いて下さい。すぐには殺されません」
まずは姫様に落ち着いて貰わないと困る。
まぁ15歳のお嬢さんが実の親に命を狙われて慌てないなんて不可能だが。
だがコレからの事が懸かっているのも事実だ。
いつまでも狼狽えるなと言う意味を込めて殺気を向ける。
「ぴっ!」
うむ。落ち着いたようだ。
いずれは九州探題として名を馳せる姫様も今は碌な地獄を知らないお嬢様だからな。
この程度の殺気でも十分なのだ。
「では姫様も落ち着いたところで、献策致します」
さっさと話を進めないとな。
悩んでるところに重臣たちに何か吹き込まれても困るし。
「落ち着いたと言うか、無理やり落ち着かされたと言うか…」
何か言ってるが知らん。今はそれどころじゃないのだ。
「先ほど姫様が仰ったように、コレから何もしなければ姫様もいずれ殺されるでしょう。ソレは確かです」
騒ぐのはアレだが、危機感は持って貰わないと困る。
「そ、そうなの!だから何とかしてお父様に…ぴっ!」
騒ぐな。俺の話を聞け。
そういう意味を込めて姫様を見れば顔を赤くして俯いている。
次期当主として騒ぎ立てたことを恥ずかしく思ってるのだろう。
着替え?そんなん後だ。
「故に姫様が取れる手段は三つです」
「三つ…」
そう言って親指、人差し指、中指の三本の指を立てて見せれば、姫様はその指を食い入るように見つめている。
「まずは一つ目」
そう言って中指を畳む。まぁコレは一番有り得ないだろうことだ。
だからこそ最初に伝えよう。
「大人しく当主様に従い廃嫡を受け入れます。
塩市丸様にお仕えすると言う誓紙を出しても
良いかもしれませんが、それよりも出家した
方が良いでしょう。
そうすればすぐには殺されることは無いでしょうね」
家臣になっても何かしらの理由をつけて殺される可能性が高い。
任務に失敗させるとか、最初っから実現不可能な任務をさせるとか。
「騙して悪いが…」ってパターンも当然有るだろう。
だからこそこの場合は出家をお勧めする。
出家した姫様を殺せば、どうしても評判は悪くなる。
だから盤石な状態を築くまでは姫様が狙われることは無い…ってこともない。
姫様を殺すことで盤石になるって判断する場合も有るからな。
まぁソレでも「すぐには殺されない」と思われる。
重臣たちを粛清した後なら姫様を担ぐ連中は減るだろうから、暫くは無事だろう。
「けどそれじゃぁお父様が死ぬ前とか、塩市丸が正式に家を継いだら私を殺そうとするんじゃないの?」
その通り。姫様は馬鹿では無いのだ。
この大友家を継ぎ、更なる飛躍をさせるだけの実力は有るのだから。
まぁ日頃の行いはアレだし、軍事に関してはウチの親やベッキーこと立花道雪を始めとした優秀な修羅の存在あってのモノだろうけど、少なくともソレを纏めただけの力は有るのだ。
「そうですね。その可能性は高いでしょう」
「じゃぁ駄目よ!次ッ!」
素直に頷けば、次の策を催促された。
まぁ最初から無いと思ってたからソレはソレで良いんだ。
姫様にしたって、特に瑕疵も無いのに弟に家督を譲る理由も無いし、更に寺に入って世捨て人をするのも面白くはない。
今まで頑張って身に付けたモノを活かすことなく殺されるなんて御免だろう。
「では二つ目。当主様、弟様、そして向こうの重臣一同を全滅させること。
姫様を擁立しようとしている重臣共が言うように殺される前に殺すと言う策です」
コレは二階崩れルートだな。
恐らく今の姫様もこのルートを選ぶ手前に居るんだろう。
だからこそ俺に「自分が殺される」と言って来ることで、コノ意見を後押しして欲しいと思っているのだろうな。
まぁ俺としてはソレでも構わないんだ。
俺が知る史実通りに動くなら、今後の行動もやりやすくなる。
最期だけはしっかりと変えて行こうと思うがな!
「………ソレは最後の手段よ。だから三つ目の策を聞かせて」
やはり姫様は特に否定することも無く次の策を聞こうとする。
まぁコレのせいで姫様が宗教に逃げてキリスト狂(誤字にあらず)になると考えれば、コレは避けたいところでもある。
さっきの史実通りなら動きやすいってのとは矛盾するが、そもそも史実がなぁ。
元々史実通りに動けば、姫様が継ぐ大友家は足利と島津と龍造寺と毛利と豊臣と黒田と徳川によってメタメタにされるんだぞ?
結局のところは日ごろの行いが招いた結末と言えるが、ソレでも態々そんな地獄を歩む必要は無いと思う。
流れを変えるならわざわざ二階崩れを起こす必要も無いわけだし。
とは言え姫様が当主となるには粛清は絶対に必要なことだ。
中途半端に父親を残せば常に隙を突かれる可能性を残すことになるからな。
だが、心を病んでまで、姫様が当主になる必要があるとは思えないのだ。
だからこそ逆に考えた。
そう、あげちゃえばいいのだ。
「では三つ目、大友の名を捨て出奔するのです」
「…はぁ?」
俺が真顔で言ったことを聞き、一瞬考え込んだ姫様は「何を言ってるんだ?」と言った顔をしている。
だが俺はコレが姫様にとって一番良いと思うんだ。
「話は最後まで聞きましょう。そもそも二つ目の案を採用した場合、姫様は家中に沢山の敵を作ることになります」
なんたって父殺しに弟殺しだ。
さらに重臣も大量に殺すことになる。
そんな人間を主君として信用するのは難しい。
更に生き残った重臣が幅を利かせる事になり、他の家臣たちを取り立てることも難しくなるだろう。
つまり当主になっても一人孤独に苛まれる事になる。
そりゃ史実の大友宗麟も酒やオンナ、宗教に逃げるってもんだ。
ソコまでして当主になりたいのか?
そう問いかければ、姫様は顎に手を当てて首を振る。
「…確かにそうね。私を擁立しようとする重臣たちには悪いけど、
私には彼らの為にお父様を討つ気は無いわ」
そう。この時代の価値観だと、弟殺しはまだしも、
父殺しと言うのは恐ろしくハードルが高いのだ。
だからこそ躊躇する。
他の道が無いかと懸命に考えるのだ。
「ソレは重畳。なればこそ大友の名を捨てるのです。
そうすれば姫様は大友の軛から解き放たれます」
俺が出奔を推す理由がコレだ。
コレなら他家に仕えることも出来るし。
姫様の今までが無駄になることも無いからな。
「けどさ、出奔しても命を狙われるんじゃない?奉公構だってされるだろうし」
ごもっとも。
ちなみに奉公構とは、大名が、罪を犯して改易された家臣、または主人の不興を買って(暇を請わずに勝手に)出奔した家臣について、他家がこれを召し抱えないように釘を刺す回状を出すことをいう。仕官御構などとも表現される(wiki)
まぁつまり大友家が付き合いのある所に連絡をして、姫様を雇うなよ?って言う触れを出すことだ。
コレをされれば、最悪行った先で捕まって首を刎ねられることも有るし、
それ以前に暗殺者を差し向けてくる可能性も有る。
だが、ソレを防ぐ方法も当然有るのだ。
「出奔とは言いましたが、正確には当主様公認の暇乞いです。さらに言ってしまえば、別に奉公構がされても良いような遠方に行けば良いだけの話ではありませんか?」
そう、当主の許可を取った場合や、それすら関係ない遠方に行く場合だ。
豊臣秀吉や徳川家康によって統一される前の日本はまさしく群雄割拠。
それぞれが好き勝手に関所だの分国法を作って動く社会である。
隣の国ならまだしも、二つ隔てれば完全な異国。海を隔てるだけでなく、京より東なんてのは未開の地。
そんなところに行けば、家を捨てた少女が帰って来れるような場所ではないし、むしろ生きて行けるとは思えないだろう。
事実上の追放からの島流しって訳だ。
何気なく言い放った俺の言葉を聞いて目を見開く姫様。
それはそうだ。簡単に遠方に行くとは言うが、
大友家の影響が無い家となれば探すのが難しい。
現在の大友家の所領は豊後と筑前の二国。
さらに味方する地方豪族は数知れず。
大内や少弐と敵対しているので、筑後や豊前、更に日向の伊藤【→伊東】と四国の西園寺だの一条、中国地方の尼子まで誼を通じている。
そのドレに仕えることになっても大友家としては痛手だ。
大友家としても、次期当主として大友家を知り尽くした姫様が近隣の諸侯に匿われるのは都合が悪い。
情報もそうだし、反大友の旗頭になられても困るからな。
だからこそ出奔しても、奉公構の他に刺客を差し向けてくるだろう。
ついでに名前に「義」があることからわかるように将軍家にも繋がりがある。
つまり大友家の影響から逃れる為には西日本から出る必要が有るのだ。
さすがの姫様も完全に西国から離れると言う発想はなかったのだろうな。
コレが一般常識である以上、当主様もそこまでは考えていないだろう。
だからこそこの策は通る。
「当主様も塩市丸様も姫様を殺したいわけではないでしょう。それ故に、名を捨て四国や播磨より西には入らないと言う誓紙を出せばそれ以上の追手は無いかと思われます」
実際のところ後顧の憂いを無くすため殺したいのかもしれんが、ソコは姫様を擁立しようとする重臣連中の粛清で我慢してもらおう。
その後は事故死したことにすれば良いだろう。
「遠方って…いや、まぁ千寿が言うなら不可能じゃないんだろうけど」
うむ、この辺は今までの信用が有るからな。出来ないことは口にせんのですよ。
俺の意見を聞き終えた姫様は、俯いて何かを考えては頭を振り、また何かを考えては目を潤ませて頭を振っている。
色々考えているんだろう。
親と弟を殺すか、自分が殺されるか、ソレとも見ず知らずの土地で生きて行けるかどうか。
様々なことを考えているだろう。
あぁ、まだ言ってなかった。
「ちなみに姫様が出奔を選択した場合、私もお供させて頂きますのでご了承下さい」
そう告げると、姫様は俯いていた頭を上げて俺を凝視して、口を開く。
「本当っ!?」
そう言って不思議なモノを見るかのような目で俺を見るが、考えてもみて欲しい。
何が悲しくて修羅の国に在住せねばならんのか。
しかも史実通りにいけば最後の相手はアノ島津だぞ?
いや、色々改善は出来るかもしれんが、そもそも姫様がキリスト狂になったらもう駄目だ。
いつまでも俺が側に居れるわけでもないし、宗教なんてのは心に隙があれば嵌っちまう。
そうなったら俺が何を言おうとダメだろう。
その結果、様々なところに迷惑を掛け、そしてその名は地に落ちることになる。
その辺を考えれば、姫様と一緒に外に出た方が良いと思うんだ。
今のご時世、読み書き算術と礼儀作法が習得出来ている姫様や俺の価値は高い。
しかも姫様の場合は大友家を継ぐための教養である。並大抵のモノじゃない。
どこの大名家でも俺達を粗略に扱うことは無いだろう。
それこそ敵の大内家ですらな。
まぁソコまで正直に言う必要は無いけど。
「いくら私でも、仕える主君を出奔させておきながら、のうのうと家中に残ろうとは思いません。
また献策をした私には、姫様のお命を守る義務が有ります。故に嫌だと言われても供として付いて行きますよ」
うむ。これぞ忠臣。
実際コレで俺が家に残っても、当主様や塩市丸様には信用されないだろう。
それにこれなら修羅の中の修羅である親父殿も、ニッコリと笑って出奔を認めてくれるだろう。
アノ人、なんだかんだで忠義とか好きだし。
自分の立てた完璧な策に内心でウンウンと
頷いていると、俺を凝視していた姫様は
顔を真っ赤に染めてブツブツと何かを言っている
「ば、馬っ鹿じゃない?!私なんかについてきたって損するだけなのに…」
俺は難聴系主人公では無いので、しっかりと姫様のつぶやきを聞き取った。
実際小姓が主君の言うことを聞き逃すなんて切腹ものだからね。難聴なんてなってられんのだよ。
しかしそうか~。なるほどなるほど。
まぁなんだかんだ言って「ついて来るな」
と言わないのが姫様の本心を物語ってるよな。
「とりあえず私が献策出来るのは以上です。ついでに言わせて頂ければ、己の家の栄達の為に、姫様に父殺しをさせようとする連中は信用できません。もしも姫様が第二の策を採用するなら、その辺は特に注意する必要が有るでしょう」
まぁご恩と奉公という原則を考えれば、主家より自家を優先するのは当然と言えば当然の話なんだけどな。
だけど主としては信じられないって言うのは確かだろう。
専制君主にとって大事なのは自分の感情だ。
中途半端な大義では納得できないことが多々あるのだよ。
主は家臣を信用せず、家臣も主を信用しない。
そんな家がまともに機能するとは思えない。
ソレを考えれば史実の大友家は凄げぇな。
「うん。分かってる」
俺の言葉に頷く姫様。
コレは信用云々の他にも、自分には時間が無いって言うことも分かってるという意味だろう。
選ぶ時間も考える時間も無い。
こうなる前に動ければ良かったが、所詮俺は次男坊で次期当主の小姓だ。政治的な影響力は無いに等しい。
そのくせ、家の名前が大きいから俺が下手に動けば当主様の警戒が増すだけだったし、こういう状況でもないと姫様に出奔を献策するなんてことは不可能だったんだ。
何せ主君に、自分が死ぬか?親を殺すか?家を捨てるか?
なんて選択をさせる小姓なんか殺されて然るべきだし。
今じゃなければ親父に殺されてるだろう。
こうして提案出来て、手打ちにされずに生きてるだけでも奇跡に近い。
あとは姫様の選択を待つだけ。
二つ目だろうが三つ目だろうが俺は姫様についていくことになる。
一つ目の場合は…流石に尼寺にはついて行けないからなぁ。
姫様の中で他に何か選択肢が有ればソレも一緒に考えよう。
俺はそう決意して、姫様の次の言葉を待つ。
どれくらいの時間が経っただろう。
姫様は決意を秘めた目で俺を見た。
…そして
「…決めたわ千寿」