魔法柱を探せ
三魔将と言う設定が余計だったので消しました。
2人は森を抜けアーロの手前まで来ていた。
アーロは周囲を森に囲まれている村だ。
2人は村の中をのぞいてみる。するとたしかにこの村は変だと言うことが分かった。
農具を持った村人同士でのにらみ合い、道端で怯えている人など、別にこれらの光景が一箇所だけならばまだ分かるのだが、あらゆる場所で同じようなことが起こっているため2人はおかしいと思ったのだ。
なので彼女達は村へ入らず、村の右側の森に入った。そこには小屋があり、その中にある人物がいるのだ。
「誰だ!」
小屋の前まで来たマユ達は、扉をノックする。するとマユは首にナイフの刃を当てられた。
リーゼは一度距離を取り、その何者かの姿を確認する。
飛び跳ねた黒い短髪に、引き締まった体つき、その黒い目は今もリーゼを睨みつけている。
「あなたがグレイ?」
「なっ、お前達はだれなんだ」
自身の名前を言われた男はあからさまに動揺する。
そんな男にリーゼは懐からあるものを取り出す。
それは手紙だった。セーラルで助けた男に書いてもらったのだ。
「これを読んでくれる」
「わ、わかった」
男はマユの首にナイフを当てたまま、リーゼから手紙を受け取り読み始めた。
グレイへ
いま僕はセーラルにいる。足をくじいてしまってしばらく帰れそうにない。
そこで助っ人を頼んだ。なんと勇者様と聖女様だ。
特に小さい方の女の子は魔族を1人で倒したらしい。
頼もしいだろ。
僕にできることはやったつもりだ。
あとは任せたぞ。
ロウより
「たしかにあいつの字だ」
手紙を読んだグレイは、一先ずナイフをおさめマユを解放した。
「すまなかったな、俺も少し疑心暗鬼になってたらしい」
そう言って手を差し出すグレイ。
マユはその手をとり笑顔になる。
「変なやつ」
「そうね」
先程まで、自分の首にナイフを突きつけていた相手に対して全く警戒しないマユの姿に、グレイとリーゼは呆れてしまう。
「ところで魔法柱のありかはわかったの?」
「いや全くだ。森の中だと思って探してるんだが」
グレイとリーゼが話している内容が、マユには全くわからない。
手持ち無沙汰になったマユは、幻を使う相手をどうやって倒すべきかと考え始めた。
(まぼろしってどうやって対抗すればいいんだろう)
なにかいい手はないかそう考えていた時、あることを思いつく。
痛みだ。痛みで常に自身の意識を覚醒させておく。
(でもこんな簡単な事で、幻を打ち破れるのかな?)
「しかし、もし魔族が出てきたらどうする?相手は幻を使うんだぜ」
「それなら痛みで、常に意識を覚醒させればいいわ。先代勇者が生きていた時にもそうして幻を突破したことがあるの」
それを聞いてマユは嬉しくなった。自身の考えが間違っていなかったからだ。
「だが、魔族を引きずり出すには結界を解かないとな」
「そうね、どうしたら見つかるかしら」
結局2人は、魔法柱を探し出すいい案が思いつかず、森の中を手分けして探すことになった。
「うーんどこだろう」
リーゼとマユは2人1組で行動していた。この辺の土地勘がないからである。
「なにを探してるの?」
その言葉にリーゼは頭が痛くなる。
彼女は、マユの頬を引っ張りながら答えた。
「魔法柱よ、結界に使われるって言ったでしょ」
「ひょうやっは」
そうだったと言ったのだろう。それを聞いたリーゼはマユの頬から手を離す。
マユは頬をさすりながらリーゼに質問する。
「魔法柱ってどんな形をしているの」
「形なんてどうでもいいの、問題なのは魔法石を使っているかどうか」
形なんてどうでもいいと言われてマユは困ってしまう。形が決まっているのならまだ探しやすいのだが、決まってないのなら探しにくい。
どうすればいいんだろうマユは、唸る。するとあることを思いついた。
探し方を変えればいいのだ。
「1度グレイと合流しようよ」
「どうして?」
「グレイに話を聞いてみようよ。できれば村での生活とか他愛のない話の方がいいんだけど」
「どうして?」
「話を聞いて何か違和感があれば、そこから手がかりが掴めないかなと思って」
「まぁ、闇雲に探すよりもいいかもね」
そうして2人はグレイの小屋まで戻り、しばらく小屋の前で待っていると、グレイが戻ってきた。
「その顔じゃなにも見つからなかったみたいだな」
「ええ、ところでマユがあなたに聞きたいことがあるんだって」
「なんだよ」
「うん、結界が張られる前はどうやって過ごしていたのか教えて欲しいんだ」
「ああ、いいぜ」
そう言ってグレイは目を瞑り思い出す。
この村は、世間とは隔絶された村だった。
俺は、親友のロイと一緒に特に代わり映えのしない毎日を過ごしていた。
「今日は川で釣りをしよう」
朝、俺たちは農作業をする。雑草を抜いたり害虫の駆除などだ。
その作業中、俺はロイと今日の予定なんかを立てている。
今日はロイが魚を釣りに行こうと言い出した。それはいい。今日の夕飯のおかずが一品増える。
そして昼になり、俺たちは川で釣りをしている。餌は何かの幼虫だった。
ロイが川に糸を垂らすとすぐさま魚が食いついた。
「へっこれなら俺も」
俺は結局1匹も釣れず、ロイに1匹魚を分けてもらった。
その次の日、俺達は昨日やっていた農作業ではなく。家畜の世話をしている。
厩舎の牛達から乳を絞り、そのあと放牧させてやる。他に羊やヤギなども放牧させる。
「このあと、どうする?」
「今日は森にきのみを拾いに行こうか」
そうして森に入った俺達は、木に生えている実をとり腹を満たした。
その次の日もその次の日も代わり映えのない日々を過ごした。
それから数日後、村では不思議なことが起こった。農具が壊されていたのだ。
農具は石を削って作っていたため、1日やそこらでできるものではなかった。
しかし次の日またも不思議なことが起こる。なんと農具を寄贈してくれた女性がいたのだ。その女性は金髪で背が高く足も長い美人だった。
「スッゲー綺麗だな」
「ああ」
そんなことをロイと話したのを覚えている。
そして女性から農具をもらった次の日から村の様子がおかしくなった。
「ひぃー魔族だ!こっちに来るな!」
「た、助けてくれぇ!」
なぜか俺とロイだけはなにも起きず、これはおかしいと思った俺たちは一先ず村から出ることにしたのだった。
「以上だな」
それを聞いたリーゼは呆れて物も言えなかった。しかしマユの放った一言に、リーゼはさらに呆れてしまう。
「うーん、怪しいところは特にないね」
「だろう」
マユは彼の話を聞いていなかったのだろうか、どう考えても怪しい人物が1人居たではないか。
「その女性が持ってきた農具はなにでできているの?」
「ああ、持ち手部分は木で、刃の部分は白い石だな」
「それね、それが魔法柱」
魔法石の色は様々な色があるが、結界に使われるのは白い魔法石だった。
「な、なんだって!しかしそうだとすれば辻褄があう」
そうして魔法柱のありかを突き止めた3人は眠ることにした。
今から潜入したところで、村人達に追い回されてしまうだろう。
しかしこの村の人間達は、毎日規則正しい生活をしているため、夜は早く寝るのだ。
なので昼間は体力の回復に専念して、夜のうちに農具を壊す。という方針に決まった。
「よし行くか」
あたりは暗くなり、森にはフクロウの鳴き声が響いている。
「ちょっと待ちなさい、幻を防ぐために全員ナイフで手を刺すの」
そう言ってリーゼは手のひらにナイフを突き刺す。
「っっっ!」
あまりの痛みに息を飲むリーゼ、そんな彼女の様子を見てマユとグレイは怖くなる。
「っ!は、早くして!」
「わかったよ」
「うん」
2人はリーゼと同じように、手のひらにナイフを突き刺す。そして2人とも声にならない悲鳴をあげた。
「静かにな」
あたりは暗く、人も歩いていない村の夜道に人影が3つあった。マユ達である。
「わかってるわ、早く案内しなさいよ」
「わかってる、こっちだ」
そうして田んぼのあぜ道を通り、その近くにあった倉庫へとやってきた。
「ここに農具をしまってる」
早速倉庫の扉を開けると、中には白い刃の鍬や鎌など農作業で使う道具があった。
「これよ、魔法石だわ。マユこれを壊して」
「はぁ?無茶言うなよ壊れるわけ……」
リーゼからの指示でマユは農具の刃を軽く叩いていく。すると刃の部分は粉々に砕け散った。
「あははは、さすがは勇者様」
それからほどなくして全ての農具を壊し終えたマユ。とりあえず村に入る前に作った傷を、リーゼが治癒する。傷を治癒しても魔法にかかる気配はない。これなら大丈夫。
これで村の者達は幻から解放されるだろう。マユ達は、ここで朝を待つことにした。
「ふぁ〜」
欠伸をしながら、男が倉庫へとやってきた。
「なんだこりゃ、農具が全部壊れてやがる」
「ああ、俺たちが壊した」
グランがそういうと、目の前の男の顔が怒りに染まる。
「こんの、クソガキが今日という今日は許さん」
「よし、逃げるぞ」
そう言ってグランはマユとリーゼを連れて逃げる。
「ちょっと、ちゃんと説明しなきゃ」
「へっ元に戻ったんだよ」
グランは追われているというのに嬉しそうだ。
彼らの様子に何事かと集まってくる村人。そして最初にあった男から事情を聞くと彼らも3人を追いかけ始める。
そしてマユ達はとうとう村の広場へと追い詰められた。
「さあ、観念しろ」
「待ってよ」
マユは2人をかばうように前に立つ。
「なんだぁ、嬢ちゃんは下がってろ」
「グランはみんなを助けるために農具を壊したんだよ」
「はあ?意味がわかんねぇよ」
「あの農具には魔法柱という役割があったの」
マユは村人達に全てを話す。すると村人達も何か心当たりがあるのか、みんな黙りこみそして最初に会った男が頭を下げる。
「すまねぇグラン。たしかにこの数日間俺たちはおかしかった」
「へっ気にすんなよ元に戻ったんだからそれでいいじゃねぇか」
「ありがとう」
男は泣きながら感謝の意を述べ、グランが男の肩を叩く。そんな光景を笑顔で見ていたマユだったが、ふと気配を感じた。
「誰っ!」
マユの声に、村人達は一斉に静まり返る。するとどこからか女性の笑い声が聞こえた。
「あなたが勇者?」
村人達の中から1人の女性が出てくる。
村人達は皆その女性に見覚えがあった。
「黒幕の登場だぜ」
グランの頬から汗が垂れる。女性に対して恐怖を抱いていた。
「私はローラ、幻惑のローラよ。みんなに永遠の夢を見せてあげるわ」