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小さな戦士  作者: ヘロ
6/19

休息

サブタイトルと話の内容を少し変更しました。



 マユとリーゼは、森の中を歩いていた。

 薄暗い森だが、時々木漏れ日が2人を照らす。

 セーラルを出た2人は、セーラルの西にあるアーロと呼ばれる村へと向かっていた。


「この森を抜けないとアーロにはいけないのよ」


 彼女達がなぜアーロへと向かっているのか、それは今朝の出来事が理由であった。






 それはマユ達が、街の瓦礫撤去を手伝っていた時だった。

 その日は朝から街の男総出で作業していたのだ。

 それをマユが手伝い。そしてリーゼはそんなマユの様子を見ていた。

 作業を始めて1時間くらいがたったあたりだろうか、街の入り口に男が倒れているのをリーゼが発見し、みんなを呼んだ。


「この人は誰なの?」


 リーゼの問いかけに街の者たちは、皆首を傾げる。彼らはこの男を見たことがなかった。


「まあいいわ、とりあえず手当を」


 男は所々に傷を負っていたが、リーゼの魔法により傷が塞がった。


「やっぱりリーゼはすごい……」


 マユのつぶやきに、リーゼは答えようとしたが、いまは倒れている男が優先なので、聞こえないふりをしておく。


「とりあえず、寝かせてあげましょう」


 その言葉を聞いたマユは、男を背負い、街の人たちが寝るときに使っているマットまで運んだ。


「これで、とりあえずはいいかな」


「そうね」


 マユは笑顔だった。役に立てたことが嬉しいのだ。

 そんなマユの頭をリーゼが撫でる。すると照れたのかマユは俯いてしまった。


「おい、そろそろ作業に戻るぞ」


 瓦礫撤去の指揮を取っていた大きな男が、街の男たちを集めて作業に戻っていった。


「わたしも行ってくる」


 そう言ってマユも、彼らについていく。


「マユだってみんなの役に立ってるじゃない」


 その後ろ姿を見ながらリーゼは誰にも聞こえないように呟いた。






 それから30分経ったくらいだろうか、倒れていた男が目覚めた。

 街の者たちは再び作業をやめ、男の元へと集まってくる。

 どうやら彼はアーロという村から来たらしい。


「アーロは今、魔族の手によって危機に瀕しています」


「どういうこと」


「アーロは魔族の襲撃も受けず比較的平和だったのですが、先週から村の人達の様子がおかしくなって、僕と親友のグレイは、その調査をしていたんです。そして、調査をした結果とんでもないことがわかりました。村全体に、幻を見せる結界が張ってあったんです。その幻とは、自分以外の者を魔族に見せるという内容なんです」


「それって」


「ええ、今はまだみんな自分以外の人に対して恐怖を抱いているだけで済んでいますが、もしその恐怖が増大していって、ある日村人同士で殺し合いなんて始めてしまったら、そう思うといても経っていられず、このセーラルに助けを求めに来たのです」


 このセーラルには、多くの兵士がいた。なのでその兵士たちに助けを求めようとここに来たのだ。だが、その兵士たちも今はもう戦えない。武器や防具は破壊され、治療薬なども毒を治そうと使ってしまい、底をついてしまっていた。


「どうすれば」


「心配しないで」


 そこである少女が名乗り出た。


「わたしは勇者だから」


 マユは胸を張りいうが、男の表情はどこか不安げだ。当然だろう。マユの見た目はどこにでもいる普通の少女なのだから。

 だがそこに、マユのことを知っている、街の人間から声が上がる。


「この嬢ちゃんはすごいぜ、なんせ魔族をたった1人で倒しちまったからな」


 それを聞いた男は驚愕の表情を浮かべたあと、マユに頭を下げる。


「お願いです。僕たちの村を救ってください」


「うん、任せてよ。いいよねリーゼ」


「リーゼ?まさかそれは聖女リーゼ様ですか!」


 彼はリーゼのことを知っていたようで、彼女の手を取り上下に振っている。


「リーゼ様も私の村を救ってくださるのですか?」


「ええ」


「感激です。あの有名な方に私の村を救っていただけるなんて」


 マユはそんな2人のやり取りを見ながら、少し心が苦しくなった。男はリーゼの名前を聞いた時、喜んだ。それはリーゼが色々な人を助けてきたからだ。

 だが自分はどうだ、ただ敵を倒すことしかできない。誰かの傷を癒すこともできないのだ。それはとても無力だった。

 マユがそう考えていると、2人の話がまとまったようで、リーゼが声をかけてきた。


「アーロに行くことに決まったわ。それからそこでグレイと言う人物と合流して結界を破壊するわ」


 声をかけられたマユは考えを振り払うように首を振り、リーゼに疑問をぶつける。


「結界の破壊?」


「ええ、村全体を包み込むほどの結界よ。どこかに結界を保たせている魔法柱があるはずよ」


 魔法柱とは、魔法の効果を半永久的に継続させたいときに使われる。魔法柱を作るには、その魔法を刻み込む魔法石が必要だ。

 魔法石とはこの世界で採掘できる特殊な鉱石だ。


「その魔法柱は、もう見つかったの」


「いいえ、まだよ。だからアーロ周辺の地理に詳しいグレイと合流しなければいけないわ」


「その人は一緒に行かないの」


 そう言って男を見るマユ。見られた彼はバツが悪いのか俯いてしまった。


「彼は足を怪我しているの」


「そうなんだ、でもそれならリーゼに治して貰えば」


「申し訳ありません」


「ゲガ人が謝ってどうするの?」


 彼は怖かった再び村に戻るのが、だから怪我をしたと嘘をついていたのだ。

 そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、リーゼがマユに伝える。


「今から10分後に、出発するわ。荷物を取ってこないと」


「うん」


 そう言って2人が荷物を取りに行こうとすると、街の人たちが荷物を持ってきてくれた。


「ありがとよ、嬢ちゃん達がいなかったら俺達は、間違いなくこの世にはいなかった」


 それを聞いたマユは表情を暗くする。マユが毒で倒れていた間にやられた男のことを思い出したのだ。


「マイクのことは残念だった。でもそれは嬢ちゃんのせいじゃねえ。あんまり背負い込むな」


 そう言ってまとめ役の大男が、マユの肩を叩いた。


「うん」


「それから少ないがこれを持って行ってくれ」


 そうして渡されたのは食料が入った大きな袋だ。彼らだって日々の生活が大変だろうに、わざわざ集めて持ってきてくれたのだ。


「こんなことでしか、返せねぇからな」


 マユはこれを受け取るわけにはいかなかった。もし受け取れば彼らは餓死してしまうかもしれない。


「いらない」


「なんでだ、俺たちの気持ちを受け取ってくれないのか」


「うん、そんな気持ちならいらない」


「そうか、お前はいいやつだな」


 そう言って大男は顔を抑え嗚咽を漏らし始めた。それを見てマユは荷物を背負うとリーゼと共に街を出ようとする。だがそこに街の人みんなから、歓声が上がった。


『ありがとう!勇者様』


『私、あなた達のこと絶対忘れないから』


『ありがとう、ワシらももう少しだけ生きられそうじゃ』


『そうじゃなぁ、爺さん』


 マユは泣きそうだった。だがこの涙は悲しくて流す涙ではない。


『ありがとう、小さな勇者様』


 そうだ自分は勇者なのだ。だから自身の心など捨てなければならない。

 もう殺すことを躊躇ったりなんてしない。

 先程まで泣きそうだったマユの表情は、今は鬼気迫るような表情になっており、それを見たリーゼはなんとかしなければと思うのだった。












 今朝の事を思い出したマユの足は、だんだんと早足になり、先へ先へと進んでいく。それをリーゼは急いで追いかけて、そしてこけてしまった。


「きゃっ!」


 リーゼの悲鳴を聞いたマユが振り返ると、彼女とリーゼの距離は大分開いていた。

 そしてマユはこけて倒れているリーゼへと駆け寄った。


「大丈夫?」


 心配そうな顔で覗き込むマユに、叱責の声が飛んでくる。


「あなた、わたしと一緒にいるの忘れたの?それに自分だけ先に行って道がわかるの?」


 リーゼにそう言われマユは俯き謝罪した。


「ごめんなさい」


 そんなマユの様子を見たリーゼはこれはチャンスだと思った。マユは今朝から少し様子がおかしい。このまま放っておけばまずいことになる、そんな気がしたのだ。

 なのでリーゼはマユに提案した。


「ねぇ、少し休憩しない?」


「なんで、早くアーロにいってみんなを助けないと」


 マユのいう通りだ。もちろん急がなければいけないことはリーゼにもわかっている。

 だがリーゼは自分の提案を通すために、少し卑怯な手を使う。


「う、足が」


「どうしたの?」


「さっき挫いたみたい」


 それを聞いたマユは、罪悪感に押しつぶされそうだった。


「どうしよう?」


「この森には泉があるわ、そこで少し足を冷やせば、少しは楽になるかも」


 そう言って地図を出しマユに見せる。マユはそれを見ると背中に背負っていたカバンとリーゼの荷物を持ち、リーゼを背負って歩き出す。


「まっててね、今から行くから」


 どうやら治癒魔法を使えばいいのでは、という考えは罪悪感からかマユの頭から消え去っているようだ。

 マユに背負われながら、しめしめと笑うリーゼであった。






 そこは幻想的な空間だった。その泉の周りだけ木々があまり生えてなく、太陽の光が直接あたり泉を照らしていた。


「きれい」


 その景色を見たマユは目を輝かせ、泉に近づく。そしてリーゼを下ろし、泉のほとりに腰かけ足をつけた。


「気持ちいいわね」


「うん」


 足をつけたリーゼがマユへと声をかけ、それに返事をするマユ。

 リーゼはここで本題を切り出した。


「さっきのあなた、少し変だったわね」


「そうかな?」


「ええ、街を出てからあなたは少し変」


(街を出てから?そういえば街を出るときに頑張ろうって思ったような気がする)


「あのとき、みんなにありがとうって言われて頑張ろうって思ったんだ。それにわたしは勇者だし」


 マユは自分自身に言い聞かせていた。自分は勇者なのだと、だから戦わなければいけないのだと。


「その勇者様が、仲間のことも思いやれないなんてね」


 リーゼが言った言葉にも、マユは反論できない。事実だからだ。


「ごめん、少し言いすぎたわね」


 リーゼはマユに少し言い方がきつかったかと思い、謝罪の言葉をかけるが、マユは首を横に振る。


「いいんだよ、本当のことだから」


「そう、それならいいの」


 そこから2人はしばらく無言になる。泉には小鳥達がやってきて、水を飲んでいる。

 そんな様子を見ながらマユはおもわず笑顔になった。


「どうしたの?」


 マユが笑顔になったのが、気になったのか彼女に問いかけるリーゼ。


「少し楽しくて、本当はこんなところでのんびりなんてしてられないのにね」


 マユは苦笑いでそう答える。彼女はこの世界に来て激動の日々を過ごしていた。

 マユは疲れていたのだろう。


「あの小鳥可愛いね」


 マユが笑顔で指差す先にある小鳥達。青い体毛に赤い嘴。その小鳥達が持ってきた、きのみを分け合っていた。


「そう……ね」


 マユの顔を見たリーゼは、少し言葉に詰まりながら答える。彼女の笑った顔はやはり可愛いかった。

 そんなマユが愛おしく思い、リーゼはマユの黒い髪を撫でる。


「どうしたの?」


「なんでも、ただ少しだけこうしてみたかったの」


「そっか」


 マユはなぜか少しくすぐったく感じたが、それ以上は何も言わなかった。








「そろそろ、行きましょうか」


「うん」


 少しは気分の切り替えができたのか、満面の笑みで答えるマユ。

 しかし、しだいにその笑みは消えていく。


「どうしたの?」


「うん、なんかここを離れるのが嫌になっちゃった」


 アーロに行けば、また戦闘が待っているだろう。マユはそう考えると憂鬱になったのだ。


「じゃあ、もう少しだけここにいる?」


 リーゼの提案にも、マユは首を横に振り否定した。


「はぁ、なんでわたしが勇者なんだろう」


 マユは思わずそう口に出してしまう。それを聞いたリーゼは優しく微笑みながらマユへと言った。


「それはあなたがとても優しいからよ」


「そうかな?」


「ええ、あなたは他人にも自分にも優しいじゃない」


「それってなんか貶してない」


 マユは自分にも優しいの部分に反応して言った。


「自分に優しくなければ、勇者にはなれないわ。だって自分に優しくしなければ他人に優しくなんてできないでしょう」


「言われてみればそうかも」


「だからもっと自分自信を大切にしなさい」


 自分自信を大切に、そう言われてマユは今朝、街を出るときのことを思い出す。

 もしかしたら自分の心を殺すという決断は間違いなのかもしれないそう思った。


「それに、あなたが殺すのが嫌ならとどめはわたしがさすわ」


「それは……できないよ」


 その提案はマユにとって嬉しいものだったが、だが同時にそれはリーゼの手を汚してしまうということだ、マユはそれが許せなかった。


「別にわたしのことを気にする必要はないわ。あなたのためなら自分の手を汚すことなんて大したことではないし」


 リーゼの言葉に、マユは自身の体温が高くなるのを感じる。リーゼがそこまで自分のことを思ってくれているなんて、マユの心は嬉しさと気恥ずかしさで満たされる。

 だがマユは、彼女の言葉を受け入れるわけにはいかない。


「ありがとう。でもわたしは大丈夫。リーゼの手を汚させるなんてさせない」


「いいの?」


「うん、だってわたしリーゼのこと大好きだから」


 それを聞いたリーゼの頬が上気する。彼女はそんな自分の顔を見られまいとそっぽを向き、自身の気持ちを誤魔化すように口を開く。


「さあ、少し長居をしすぎたわ。早く出発しましょ!」


「うん!」


 先程まであんなに行きたくなかったアーロに、早くいかなければと思うマユ。それはリーゼが自身のために言ってくれた言葉のおかげだった。


「ありがとう、リーゼ」






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