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小さな戦士  作者: ヘロ
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悪夢

旅立ちと毒のバブルの間にこの話を追加しました。


 夜になり、いま2人は街道の外れで野宿をしている。

 交互に見張りを立て、魔族の襲撃に備えることも忘れない。

 今はリーゼが見張りをしており、マユは眠っている。


「う、うう……」


 しかし、マユはうなされており目からは涙がこぼれている。


「マユ……」


 リーゼは昼間のことを思い出していた。

 マユは命を奪うことを躊躇っていた。彼女は甘いのだ自分にも他人にも、だから傷つけることを躊躇った。それは他人を傷つけたくないのももちろんだが、自身も傷つきたくないのだろう。


「なんて、弱い子なんだろう」


 やはりリーゼは、マユのことを勇者とは思えなかった。彼女の知る勇者は、もっと心が強かった。たしかに彼も魔族を殺した時は心を痛めていたのかもしれないが、それを表に出すなんて絶対にしない。なぜなら仲間に不安を与えてしまうからだ。

 自身の痛みを心に溜め込み、だがその精神力の強さゆえに心は壊れない。

 リーゼは勇者とはどこか壊れているのだと、今更ながらに感じた。


「それに、あの子は属性魔法を使ってる」


 リーゼは、マユの魔法で作った焚き火を見る。


「この子は、勇者じゃないの?ならこの子は……」


(もしこの子が勇者でないのであれば、わたしはどうすればいいのだろう)


 リーゼは自問自答するが、答えは見つからない。


「レイブ、こんな時あなたならどうするの?」


 空を見上げて、もうこの世にはいない彼に向かって言った。











 気がついたらわたしは、真っ暗な空間にいた。その空間は周りが全く見えない。


(夢の中かな?)


 しばらくその場でボーッとしていると、目の前から人影が現れる。

 鳥のような頭に、背中からはえた羽、そして指から伸びる長く鋭い爪、それは今日倒した魔族だった。


「な、なんで、倒したのに」


 わたしは息を飲む。なぜ彼がこんなところにいるのか、彼は死んだはずなのに、そう思ったわたしだったが、ふとあることが頭によぎる。


(わたしが、倒したからだ……)


 彼はわたしから少し離れた位置に止まると、こちらをじっと見つめている。その顔はどこか悲しそうで、わたしは胸が苦しくなる。彼をこんな表情にしてしまったのはわたしなのだ。

 わたしはそんな彼を見ているのが嫌になり、逃げようとするが、体が動かない。


「っ!」


 わたしがなんとか逃げようともがいていると、急に彼がこちらに近づいてきた。


「動いて、なんで動けないの!」


 そして彼はわたしの目と鼻の先までやってきた。

 思わずわたしは目を瞑り、悲鳴をあげる。


「ひっ!」


 わたしの目から涙が溢れ出る。


(怖い、助けて、お父さん!お母さん!)


 しばらくわたしはこの場にいない両親に助けを求め続けていた。

 しかしいつまでもそうしているわけにもいかず、わたしは覚悟を決めて目を開く。

 するとそこにはこちらを覗き込む魔族の顔があった。


「っっっっ!」


 その恐怖から声にならない悲鳴をあげ、わたしは気を失った。











 リーゼがそろそろ自分の眠る番だと思いマユを起こそうとした時、彼女は飛び起きた。

 マユの様子は尋常ではなく、息切れをしており、全身からは汗が吹き出し、目からは涙が溢れている。

 

「どうしたの?」


 彼女の様子が気になったリーゼの問いかけに、彼女は何も答えなかった。


「まあ、答えたくないならいいわ」


 その言葉はどこかそっけない。

 そしてその気持ちを表すようにリーゼは寝転ぶとそっぽを向く。


(わたしったらなんでこんなにイライラしているのかしら)


 リーゼはマユが黙っていたため少し歯痒かったのだ。なぜ何も相談してくれないのだと思ってしまった。

 しかし、旅立つ時に馴れ合うつもりはないと言ってしまったことを思い出し、リーゼはそれを後悔した。

 リーゼも最初は、マユを利用できるならそれで良かったが、彼女のあの涙を見て、もうそんな気持ちはリーゼの中にはなかった。


「なら、明日からは少しは仲良くなれるかしら」


 リーゼは少しだけ、マユに歩み寄ってみようと思った。そうすれば彼女から涙の理由を聞けるかもしれない。そう思えた。

 リーゼは知らず知らずのうちに自問自答した答えを見つけ出すことができた。

 そしてマユの方だが、彼女はリーゼには話したくなかった。なぜならこれは自分自身の問題だと思ったからだ。


「はぁ、疲れた」


 彼女のその呟きは、焚き火の音にかき消されリーゼには届かなかった。






 翌朝、2人は朝食を食べ終えると再び目的地に向け歩いていた。

 2人が歩いていると周りの景色に木々が混ざり始め、そして気づくと林の中に入っていた。


「気持ちいい」


 木々の合間から刺す木漏れ日に、マユはそれを見上げ目を細める。眩しいが、暖かくそれが心地よかった。


「昨日はごめんね」


 マユが上を向いていると、突然リーゼから謝罪の言葉がかかった。


「どうしたの?」


 それが不思議だったのか、首をかしげるマユ。

 そんなマユを見てリーゼが苦笑しながら話し始めた。


「昨日の朝、門の前で酷いこと言ったでしょ。それに魔族と戦っていた時も、あなたに酷いこと言ったし」


「それなら、気にしなくていいよ。わたし達はまだ会ってから間もないし、それにあれは正論だったし」


 そうだ、あのまま魔族を倒さなければ、今ごろもどこかで、誰かがあの魔族によって苦しめられていたかもしれないのだ。


「だから、気にしないで」


 マユはそういうが、どこか表情が辛そうだ。やはり、彼女は殺しに慣れることはできないだろう。

 マユの辛そうな顔を見ると、リーゼまで辛くなりそうだった。

 なので、そんな気持ちを払拭するように口を開く。


「ねぇ、あなたの世界ってどんな所?そこであなたは何をしていたの?」


 その質問に困ったのはマユだ。地球では彼女は普通の中学生だったのだから。


「わたしは学校で勉強してた。他にも友達と遊んだり」


 マユは少し恥ずかしかった。リーゼ達はこの辛い世界で生きているのに、勇者である自分は平和な世界でのうのうと生きてきたのだから。


「それであんなに躊躇っていたのね」


 リーゼは納得がいった。そりゃあ平和な世界で生きていれば生き物を殺すことにも抵抗があるだろう。


「えへへ……ごめんね」


 マユは愛想笑いを浮かべたあと、俯いてしまう。


「謝らないで、わたしはただあなたのことが知りたかっただけ」


「わたしのこと?」


「ええ、わたしはあなたのことが知りたくなったの」


 リーゼは自身の体温が高くなるのを感じていた。恥ずかしさのあまり、そっぽを向く。

 リーゼの言葉にマユは嬉しくなった。この世界に来てからそんな言葉をかけてくれたのは彼女が初めてだったからだ。


「ありがとう」


 マユは俯くのをやめ、リーゼに笑顔で礼を言う。


「別に気にしなくていいわ」


 リーゼもマユに向き直り、微笑みながら言う。

 マユの心は少しだけ軽くなったような気がした。











 ここはどこだ、俺は確か勇者に敗北したはず。

 そこは真っ暗な空間だった。どうやら体は動くらしい。

 俺は出口を求め歩き出す。

 何時間歩いただろうか、ここまで何も見つからず出口などないのかと諦めかけた時、やつを見つけた。


「な、なんで、倒したはずなのに」


 やつは俺を見ると、驚愕している。

 それはそうだろう。死んだ者が目の前にいるのだから。

 しかしそれは俺も不思議に思った。






 俺は勇者に殺されたあと、やつを見ていた。

 やつは俺の亡骸を埋葬していたのだ。その時のやつは涙を流していた。

 俺はそれを見て思った。かつての魔王様のようだと。

 彼も敵の亡骸の前でよく涙を流していたものだ。

 俺はやつのそんな姿を見ていると、知らずに親近感が湧いた。

 そんな時だ、突然俺の目の前が真っ白になり、気づいたらこんなところにいたのだ。






 目の前の勇者は悲しげな表情をしている。それを見ているとなぜか俺まで悲しくなってくるのだ。


(いや、実際に戦いというものは悲しいな)


 俺は魔族のために戦っていたが、やつも人間のために戦っていたのだろう。

 彼女に触れてみたい。そう思った俺は勇者に近づく。


「ひっ!」


 俺が彼女に近づくと、彼女は涙を流し悲鳴をあげ目を瞑った。

 違うんだ、俺は、そう口に出そうとしても喋ることができない。

 ならばせめてと、彼女の涙を拭おうとしたのだが、彼女が目を開きこちらを見ると、気を失いこの世界から消えしまった。


(すまなかった)


 彼女が消えて少し経ったあと、俺も眠りについた。






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