サイコパスな昔話 ④
むかしむかし、あるところにとても優しい若者が住んでいました。
ある日、その若者が砂浜を歩いていると、亀をいじめている子供達を見つけます。
可哀想に想った若者は、その亀を助けることにしたのです。
「こら!亀をいじめちゃ可哀想だろう!?今すぐ逃がしてあげなさい!!」
若者に叱られた子供達は散り散りになり、亀の前から姿を消しました。
「何て、悪戯っ子な子供達なんだろう。」
若者は、その場を立ち去ろうとすると、亀が声かけてきます。
「助けて下さいまして、ありがとうございます!お陰で、命びろいしました!……そうだ、何か、お礼をさせて下さい!!」
「いえいえ、当たり前のことをしただけです。そんな、お礼だなんて……。」
亀の申し出を、若者は丁重に断ります。
それでも亀は引き下がりません。
「いえいえ、そんな事仰らずに!!……そうだ、私達の住んでいる海の城に御招待させてください!!とても綺麗な姫様も住んでいるんです!!」
「まあ、そこまで仰られるのなら……。」
「ありがとうございます!!」
亀の気持ちを汲んだ若者は、一緒に海の城に行くことにしました。
さっそく、若者は亀の背中に乗り、海の城へ出発しました。
海の城へは少々長旅になるので、若者と亀は世間話をしていました。
「いやぁ、それにしても最近の若者は、中々健康的な身体をしていますねぇ。」
「え?そうですか?自分ではそんな気は無いんですけど……。やっぱり、毎日釣りをして、魚を食べているからかなぁ?」
「へー、そうなんですか?」
「そうかもしれないですねぇ。」
ある程度、沖にまで来ると、それまで楽しそうに話をしていた亀が、急に思い詰めたように沈黙します。
「………………。」
若者は、心配して声をかけます。
「ど、どうしたんですか?亀さん?」
すると亀は、腹をくくったように口を開きました。
「……実はですね、海の城に綺麗な姫様が住んでいるって言ったじゃないですか。その姫様が、重篤な病気なんですよ。」
「へー、それは大変だ。」
若者は、亀の話をどこか他人事のように聞き入れます。
「それでですね、その病気を治すには、健康な、若い、人間の、生きた、肝、が必要なんですよ。」
「なるほどねぇ……。それは、なんとしても手に入れないと……。」
と、ここで若者は、亀が話していることを今一度、頭の中で整理します。
……。
…………。
………………。
「ええぇぇーーっ!!まさか、それって!まさか!!」
「ええ、正しくあなたの事ですよね。」
「さ、最初に貴方をいじめていた子供達……、あれも……!!」
「ええ、もちろん私の仲間です。」
驚く若者に亀は、淡々と語ります。
このままでは、命の危険が……。
そう思った若者は、ある考えが閃きます。
「何だ、そういう事なら最初に言ってもらわないと。」
「え!?どういうことですか!?」
若者の言葉に、今度は亀が驚きます。
「今、肝は身体から出して、洗って木にかけて干してあるんですよねー。」
「な、何ですって!?じゃあ今、貴方の身体の中には……。」
「ええ、肝は入って無いんですよ。今すぐ砂浜に戻ってもらえると、取ってこれるんですけど。」
「そ、そうなんですか……。」
若者は、亀を騙して砂浜に戻る事を思いついたのです。
……しかし、
「なーんてな!!そんな手には乗らねぇよ!!大体、どこの世界に身体から離れた肝なんてもんが存在すんだよ!!」
沖まで来た亀は、勝利を確信したのか、本性を露にします。
「い、いや本当なんですよ!私の身体は特殊仕様で……。」
「はっ!!往生際が悪いぜ!?大人しく、姫様の生け贄なりな!!」
……まずい!!そう思った若者は、この状況を回避する手段を必死に考えます。
「短い間だったが、楽しかったぜ!!じゃあ、この辺でお前さんとは、さよならだ!!」
亀は、若者を乗せたままゆっくりと海の中へ沈みます。
……これまでか……。
若者がそう思った、その時です!!
一匹のサメが、若者の目に飛び込んで来ます。
この好機を逃すまいと、若者は必死にそのサメに呼び掛けます。
「おーい、サメさーん!!サメさーーん!!ちょっといいかーーい!!」
サメは若者に気づき、近づいてきます。
「な、何だ!?お前!?サメ何か呼びやがって!!もし、俺をサメに襲わせるつもりなら止めたほうがいい!!俺は、普通の亀とは一味違うからな!!」
若者の予想外の抵抗。しかし、亀は動じません。
「誰もそんなことかんがえちゃいないよ!!まあ、見てなって!!」
そして、サメは若者の元までやって来ました。
「やあ、若者。一体何の用だい?」
「いやぁ、実はね……。」
若者は、サメにある質問をします。
「サメと人間、どっちが多いか知りたくないかい?」
「知りたい!!知りたい!!」
サメは興味津々に答えます。
「じゃあサメさんは、一匹ずつ砂浜に向かってならんでくれる?その上を、僕が歩いて数えてあげるから。」
「分かったー!」
すると、サメは若者の言う通り、亀を先頭とし、そこから砂浜に向かって行列を作ります。
「こ、こいつ!何を企んでやがる!!」
亀は若者の行動が読めません。
とその時、若者は亀の背中を離れ、サメの背中を渡り始めたらではありませんか!!
「いーち!にーい!さーん!」
一匹一匹、サメを数えながら、砂浜へ向かって渡って行く若者。
そこで亀は、ようやく若者の手の内を知ったのです!!
「サメの背中を利用するたぁ、考えたな……。だが、そう簡単に向こう岸に渡らせてたまるかよ!!」
亀は、若者が砂浜に渡るのを阻止するため、サメに茶々を入れます!!
「おーい、サメさん、サメさーん!!その若者は、ただ、向こう岸に渡りたい為だけに、サメさんを騙しているんだよー?」
それを聞いたサメ達は、若者に対して怒りを露にします!!
「なんだと!!この若造がぁ!!俺達サメ様をだまくらかすとは、いい度胸じゃねぇか!!」
砂浜へ向かってできた行列は、一気ににくずれ、若者は海になげだされます!!
「うわああぁぁーーー!!!」
タパーーン!!
そのまま、海に落ちる若者!
そこへ、サメ達が襲いかかろうとします!!
「このまま、サメ様の餌にしてくれる!!」
「待ちな!!その若造は元々この俺、亀様の獲物だ!!手出しすんじゃねぇ!!」
言い争う亀とサメ。
シュルルル……。
その二匹の間を何かが飛んできます!!
「うおっ!!」
「な、何だ!!」
なんと、それは若者が持っていた釣竿でした!!
そして若者は、二匹に向かって言います!!
「さっきから聴いていれば、好き勝手言いやがって……!!僕は生きて帰る!!絶対にな!!」
「いいや、そう言う訳にはいかねぇ。お前さんの肝は、絶対に必要なんでな!諦めてもらおうか!?」
「おいおい!お前達。この俺達の圧倒的な戦力を前に勝てるとでも思ってんのか!?俺達サメ様をだまくらかした罪、償ってもらおうか!!」
人間、亀、サメ達による、三つ巴の闘いが今、幕を開けます!!
「うおおおぉぉーーー!!!」
「うおおおぉぉーーー!!!」
「うおおおぉぉーーー!!!」
「あ・な・た♪洗濯物取り込むの、手伝って!!」
いつになくドスの効いた声が、ここが現実世界であることを思い知らされる。
「いや、ここから3人の戦闘がいい感じに……。」
「取り込め。」
「……はい。」
抵抗する夫を、妻は無理やり庭に連れ出す。
「だから!!何度言ったら分かるの!?いつもいつも変な昔話を聞かせて!!これで何回目よ!!娘に変なこと吹き込むなって、あれほど言ってるでしょ!?」
妻に叱られた夫は、何か閃いた顔をして、妻に語りかける。
「未来、昔話は、どうかな?」
「それ、矛盾してるじゃない……。」
妻に即答された夫は、納得いかない様子でこう言った。
「どうしたらウケるのかなぁ?何で駄目なのかなぁ?」
そんな夫に妻は一言……。
「あなたが思っているほど、周りは面白いとは思って無いからね………?」
ごめんなさい、
あぁ、ごめんなさい、
ごめんなさい。