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3.消滅
男は、女の言っている意味が分からなかった。
男は聞き返した。
「消滅……?」
「そう、消滅」
「どういうことだ」
「そのままの意味よ。貴方は『消滅』する。消えるの」
「『死』と何が違うんだ」
「『死』は、今の貴方がこの世からいなくなるでしょう?『消滅』は、貴方の存在自体がなくなるの。貴方はこの世にいなかったことになる」
男は思わず唾を飲み込んだ。
存在自体がなくなる。つまり、『死』では残るはずの死体も自分が今まで生きてきた痕跡も何もかもなくなるということだ。
「どうするの?」
言葉を発さない男に女が問いかける。
「どうするって……」
男の気持ちは揺れていた。
『生』はあり得ない。この女さえ現れなければ、男はすでに『死』んでいただろう。
しかし、この女が現れたことで男に新たな選択肢が生まれてしまった。
『消滅』
男は自分という存在を消し去ることに気持ちが傾くほど、絶望していた。