それでも俺は、助けたい‼
俺にとって、入学式とは、移動することもなければ人と話さなくてもいいという学校生活で数少ない俺の心の安らぎ時間なのだが、今回は、違うらしい。
それというのも、朝の女の子との衝突が意図的にやられたと噂になっているのだ。
つまり、俺が女の子にぶつかりたいが故にわざと突っ込んで周りに偶然ぶつかった風をよそおって足元の石に全力でつまづいてバレない様に演技したと……噂になっているらしい。
正直泣きたい。誰か、俺を助けてくれー。
噂は、どんどん広まり、みんな何故か俺がわざとやったと確信しているらしい。
見た目判断でだろう。
理不尽極まりない。
それもこれも俺の不運さが悪いのだが、不運のせいなんですよーって言っても誰も聞いてくれないだろう。
琴海助けてくれー!!
俺の虚しい心の叫びは、誰にも聞こえないまま入学式が終わってしまった。
自分のクラスに移動ということで俺は、のんびりと廊下を歩いていた。
入学式の会場の体育館で解散したのち、生徒たちは、自分のクラスに移動時間となっていて、20分くらいの猶予時間があった。
体育館から俺のクラスの1年C組まで結構な距離があった。
体育館から一番遠い校舎の最上階に俺のクラスは、あるらしい。
「めちゃくちゃ遠いじゃねえか!」
口に出てしまう程遠かった。
うちの学年は、A、B、C、D、Eの5クラス構成でできている。そのなかでも、両端にある階段に最も近いのがA組とE組なのだが、真ん中にあるCクラスは、どちらの階段にも近くないので最もたちの悪いクラスなのだ。
一番遠いからってそんなに気にすることではないじゃないかと思うだろうが、朝の事件で変態の容疑を何故か確定付けられてる俺は、「あれ朝の変態じゃない?」と知らないやつにあれとか変態とか言われる悲しみと苦痛を分かってほしいもんだね。一応慣れてる方では、あるんだがな。
少しため息を漏らしながら、この歩くたびに刺さってくる地獄の茨道みたいな廊下を逃げていると思わせないようにのんびり歩きながら、目的地に向かった。
「あんた、朝、変態に襲われたんでしょ?どうだった?怖かった?変態どんな顔してた?満足げな顔してた?」
「いや、そんなに一方的に聞いたら可哀想じゃん みんなでその変態ボコしてやろうか?」
朝、俺とぶつかってしまった金髪美少女は、どうやら、みんなに事情聴取みたいな感じで色んな人に話しかけられていた。正直迷惑してるだろうな。顔がそう言っている感じがした。
やっとクラスに着いた俺は、教卓から見て右から3つ目の列の一番後ろの席が俺の席だと、すぐ見つけることができ、すぐ座って寝たふりをした。
「あれ噂の変態じゃない?」
「しっ、聞こえたら襲われるよ」
聞こえてるし、襲わねえよ。
容疑者の俺と被害者の金髪少女を見に他クラスから色んな人が来ていた。
物珍しそうな目で見て、確認のため金髪少女に話しかけている。
正直、申し訳ない気がした。
「ホントごめん」
俺の小言は、誰にも聞こえずに宙に消えてった。それでよかったのだが…(笑)
担任の若い女教師が教室に入ってきた。とても優しそうだ。
今日は、担任の話と自己紹介をして終わりらしい。
この時間さえ過ぎれば、すぐに帰ることができる。
自己紹介で純粋な大人しい系男子を演じてれば、俺の汚面は、なくなりはしないと思うが少しは、考えなおしてくれる人がいるかもしれない。
担任の話は終わり、自己紹介が始まった。
みんな普通のことばかり言っていて俺もこの流れに乗り普通に自己紹介をして、おとなしい風を見せようと思っていた。
俺の考えは、甘かった。
一人の少女のことすら見てなかったのだ。
「私は、城ヶ崎星です。好きなことは、友達作りと信頼関係で、嫌いなことは、人の悪口を言うことです。みんな、この男の人は、決して悪い人ではありません。みんな勘違いしすぎだよ。この人は、私を助けようとしたんです。だから、この人の悪口を二度と言わないでください‼」
ガラッ、ゴトン
勢いよく椅子を引いてゆっくり座った城ヶ崎は、俺の方を向いて少し泣きそうな顔で笑顔を見せてくれた。
俺の席から二つ席が前の城ヶ崎は、俺に指を指して自己紹介をしてくれた。
あの自己紹介もあの泣きそうな笑顔も俺をかばうために必死にやったものだった。
俺は、自分のクズさ加減にへどがでそうになった。
他人の俺の為に自分を犠牲にしてでも助けようとしてくれた城ヶ崎に対して、俺は、自分のことばかり考えていた。
城ヶ崎のことを助けようなんて考えていなかった。
俺は、自分に物凄く腹が立った。
むちゃくちゃ腹が立って自分の過去を少し振り返った。
そうだ、俺は、昔っから嫌われていたんだ。嫌われていたから、高校では、頑張って嫌われないようにしていこうと思ったんだ。
今現状では、嫌われ者は、俺と城ヶ崎だ。
「ええ?城ヶ崎さんもしかして、変態の味方着くの?」
「城ヶ崎さんもしかして、変態さんがタイプなの?」
「いやーん、不潔だわ!」
周りにいるこいつらをとりあえずぶっ殺したい気分だが、城ヶ崎の優しさを踏みにじるこいつらよりも自分のことを優先に考えて、城ヶ崎をもっと苦しませる結末を作ってしまうだろうこのままの俺を俺は、殺したかった。
やることは、簡単だ。俺の日常は、いつも通りだ!何にも困ることはない。悔やむこともない。
ただ、城ヶ崎の努力を踏みにじってしまうことが唯一の心残りで、もう話すことすらできないと思うと少し寂しい気がした。
俺の前の席の奴は、いつの間にか自己紹介が終わっていた。
この空気を読んで、短めに終わらせたのだろう。
覚悟と信念を拳で握りしめ、俺は、席を立って、風が一吹きしてから叫んだ。
「俺の名は、涼宮幸輝だ。趣味は、女探しにスカートめくり、盗聴、盗撮、痴漢にのぞきだ‼ 俺は、スカートめくり魔、痴漢魔、のぞき魔、そして、降っても振り切れねぇストーカー魔だ‼ 俺の好きなものは、女だ‼嫌いなものは、男だ‼ 分かったら不用意に俺に近づこうとするんじゃねぇ‼ それと、さっきの城ヶ崎の自己紹介だが、あれは、俺が脅して、演じさせたものだ‼ 猫かぶっていろんなことをしようと思ったが、やはり本性むき出しでスリルを楽しみながらいろいろすることにした。ってことですまなかったな!城ヶ崎‼」
ハハハハと笑いながら、ああやっちまったと思った。
学校の絶対悪の出来上がりだ。
退学になってもおかしくないな。先生は、俺の方を向いて、震えてるし、みんなの方を見るとゴキブリでも見るような殺意にあふれてる奴や不気味そうに見ている奴がいた。
それでも俺は、城ヶ崎を救えてよかったと思った。これで、城ヶ崎の疑いは、晴れるだろう。
俺は、椅子に座って腕組みをして堂々とした。
動揺してたら、怪しまれるからこうするしかなかった。
俺の席の列の一番前に座っていた奴がわざわざ俺の方に向かって歩いてきた。
赤髪のショートポニーテールで少し背は、小さいがこいつもまた、美少女だった。
俺の席をバンッと叩いて、俺を睨んできた。
「わざわざ近づいてくるなよ忠告したじゃないか!それにお前誰?」
「私は、桐原萌愛 ええ、忠告は聞いたわ!つまり、この学校に喧嘩を売ったってことよね!」
はあ?何言ちゃってるのこいつ?馬鹿なの?あんな演技までしたのに近寄ってくるんじゃねえよ‼
「もうういいから、席に戻れよ!喧嘩とかそんなつもりないし!」
うかつにも席を立って桐原を追い払おうとしてしまった。
桐原の肩を押そうとして、俺は、机につまづき、桐原の胸を直撃しそうになった。
また、この流れかよ…
俺は、思っていることとは、裏腹に「あぶねえーー」と叫んでしまった。
そのとき、見えない速さで顎を蹴り上げられた俺は、そのまま天井に頭から突き刺さっていた。
「ぐはっ」
俺の頭は、トマトを頭に落とされてトマトが弾けたかのように血みドロになってしまっていた。
桐原は、満足げな笑顔でクラス全員にピースしていた。
「私の勝――利‼」
この時点で俺は、もうこいつと関わりたくねぇ、関わったらロクでもないことが起きそうだなと俺は、直感した。