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第十一戦から最終戦

「第十一戦」


 言いながら、これまでに使って散らばっていたカードを天口がまとめた。


「勝負は実質、これを含めてあと二回ですね」

「俺にとっちゃこれで終わりかもしれないがな」


 残りのカードは三枚ずつ。一度も負けられないじゃんけんだ。

 下手に心理戦を仕掛けるのは、もはや危険だろうか……。

 いや。


「一つ提案がある」

「なんでしょう?」

「ここからはターン制にしよう。まずお前が先に伏せてくれ。次は俺が先に伏せる」

「あなたから伏せるのではだめなんですか?」

「どっちでも変わらないだろう」

「……それもそうですね。いいですよ」


 天口は目を伏せ、一枚を選んで伏せる。


「よし、質問だ。そのカードは俺も持ってるカードか?」

「さあ、どうでしょう」

「ジャック」


 俺は見逃さなった。


「ありがとう」


 カードを伏せる。


「……オープン」


 公開されたカードは、二枚ともジャックだった。


「不覚でした」

「俺は俺で、切り札を温存していたのさ」


 このゲーム中、俺はカードのことだけを考えていたわけではない。色々な情報を同時に集めていた。

 天口は淡々とした口調で喋り、癖のようなものもなく、リアクションも薄い。それは逆に、本当に動揺した時、その変化がわかりやすいということ。

 最初の質問で三枚のカードを一枚と二枚に分ける。「さあ、どうでしょう」という発言が天口のいつもの喋りのテンポよりも微妙に早かったことから、図星だったと見た。

 そして間髪入れずにどちらかを断定する。心構えをする前に意表を突けば、生理的に体が反応してしまうものだ。ジャックを選んだのは完全に勘だったが、俺の言葉によって一瞬の体のこわばりと瞬きが見受けられた。

 俺は専門家というわけではないから、それでも賭けだったが、どうやらなんとかなったらしい。


 これで四勝五敗二分け。

 俺はキングとエース。天口はクイーンとエース。

 実質的な最終戦。どちらを切る。


    ・・


「最終戦、ですね」

「ああ。酷く疲れた、早く終わらせよう」


 提案通り、俺は先にカードを伏せた。

 これで俺ができることはすべてやった。勝敗を決めるのはこいつの選択だ。

 さすがにこの局面になると、天口も余裕をなくしたらしい。口に手を当て、手札と伏せられたカードを見比べて悩んでいる。


「私も質問して良いですか?」

「ああ」

「そのカードはなんですか?」

「さあ、なんだったかな。見ないで伏せたから忘れた」

「ふふ……」


 天口の口から笑い声が漏れるが、目は笑っていない。

 俺はもう情報を喋るつもりはない。実際、もうどっちのカードを伏せたのか忘れた気もする。

 ああ、長い戦いだった。

 このわけのわからない場所から出られたら、ゆっくり飯を食って一服しよう。どっちに転んでもそれくらい許してもらえるだろう。

 そんなことを考えながら、俺は天口の長考を待った。


 そして、その時が来た。


「決めました」


 天口は一枚のカードを、指先で支えてテーブルの上に立てる。

 俺も伏せられたカードに手を添えた。


「いきますよ」

「ああ」

「……オープン」


 俺は手にしたカードを裏返す。

 最後に選んだカードは、キング。

 そして――天口のカードはエース。


「“エースはどのカードにも勝てるが、キングにだけは負ける”……だったな」

「……恐れ入りました。このゲームにおいて、エースとキングのルールはほとんどお飾り。実際にエースをキングに合わせられた人は、初めて見ました」

「終盤は全部そんな感じだった。お前もわかっていただろう?」

「ええ。最後の四手、本当に見事でした。完敗です」


 俺は特に大した感慨もなく、椅子の背にもたれた。


「どうしてここでエースを出すと思ったのですか?」

「……お前みたいなひねくれ者は、大抵好物を最後まで取っておく」


 天口は呆けたような顔になって、それから手に持ったカードで口を隠しながら、くすくすと笑った。

 落ち着くと、そのカードを顔の前で裏返す。クイーン……十二のカードだった。


「完敗です」


 その笑顔は年相応の華やかさがあり、俺は少し安堵した。


「おめでとうございます。試験は合格です」

「で? 俺に何をしろって?」

「その前に、ここから出ましょう」

「は?」

「“男と女は夢に別れを告げ、その白い世界を去った”」


    ・・

「――とうシキ、もう大丈夫――」


 ん……。ん……?

 誰だ――


「おはようございます」


 声をかけられて、俺はかすんだ目をこする。


「ここは……」

「国立公文書館ですよ」

「……は?」


 ようやく意識がはっきりとし始める。俺は書架にもたれかかって寝ていたようだった。

 あの古い本の匂いがよみがえってくる。

 顔を上げると、天口が俺を見下ろしていた。


「良い夢は見れましたか?」

「は? いや……夢?」

「そう、夢です。白熱した心理戦を繰り広げ、辛くも勝利する夢でも見ましたか?」


 俺はおそらくくしゃくしゃの顔で、自分の頭を掻きむしった。意味がわからん。


「ほら、立ってください」


 情けなくも、俺は天口の手を借りて立ち上がる。寝起きだからか、若干足元がふらつく。


「さ、それでは上司との顔合わせですね」

「上司……?」

「あなたにはこれから、“暦史書管理機構”の諜報員として働いていただきます」

 シェアワールド小説企画、コロンシリーズの参加作品です。

 http://colonseries.jp/

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