第九戦から第十戦
「第九戦」
言うなり、天口はカードを伏せた。
「突然アグレッシブになったな」
「先にも言いました通り、守っているわけにはいかなくなったので。このカードは、三かジャックのどちらかです」
俺は無言で天口の目を見据えた。応えるように、まっすぐな視線が返ってくる。嘘はついていないように見える。
では三の場合。僅差で勝てるし、四を合わせたいところだ。
ジャックの場合。ジャックで引き分けるか、エースで勝つか。どちらに転んでも、まだ勝負は決まらない……よな。
なら、ここは四だ。
仮にジャックを合わせられても、俺の残りのカードは九、ジャック、キング、エース。天口は三、五、クイーン、エース。
天口が勝ちをつかむための選択肢の幅は、かなり狭められる。今回も最善の手にたどり着けた。
俺は深く息を吐き、四を伏せる。
「オープン」
カードが同時に表になる。
「な……え……?」
俺のカードは四。そして天口のカードは……五だった。
「私の勝ちですね」
「お、お前! さっき三かジャックって!」
「言いましたね。しかしあれは嘘です」
俺は絶句した。そして自らの甘さに愕然とした。
「あなたはこれまでの私の言動から、私を良い人だと思い込みましたね? “決して嘘をつかず、自分の良いところを認め、母思いの自分のために仕事をくれる人なんだ”と」
そこまであからさまに良い人だとは思っていない。だが、“嘘はつかない”と思い込んだ。
いや……思い込まされた。
「シンさん、嘘とはこうやってつくものです。敵に近づき、誠実に振る舞い、時間をかけて“この人は大丈夫だ”と信じ込ませ、そして最も効果的なところで裏切る。……ね? 楽しいゲームでしょう」
天口の満面の笑みに、俺は震え上がった。
三勝五敗一分け。
次でもっともやってはいけないことは、エースに対して三を合わせられることだ。それをやってしまった瞬間、俺の負けは確定する。天口もそれを良くわかってるはずだ。
考えろ、今回ばかりは全パターンを……。
・・
「第十戦」
これはまずい。俺は確実にあと二勝以上しなければいけなくなった。
カードの質はかなり高くなっているから、勝てる可能性は高いが、負ける可能性も充分に高い。しかし最も高いのは、引き分ける可能性。
「もし、引き分けたらどうなる」
「最初に言った条件をお忘れですか? 私は“もしあなたが勝てば”と言いました。引き分けはゲーム上引き分けですが、あなたにとっては負けと同じですね」
俺はテーブルの上で拳を握り締めた。
残されたこのカードで勝負するしかない。
そしてそのためには、これから一手もミスできない。
考えた結果、勝つためのパターンは……一つしかなかった。
「どうしました? 私から出しましょうか?」
「いや……ちょっと待ってくれ」
どうする。どうやったら誘い出せる。
「……よし、決めたよ」
俺はゆっくりと、一枚のカードを伏せ、それをテーブルの中央へと滑らせた。
「このカードは、“お前も持っているカード”だ」
それはつまり、ジャックかエース。
「……なるほど。これは難しい二択です」
俺は静かに頷く。
有力な選択肢は二つある。
一つはエースを出すという選択。
残りの勝負、一度の引き分けが必ず必要になる。というか、言ってしまえば“ジャック同士で引き分け”なければいけない。でないと引き分けか負けだ。
ということは、俺の発言を信じるなら、あいつは絶対に“ジャックを出さない”。
天口がエースを出して、エースと引き分けても、ジャックに勝っても、俺は勝利条件を満たせなくなる。
もう一つは、三を出すという選択。
さっきの発言が天口のエースを誘うための嘘で、そこにキングを合わせた場合。
俺が本当にジャックかエースを出していた場合。
その双方に対応できるのが、三だ。
実はもう一つあるのだが、それは考えない。
この二択、普通なら後者を選ぶだろう。
しかし有力すぎるあまり、俺がそれをも読んで九を出している可能性もある。
窮地に立たされているのは俺だけじゃない。
この女も、もうそう簡単には間違えられないんだ。
「……お手上げです」
天口は諦めたように息を漏らし、カードを伏せた。
「オープン」
俺のカードは九。天口のカードは、三。
「ふうー……」
思わず、俺はずっと詰まっていた息を思い切り吐き出した。
三に九で勝つことは、絶対に間違えられない手の一つだった。
「第一関門クリアだ」
「見事です」
四勝五敗一分け。




