表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第九戦から第十戦

「第九戦」


 言うなり、天口はカードを伏せた。


「突然アグレッシブになったな」

「先にも言いました通り、守っているわけにはいかなくなったので。このカードは、三かジャックのどちらかです」


 俺は無言で天口の目を見据えた。応えるように、まっすぐな視線が返ってくる。嘘はついていないように見える。

 では三の場合。僅差で勝てるし、四を合わせたいところだ。

 ジャックの場合。ジャックで引き分けるか、エースで勝つか。どちらに転んでも、まだ勝負は決まらない……よな。

 なら、ここは四だ。

 仮にジャックを合わせられても、俺の残りのカードは九、ジャック、キング、エース。天口は三、五、クイーン、エース。

 天口が勝ちをつかむための選択肢の幅は、かなり狭められる。今回も最善の手にたどり着けた。

 俺は深く息を吐き、四を伏せる。


「オープン」


 カードが同時に表になる。


「な……え……?」


 俺のカードは四。そして天口のカードは……五だった。


「私の勝ちですね」

「お、お前! さっき三かジャックって!」

「言いましたね。しかしあれは嘘です」


 俺は絶句した。そして自らの甘さに愕然とした。


「あなたはこれまでの私の言動から、私を良い人だと思い込みましたね? “決して嘘をつかず、自分の良いところを認め、母思いの自分のために仕事をくれる人なんだ”と」


 そこまであからさまに良い人だとは思っていない。だが、“嘘はつかない”と思い込んだ。

 いや……思い込まされた。


「シンさん、嘘とはこうやってつくものです。敵に近づき、誠実に振る舞い、時間をかけて“この人は大丈夫だ”と信じ込ませ、そして最も効果的なところで裏切る。……ね? 楽しいゲームでしょう」


 天口の満面の笑みに、俺は震え上がった。

 三勝五敗一分け。

 次でもっともやってはいけないことは、エースに対して三を合わせられることだ。それをやってしまった瞬間、俺の負けは確定する。天口もそれを良くわかってるはずだ。

 考えろ、今回ばかりは全パターンを……。


    ・・


 「第十戦」


 これはまずい。俺は確実にあと二勝以上しなければいけなくなった。

 カードの質はかなり高くなっているから、勝てる可能性は高いが、負ける可能性も充分に高い。しかし最も高いのは、引き分ける可能性。


「もし、引き分けたらどうなる」

「最初に言った条件をお忘れですか? 私は“もしあなたが勝てば”と言いました。引き分けはゲーム上引き分けですが、あなたにとっては負けと同じですね」


 俺はテーブルの上で拳を握り締めた。

 残されたこのカードで勝負するしかない。

 そしてそのためには、これから一手もミスできない。

 考えた結果、勝つためのパターンは……一つしかなかった。


「どうしました? 私から出しましょうか?」

「いや……ちょっと待ってくれ」


 どうする。どうやったら誘い出せる。


「……よし、決めたよ」


 俺はゆっくりと、一枚のカードを伏せ、それをテーブルの中央へと滑らせた。


「このカードは、“お前も持っているカード”だ」


 それはつまり、ジャックかエース。


「……なるほど。これは難しい二択です」


 俺は静かに頷く。

 有力な選択肢は二つある。


 一つはエースを出すという選択。

 残りの勝負、一度の引き分けが必ず必要になる。というか、言ってしまえば“ジャック同士で引き分け”なければいけない。でないと引き分けか負けだ。

 ということは、俺の発言を信じるなら、あいつは絶対に“ジャックを出さない”。

 天口がエースを出して、エースと引き分けても、ジャックに勝っても、俺は勝利条件を満たせなくなる。


 もう一つは、三を出すという選択。

 さっきの発言が天口のエースを誘うための嘘で、そこにキングを合わせた場合。

 俺が本当にジャックかエースを出していた場合。

 その双方に対応できるのが、三だ。


 実はもう一つあるのだが、それは考えない。

 この二択、普通なら後者を選ぶだろう。

 しかし有力すぎるあまり、俺がそれをも読んで九を出している可能性もある。

 窮地に立たされているのは俺だけじゃない。

 この女も、もうそう簡単には間違えられないんだ。


「……お手上げです」


 天口は諦めたように息を漏らし、カードを伏せた。


「オープン」


 俺のカードは九。天口のカードは、三。


「ふうー……」


 思わず、俺はずっと詰まっていた息を思い切り吐き出した。

 三に九で勝つことは、絶対に間違えられない手の一つだった。


「第一関門クリアだ」

「見事です」


 四勝五敗一分け。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ