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第六戦から第八戦

「それでは第六戦」

「その前に一つ質問させてくれ。どうして俺が十二を出すと思った?」

「あなたを信用しているからです」


 天口の即答に、俺は面食らった。


「信用している? 俺を? ついさっき嘘をついて、CIAの情報も喋るような男だぞ?」

「それもすべて、お母さまのためなのでしょう? あなたは自分で思うほど、悪い人間ではありませんよ」

「……信用していると言うなら、次に出すカードも宣言しよう。九だ」

「わかりました」


 そう言うと、天口は迷いなく一枚のカードを伏せた。勝つつもりなら十のはずだ。

 俺は三のカードに手をかけて……迷った。天口なら、差を付けようと俺が三を出す可能性くらい考えるはずだ。何せこの手は二度目。俺の三を読んで四を出してくる?

 いや……天口は嘘をつくだろうか。これまでの五戦、あいつが嘘をついたことは一度もなかった。

 待て待て、あいつは“わかりました”と言っただけで、十を出して勝ちに来るというのは俺の予測でしかないのだから、嘘がどうのというのはただの妄想に過ぎない。三を出して差をつけて負けようとするかもしれない。


「……お前は、勝とうとしているか?」

「はい。私が勝ちます」


 天口はまっすぐに俺を見て言った。若干心が痛むが、俺もこの女を信用することにしよう。

 三のカードを伏せる。


「オープン」


 俺のカードは三。天口のカードは十。やはり、こいつは嘘をつかなった。


「また、してやられてしまいましたね」

「これでも信用するって言うのか?」

「ええ。あなたの行動にはある意味一貫性がありますからね」

「一貫性、ね……」

「でもいいのですか? 二勝四敗ですよ」


 いい、はずだ。

 俺の手札は四、六、八、九、ジャック、キング、エース。

 対して天口は三、四、五、六、ジャック、クイーン、エース。

 当初の予定通り、手札の質は俺の方が高くなってきている。

 だが、天口のこの余裕はなんだ。もしかして、ただの面接みたいなものなのか?

 そういえば、天口には絶対に勝たなければいけない理由はない。負けても良いと思っているのだろうか。

 それならそれで好都合ではあるが……この無表情が不気味だ。眼鏡の奥で、黒い瞳が鈍く光っている。


    ・・


「第七戦。さて、どうしましょうか」


 天口は手の中で残ったカードをシャッフルする。


「……一つ提案があるんだが」

「なんでしょう?」

「余ってるカードのうち、同じ数字のものを同時に出して処理しないか? 時間短縮になるだろう」

「それはお互いのカードが全部揃っている場合にのみ成立する取引です。カードの質に差がある以上、私の不利を加速させるだけですね」

「バレたか」


 やはり経験の差か、俺の思い付きは見破られてしまう。ここは相手のことを考えず、手札の質を高めることを意識してみよう。

 となると四か六だが、四はまだ差を生むために取っておきたい。相手の手札を考えれば、二分の一以上の確立で引き分け以上の結果が出る。


「これだな」


 少なくなってきた手札から、俺は六のカードを抜いて伏せる。

 それを見て、天口もカードを伏せた。


「オープン」


 俺のカードは六。天口のカードも、六だった。


「引き分けですね」

「なんだ、やっぱりさっきの取引に応じる気になったのか?」

「いいえ。極端な数字のカードを残したかっただけです」


 それを聞いて、俺の背筋に何か冷たい感覚が走った。

 これまで俺は、強いカードを温存していれば、終盤勝ち続けられると思っていた。

 だけど違う。

 例えば……そう、五枚だ。

 仮にAが一から五のカード、Bが二から六のカードを持っていたとする。

 一見Bが圧倒的に有利に思えるが、もしも。

 Aが一、Bが五。Bの勝ち。

 Aが二、Bが六。Bの勝ち。

 Aが三、Bが二。Aの勝ち。

 Aが四、Bが三。Aの勝ち。

 Aが五、Bが四。Aの勝ち。

 こうやって完璧に対応されれば、Aが勝つ。

 現状は数字の差も大きくて、俺の頭ではすべてのパターンを考えることはできないが……下手をすればこのまま負ける。

 俺の手札は四、八、九、ジャック、キング、エース。

 対して天口は三、四、五、ジャック、クイーン、エース。

 勝負が決まるのは、案外もうすぐなのかもしれない。


    ・・


「第八戦。いよいよ終盤に差し掛かってきましたね」

「ずいぶん余裕だな」

「ええ。このゲームが楽しいのはここからですよ」


 そりゃ負けても良ければ、ゲームを楽しむ余裕もあるよな。

 だが俺はそうはいかない。確実に勝つ必要がある。

 色々考えたが、やはり大きな差をつけて負けること、そして少ない差で勝つ必要があることは変わらない。

 そこでまた俺ははっとした。

 なるほど……俺は自分で自分の首を絞めていたらしい。

 こちらには大きい数字のカードばかりだが、相手には小さい数字のカードもかなり残っている。つまり、差をつけて負けやすい。

 こちらも差をつけるために四は使いたくない。ということは、八から消費していくべきか。

 見ると、天口は不敵に笑みを浮かべ、こちらを見ていた。この思考も、この女にはお見通しなのか。


「そろそろお前の方から出したらどうだ」

「そうですね。別に従う必要はないのですが、いいでしょう」


 天口はカードを伏せる。

 あのカードはなんだ。五以下なら八を出すしかない。ジャック以上なら……。

 そうか、やはりここは八でいい。ジャック以上の場合、俺はキングを出さないと勝てない。

 もしキングを出したら、相手が五以下を出していた場合の損失が大きすぎる。

 珍しくはっきりと結論が出たので、俺は八を伏せた。


「オープン」


 天口のカードは四だった。五であればなお嬉しかったが、まぁ悪くないだろう。


「三勝四敗一分け。次で追いつくかな?」

「試してみましょう」


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