第二戦から第五戦
「では、第二戦」
天口はまた迷いなく一枚を選び、伏せた。経験者にだけわかる定石のようなものがあるのだろうか。
「ああ、そうそう。言い忘れていましたが、このゲームは自由に会話をしてかまいません」
「会話?」
「ええ。例えば“そのカードはなんですか?”と聞いてみたり。それに対して正直に答えても構いませんし、嘘をついても構いません。トレーデキムはむしろ、この心理戦がメインとも言えます」
「……そういう大事なことは最初から言ってくれないか」
「申し訳ありません。お詫びに、私が今出したカードを教えて差し上げます。九です」
なんだこの女は……。今の話を聞いて、それを信じろと言うのか。
「それは本当か?」
「本当です」
俺は椅子に背を預け、深く息を吐いた。
この女は何を考えている。抜けているようで、その表情やたたずまいに隙は感じられない。
ここは……この女の性格を見極めるためにも、信じてみよう。十のカードを選び、伏せる。
「オープン」
天口のカードは九。言った通りだった。
「一対一ですね」
「ああ……」
負けてもあくまで天口は淡々としている。まだ序盤だからか……まさか、十のカードを使わせたかったのか?
いや、しかし消費したカードの合計値は同じだから、まだ戦力に差はないはず、だよな。くそ、数字は苦手なんだ。
「色々考えてらっしゃるようですね」
「腹が減ったなと思ってただけさ。……まさか心が読めるんじゃないだろうな?」
「まさか」
天口は真顔で言った。どこまでも読めない女だ。
・・
「第三戦ですね」
「……今度は先に出さないのか?」
「ええ。出すタイミングは特に決まっていません。言っていただければ、“せーの”で同時に出してもいいですよ」
「いや、いい」
カードが見えない以上出すタイミングを揃えてもしょうがない。やらなければいけないのは、次に相手が何を出すか考えることだ。
相手はすでに八と九を使っている。これ以上連続で大きい数字を出してくるとは思えない。ということは七以下か、それとも裏を読まれるか……。
ここは、二か。次に相手が三を出してくる可能性は限りなく低いはずだ。上手くいけばかなり差をつけて負けられるはず。
俺は二を選び、伏せた。
「今伏せたカードを教えてやる。六だ」
「六ですか。なぜ教えてくれたのですか?」
「ルールの説明が遅れたとはいえ、さっきの勝負はフェアじゃない。一戦目の勝敗に心理戦はほぼ無関係だったしな」
「なるほど。本当に六ですか?」
「本当だ。さすがに強いカードを献上する気にはなれないが、六くらいなら問題ないだろう」
「わかりました」
天口もカードを伏せる。
「オープン」
俺のカードは二。天口のカードは七。
「……嘘つきです」
「悪いね。だがルール上問題ないはずだ」
「そうですね」
天口は言いながらカードをはける。よし、一勝二敗だが、これでかなり得をしたはずだ。
・・
「第四戦」
次はどうする。相手の消費カードは七、八、九の三枚。中堅層がかなり消えている。
俺が二を出したことを考えて、三読みの四で来るだろうか。……あり得る。四は三読みだけでなく、俺のカードに差をつけて負けられる可能性も高い。
「私はこれで」
考えているうちに、天口が先にカードを伏せた。裏をかかれる可能性はあるが……。裏を考え始めるときりがない。直観に賭けよう。
俺は五のカードを伏せた。
「オープン」
相手のカードは二。読みは外れたが、それほど差がない数字で勝ち点を増やせた。悪くない。
「二勝二敗ですね」
「ちっとも悔しそうじゃないな」
「すいません、あまり表情に出ないタイプで」
「ちなみにどういう読みだったんだ?」
「さっきは極端に小さな数字だったので、今度は極端に大きな数字が出るのかなと」
「なるほど」
俺が思っている以上に、この女は単純なのかもしれない。
・・
「第五戦。次はどうしますか?」
「さてね……」
なんとなく手札を眺めながら、俺は考えを巡らせる。
まだカードは上から下までまんべんなく残っている。一方で、天口のカードは偏りつつあるはずだ。七から九の三枚が穴になっている。ということは、六以下か十以上か、この二択になる。
「次に出すカードは、六以下か十以上、どっちだ?」
「お答えできませんね」
「ふむ……じゃあ好きな数字は?」
「そうですね……十二でしょうか」
「どうも」
それで何がわかるというわけでもないが、一つ気づいたことがある。“喋る”というのは、心理戦における攻撃だ。守りたいなら相手に手の内を明かさない。天口が喋ったということは、その情報によってこちらをコントロールしようとしているということだ。
……まぁ、どうコントロールしようとしているのかはわからないが。
これは考えるだけ無駄だな。相手の心を読めるわけじゃあるまいし。運に頼らず勝ちを引き寄せるためには、攻撃するしかない。
「十二が好きって言ったな」
「ええ」
「なら十二をあげよう」
俺は一枚のカードを伏せる。
「また嘘ですか?」
「お答えできませんね」
やり返してやると、天口は初めて口の端に笑みを浮かべた。そして、カードを伏せる。
「オープン」
同時にカードが表になる。俺の数字は十二。そして……。
「私の勝ちですね」
天口のカードは十三。俺の負けだった。
「ですがとても良い手です」
「どうも」
なぜこれが良い手かというと、その理由は相手のキングを使わせたことにある。
これで俺のキングに勝てないカードはない。同時に、エースも無敵のカードになった。二回の勝ちが確定したことになる。
「これは、守っているわけにはいかなくなりましたね」




