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俺と緋乃さんの魔法部隊  作者: 空乃そら
第1章 相談事
5/49

5.


 ――と、思っていたのだが。


 緋乃さんは急に真面目な顔になると、真っ直ぐに俺の眼に視線をあわせてきた。この話については嘘偽りなく、きちんと話すという意思表明だろうか。とにかく緋乃さんが真剣に話してくれるつもりなら、こちらもちゃんと聞かなければいけないだろう。


 「シローさんは魔女の手によって殺されました」


 緋乃さんは一度眼を閉じて、一呼吸置いてから、そう言った。


 「魔女?」


 「はい、魔女は未来では有名な犯罪組織で……。シローさんはその組織のリーダーにやられてしまったんです」


 つまり魔女という名前の犯罪組織の一番強い相手に殺されてしまった、ということか。


 「本当ならシローさんは負けなかったはずなんです。でも騙まし討ちされて……。私たち、部隊の全員を逃がすために時間稼ぎを……」


 言いながら涙ぐむ緋乃さんを尻目に、俺はガラでもないことをしたんだなあ、なんてことを考えていた。とはいえ、このまま緋乃さんを放置するわけにもいかず、俺はポケットからハンカチを取り出すとそれを向かいの席へと差し出した。


 「ありがとうございます……」


 緋乃さんは涙声でそう言いながら受け取ると、目元を吹き始めた。それからコーヒーを飲み干すと、ペコリと頭を下げる。


 「ごめんなさい、みっともないところをお見せしてしまって……。もう結構な月日が経つんですけど、それでもまだ心の整理が十分に出来てなくて」


 「いや大丈夫だよ」


 未来を知らない俺が変な風に慰めるよりそっとしたほうが懸命だろうと思い、それ以上追求するのはやめておく。


 「えっと、話を元に戻しますね」


 緋乃さんは深呼吸してからそう言い、続きを話し始めた。


 「それで……、シローさんが作ってくれた時間を無駄にするわけにはいかないって、部隊全員で逃げたんです。でも相手も強くて、その途中で私が呪いを受けてしまったんです」


 「呪い?」


 「はい。それが魔女のリーダーの少女の魔法なんです。呪いを相手にかける能力です」


 「呪い……か」


 一概いちがいに呪いといわれても、正直どんな力か想像するのが難しい。というか呪いなんて種類の魔法自体初めて聞いた。もしかしたら、そのリーダーの少女はレアな力の持ち主なのかもしれない。というか……、


 「少女? たしか魔女は犯罪組織なんだよね?」


 俺の聞き間違いじゃなければ、犯罪組織の一番偉い人が少女ということだ。もちろん呪いなんて魔法からして、その少女がかなりの力を持っているはずだ、というのはわかるが……。そんな子が犯罪に自ら加担しているなんて信じられなかった。しかも、大人から見ればまだまだ子どもである緋乃さんが「少女」というくらいの年代、ということだろう。


 「そうです、見た目は小学生くらいでしょうか……。私たちも最初はそんな子どもが犯罪に関わっているとは思っていなかったんです」


 まるで俺の心を読んだかのような返答に少し驚いたものの、緋乃さんはそんな俺の様子には気がついていないようで、そのまま話し続けた。


 「抗争中のど真ん中に女の子がいて、私たちは慌てて声をかけたんです。そしたらいきなり呪いをかけられて、そのうえ魔女のメンバーが次々に現れて……。それが先ほど言っていた騙まし討ちです。だからシローさん、そのくらいの女の子には気をつけてくださいね」


 「なるほどね……。でもそれは未来の話だし、まだその子は生まれてないんだから気をつけようがないと思うんだ」


 「えっと……、その通りですね……」


 実は少し前から思っていたが、緋乃さんは若干天然なところがあるようだ。


 「ごほん、少し話が脱線してしまいましたね。それでシローさんにはその呪いを解いてほしいんです」


 「まあ、頼みってのはわかった」


 未来の――緋乃さんが本来いた場所の俺が死んでしまい、過去の俺に呪いを解いてほしいということはわかった。緋乃さんは触れなかったが、危険を冒してまで過去に来たということは未来でその呪いを解くことが出来る人がいなかったのだろう。そして未来では頼れる上司らしい俺ならあるいは、と過去に来たわけだ。そこまでは理解できた。


 ――でも。


 「なんで『今』なんだ?」


 そう、なぜこの時間軸を選んだのか。緋乃さんは未来の俺に頼めない理由、自分の頼みについて説明してくれたが、今の俺に頼む理由については触れていない。ただ呪いを解いてほしいだけなら、殺される少し前の俺でもいいはずだ。というか、むしろそっちのほうが呪いも確実に解けるし、魔女の騙まし討ちを警戒することも出来るだろう。過去の俺にここまで話しておいて、未来を変えてしまう可能性が、なんて言い出すことはないだろうし。


 「えっと実は、その、別に今のシローさんでなくてもよかったんです……」


 緋乃さんはそんな俺の質問にとても言いにくそうに答えた。


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