42.
「……言うべきことはもう言いました」
『いやいやー。それじゃ半分しか話してないよ? ちゃんと未来の宗方志郎を救うために今のあなたを殺さなくちゃいけないって説明してあげなきゃ』
未来の俺を救うために、今の俺を殺す? 魔女の話を鵜呑みにするつもりはないが、緋乃さんの反応から見て俺達に何か話していないことがあるのは間違いない。あるいは俺がそう思いたいだけか。
『あのねー、緋乃からは未来で宗方志郎は殺されたって聞いてると思うけど、実はまだ死んでないんだよねー。とはいえ無事ってわけでもないんだけどー』
一体それがなんだというのか。だが、俺が未来で殺せなかったから過去の俺を殺すことにした――なんて単純な話ではない気がする。
「待ってください、そんなこと言う必要ないはずです! 私がお二人をここで殺せばそれで終わりじゃないですか」
『えー、でもきちんと説明したいって言ったのは緋乃だよー? ならちゃんと最後までしないとだってー』
緋乃さん自身はどうやら話に触れられたくないようだが、魔女は話す気満々のようだ。そんなやり取りを聞きながら、ちらりと隣を見ると沙紀は話を聞きながらも油断なく木刀を構えていた。どうやら沙紀もどうしたらいいかわからず、とりあえず様子を見ているようだ。
『私がMCPを襲撃したのは聞いてるんだよねー? そのときに宗方志郎は殺さずに捕まえておいたの。仲間にできないかなーって思ったんだー』
緋乃さんに最初に聞いた話。未来の俺が魔女に騙し討ちされたんだっけ。ということは緋乃さんは最初から魔女の仲間だったわけじゃなく、本当にMCPのメンバーだったのか。
『でもね、なかなか強情で仲間になってくれなかったの。だからいろいろしたんだけど、それでもダメだったんだー』
ぞくり、と背筋が震えた。敵に捕まりいろいろされる。その言葉の意味するところはひとつしかないだろう。それを将来の俺がされると考えるとぞっとする。
そんな俺を見て沙紀が半歩前に出た。そんなことはさせない、シローは自分が守るという意思表示だろうか。それが何だか妙に嬉しかった。そして俺も、沙紀も、緋乃さんも黙って魔女に続きを促す。あれほど嫌がっていた緋乃さんも諦めたのか、もう口を挟もうとはしなかった。
『だからね、緋乃に言ってあげたんだー。もし過去の宗方志郎を殺せたら捕まえた宗方志郎を逃がしてあげるって。そうすれば宗方志郎は最初からいなかったことになって、MCPにやられた仲間たちが生き返るはずだからー。仲間には出来なくても魔女の戦力は増えるってわけだねー』
そういうことだったのか……。つまり緋乃さんは本当にMCPの一員で、俺のことを尊敬してくれていた。そして未来の俺が魔女に捕まり、緋乃さん自身も夢の呪いを受けてしまった。そこで魔女が過去の俺、つまり今の俺を殺せば未来の隊長だった俺を逃がすと言ったわけだ。
それを聞いて何だか少しだけ安心する。緋乃さんは本当に魔女の仲間で犯罪をするような人じゃなかったということだから。
――いや待て。おかしくないか?
安堵したのもつかの間、俺のなかに疑問が生まれた。魔女の話だと、過去の俺を殺せば未来で倒された魔女の仲間は生き返る。そりゃそうだろう、未来で仲間たちを倒した俺がその時点では既に死んでいることになるのだから。それなら確かに未来の俺を殺すよりも過去の俺を殺してしまったほうがいいのは合点がいく。だが、それだと魔女の交換条件である捕まっている俺自身が存在しなくなるわけだから意味がないんじゃないだろうか。いくら抜けているとはいえ、緋乃さんがそのことに気が付いていないわけないと思うのだが……。




