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「簡単に言うと眠らせることが出来るんだが……これには対象者の了承が条件になってるんだ。だから試験を始めるときはそういうことで頼む」
「あ、はい。わかりました」
お茶をすすっていた緋乃さんは顔をあげると、ぺこりと頭を下げる。
「それでふたつの能力だが、対象者以外の人間に同じ夢を視せることが出来る。まあ、三人でひとつの夢を視ると思ってくれ。ちなみに俺の意志でいつでも起こすことが可能だ。危険と判断したら起こすからな」
「了解だ」
「最後は対象者の夢を視ることが出来る能力だが……まあ、これはキミたちには関係ないので説明は省略しておく。あと、出来れば俺の魔法のことは他の人には言わないでもらえると助かる」
「わかった、誰にも言わないよ」
どんな事情があるにせよ、協力してもらう以上そのくらいお安い御用だ。
「ありがとう。じゃあ、さっそく始めるんだろう?」
「ああ、お願いするよ。準備はいいか?」
「はい。いつでも大丈夫です!」
「私もオッケーよ、シロー」
俺たちは立ち上がると、それぞれ武器を手に取った。全員準備は万端のようだ。
「よしじゃあ星野さんはそのソファー、柊さんはこっちのにそれぞれ寝転がってくれ。宗方は悪いが床で頼む」
「わかった」
さすがに二つしかないソファーを女性陣を差し置いて俺が使うわけにもいかないので、素直に従う。二人は俺に謝罪の言葉を述べると、それぞれソファーに横になった。
「じゃあ、校長先生。始めますよ」
「お願いするよ。みんな頑張ってね」
俺はそんな校長先生の声を聞きながら、眼をぎゅっと閉じてバットを力強く握った。
――ここまできたら乗りかかった船だからな。試験に合格して、緋乃さんの呪いを解いてやらないと。
「じゃあ始めるぞ。今からお前達三人を寝かせるがいいな?」
「ああ」
「いいわ」
「お願いします」
三者三様に返事をする。これで三林の言っていた魔法の発動条件をクリアしたはずだ。
「よし行くぞ! ――夢視!!」
そして次の瞬間。あたりが光に包まれたと思ったときにはすでに緋乃さんの夢のなかに入っていた。
※
ゆっくりと眼をあける。暗い。それが最初の感想だった。まるでまだ瞳を閉じているかのような錯覚に陥る。しかしここが夢なのか。緋乃さんはこんな寂しい空間でいつも戦っていたんだな……。
そんなことを思いながら足元に気を付けて歩いていると不意に手の甲に何か柔らかいものが当たった感触があった。
「……っ!」
びくりとして手を引っ込める。思わず声が出そうになるが、夢では声を出さない。それが決め事だ。
そしてどうやら俺に当たってきた方も予想外だったらしく、息を呑むのがわかった。攻撃をしてくる様子もないので、どうしようかとその場で固まっているとだんだん眼が慣れてその姿を認識することが出来た。
「…………」
沙紀だった。まあ攻撃してこない時点で緋乃さんか沙紀かなとは思っていたが。
俺と沙紀は無言で顔を合わせると、どちらからともなく手を繋いだ。あくまで暗くて声を出せない状況だから仕方なくというのはわかっているが、何となく緊張してしまう。
「…………っ」
何となく沙紀のほうも顔が赤くなっている気がするが、この暗闇だし気のせいだろう。まさか沙紀が俺相手に意識するはずもないし。
そしてそんなことを考えていると突然バッという効果音が聞こえてきそうな勢いで辺りが明るくなった。
俺達は何となく気恥ずかしくなってすぐに手を離す。
『あのー、ここでそんなラブコメされても困るんですけどー』
それと同時に上空からそんな可愛らしい少女の声が響く。思わず見上げるがそこには漆黒が広がるばかり。どうやら明るくなっているのは地上だけのようだ。そして今さらながらに気が付くが辺りにはジェットコースターやメリーゴーランド。まるで遊園地にいるような感覚に陥る。




