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俺と緋乃さんの魔法部隊  作者: 空乃そら
第3章 条件
34/49

34.


 「どうしてこんなところにいるんだ⁉」



 「ちょっとお弁当を届けに……。予想以上に戦うことになってしまいましたけど」


 お弁当箱をひょいとかかげながら、緋乃さんが苦笑い。その意味深な物言いの答えは先ほど緋乃さんが来た方向に広がっていて、思わず俺も乾いた笑みを浮かべる。



 「あはは……。これ、緋乃さんが……?」



 後方を指しながら聞くと、緋乃さんは小さく頷く。そこには何人もの生徒が倒れており、生徒たちをせっせと回収している先生たちが眼に入った。



 「教員の方々に説明しようとも思ったんですけど、ここまで来たらシローさんのところに行ったほうがいいかなと思いまして……って、沙紀さん! その怪我はどうしたんですか⁉」



 よく後ろであんな大規模な戦闘が行われていて気がつかなかったな、とか思っていると沙紀の怪我に気がついた緋乃さんがそう声を荒げる。そして次に男子生徒をギラリと睨みつけ、



 「あなたがやったんですか?」


 「いや、その……」



 さすがに男子生徒も会話の流れから、後ろの惨状を緋乃さんがやったとわかったのだろう。ジリジリと数歩下がるとそのまま一気に走り出した。



 「逃がしません! 灼熱弾丸カフシィ・スフェラ!」



 緋乃さんがそう言いながら指をピンと立てると、そこから青白い光が凄い速さで飛んでいった。それが男子生徒の背中に直撃すると、「あちちちっ!」と言いながら背中に手を回そうと必死になっていた。緋乃さんはそれを見ながら続けざまに数回魔法を発動させると、


 「威力少なめ、火力上昇にしておきました。しばらく熱さに苦しんでください」


 などと言っていた。ちなみに男子生徒は泣きながら背中を地面にこすり付けていた。……緋乃さんを怒らせるのはやめておこう。



 「緋乃ちゃん、なんで……」



 沙紀はフラフラと歩きながら、日本刀を消していた。そんな様子を見かねてか、緋乃さんはすぐに沙紀の元に駆けつけると肩を貸す。



 「大体はさっき言った通りです。お二人のお弁当届けに来て、そしたらこの実戦に巻き込まれちゃって……」



 緋乃さんはそのまま何があったのか詳しく教えてくれた。


 「そっか、ありがとう。緋乃ちゃん」


 「いえ、それはいいんですが……。実はここに到着するまでにかなりの生徒の方を倒してしまったような気がするんですが、大丈夫ですかね……?」


 「気がするってレベルじゃないけどね」



 三人揃って苦笑いを浮かべる。俺が見ただけでもあの人数なのだから、実際にはもっと多くの生徒たちを戦闘不能にしているのだろう。正直少し半信半疑だったが、緋乃さんは本当に未来のMCPのメンバーだったようだ。そりゃ、候補生が現役のメンバーには勝てないよなあ……。



 「ところで緋乃さん、さっき攻撃するのに魔法使ってたけど……。緋乃さんの魔法は捜索系じゃなかったのか?」



 本来は相手の魔法について質問するのは礼儀知らずもいいところだが、どうしても気になったので聞いてみることにする。魔法の能力を偽っていたのなら、理由を知りたいところだ。



 「あ、捜索系の魔法も使えますよ? 私、二重保有者ダブル・ホルダーなんです」


 「なんだって⁉」



 原因は判明していないが、普通魔法はひとり一つしか扱うことしかできない。大体の人は物心がついたころに魔法が使えるようになり、生涯をその魔法と共にすると言っても過言ではない。しかしそんな法則を乱す例外、それが二重保有者ダブル・ホルダーだ。二重保有者ダブル・ホルダーと呼ばれる者はなぜか二つの魔法を扱うことができ、現時点での保有者は数十人しかいないと聞いたことがある。しかしもし緋乃さんが二つの魔法を持っているのならば、この歳でMCPのメンバーというのも納得がいく話だ。



 「そっか、緋乃ちゃん二重保有者ダブル・ホルダーなんだ……」


 「はい。でもたいした能力でもないですし、ただ二つの魔法が使えるってだけですよ」



 「いや、それでも凄いよ」


 「そ、そうですか? ありがとうございます」



 俺の言葉に緋乃さんが照れたような笑みを浮かべる。



 「さて、世間話はそこまでにして……。これからどうするべきか決めないとね」



 「どうするもこうするも……。お弁当ももらったんだし、緋乃さんには帰ってもらえばいいだろ?」



 「でもこれだけのことしちゃったんだし、そのまま何の事情も説明しないままってわけにもいかないでしょ?」


 「それもそうか……」


 「あの、すいません……」



 俺たちの話を聞いていた緋乃さんが申し訳なさそうに頭を下げる。



 「いや緋乃さんのせいじゃないよ。お弁当を忘れた俺たちが悪いんだし。むしろありがとうかな」


 「そうよ。ありがとう、緋乃ちゃん」



 「いえ、そんな……。こちらこそありがとうございます」



 三人がお礼を言い合う姿は少しおかしい気がしたが、同時に微笑ましいなと思った。



 「それで、近くにいる先生に事情を説明してみるか?」



 何にせよ、沙紀の言うように先生に説明する必要はあるだろう。たぶん正直に話せばわかってもらえると思う。だが問題は俺と沙紀が同時にお弁当を忘れたことと、緋乃さんとの関係だ。何もかもを正直に話してしまえば寮の規則を破ったことはもちろん、緋乃さんの未来のことまでバレてしまうかもしれない。それだけは避けなければならないが……。



 「すべてを正直に言うわけにはいかない……よな?」



 「そうね。とりあえず緋乃ちゃんはあたしの従姉妹ってことにして……、不本意だけど今日はシローのお弁当を作ってくる約束をしてたってことにしましょうか。それなら二人のお弁当を届けにきたって不思議はないし」



 「それじゃあ、私はそれを忘れたお姉さんにお弁当を届けにきて巻き込まれてしまったってことですね?」



 「そうそう」


 どうやら二人もバレてはいけない事情のことはわかっているようで、思っていたよりスムーズに話がまとまってしまった。とにかく、さっき決めたことを説明しなければ。


 「ところで沙紀、お前の怪我もあるし俺たちは棄権ってことでいいよな?」


 「そう、ね……。緋乃ちゃんに肩貸してもらわないと満足に歩けないし、仕方ないかあ」


 「私もそうしたほうがいいと思います。あ、教員の方いましたよ!」



 緋乃さんに言われて視線を向けると、話しながらゆっくりと歩き出していた俺たちの前にジャージ姿の男の先生がいた。背中に同じくジャージ姿の女子生徒を背負っているところを見ると、気絶してしまった生徒を校舎内に連れて行く途中のようだ。



 「先生!」



 とりあえず魔法かなにかで遠くまで行かれては困るので、まだ先生との距離があったがそう呼びかけることにする。先生は俺の声を聞いて振り向くと、こちらが到着するまで待ってくれた。しかし、


 「あの先生、俺たち――」



 「……宗方志郎、柊沙紀、そして星野緋乃。校長先生がお待ちだ、ついて来い」



 俺たちが事情を説明するよりも早く。そう冷たく言い放つと、そのまま校舎内に向けて歩き出してしまった。


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