26.
「これは、凄いですね……」
私の目の前に広がるのは坂之上高等育成学校。昨日も訪れているが、シローさんに早く会わなければと思っていたのでこんなにじっくり見ている暇はなかった。それは一言で表すなら壮大としか言いようのない大きさ。もちろん普通に考えれば学校なのだから大きいのは当たり前だが――どう考えても普通の比じゃない。
「これが育成学校、ですか……」
――育成学校。それはMCP候補生を育成するための学校だ。私は幼い頃からMCPに所属していたのでこういった学校には通っていないが、MCPの育成には政府がかなり力を入れており普通の学校よりもかなり設備がいい。……という話は前々から知っていたが、まさかここまで待遇がいいとは思っていなかった。
「っと、早く行かないとですね」
思わず学校に眼を奪われてしまっていたが、時間が時間なので少し急がなければならない。お昼休みが終わってしまったら手遅れになってしまう。
「おい、そこのお前!」
そう思って足を進めようとしたとき、不意に背後からそう声がかけられた。もしかしたら学校の警備員の方かもしれない。もしそうなら事情を説明しなければ、などということを一瞬で考えながら振り返る。するとそこには、ガタイのいいジャージ姿の男性が立っていた。年は若いことがうかがえるが、威厳のありそうな風貌は学生らしさを感じさせない。きっと教員の方か警備員の方だろう。どちらにせよ事情を説明しなければならない。
「あの、私は」
「実技の授業が嫌だからって、私服に着替えてまでサボるのは関心しないぞ!」
「え……?」
実技の授業? サボる? この人は一体なんの話をしているのだろう。
「さあ、こっちに来い」
私が混乱していると、男性はいきなり私の手を取って歩き始めた。どうやら話から察するに、この人は私を生徒と勘違いしているようだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! 私はここの生徒じゃなくて……」
「学校にいる年頃の女子が生徒ではないわけないだろう。俺は学級委員長としてサボりを許すわけにはいかん」
しかし男性は私の話に聞く耳を持っていないようだった。というか、このナリでどうやら生徒、それも学級委員らしい。とりあえず人を見かけで判断してしまったことを心のなかで謝罪。
「いや本当なんです。私はお弁当を届けに……」
「まったく、今度はそんな作り話までするのか。観念しろ。お前たちが授業をサボるためにわざわざ私服を用意して、部外者を偽ってることは知っている」
「そんなことをする生徒がいるんですか?」
「いるも何も、まさにお前のことじゃないか。そんなことをしてもすぐにバレるというのに……」
どうやらMCP候補生を育成する学校といっても、全ての生徒が真面目にMCPに入ろうとしているわけではないようだ。しかしそう思われてしまった以上、彼は私の話を聞いてくれないだろう。
さて、どうしましょうか……。
そしてそんなことを考えてるうちに、男性――学級委員長は私の手を引っ張ったまま早足で歩き出してしまったのだった。




