25.
※
「あ」
そのことに気がついたのは、シローさんと沙紀さんを送り出してからしばらく経った頃だった。机のうえに置かれた2つの布に包まれた箱。今にも良い香りが漂ってくるような気がするその箱は――、
「お弁当箱……」
どうやら忘れていってしまったようだ。そんなことを考えながら、ちらりと時計を確認する。時刻はもう十一時過ぎ。お昼休みが何時からはじまるのか、正確な時間まではわからないがそろそろお腹が空く時間帯だろう。
「……届けることにしましょう」
お二人がお弁当を忘れたのは言わずもがな、今朝ドタバタしてしまったせいだろう。そしてその原因を作ったのは自分。シローさんは気を遣わなくていいと言ってくれたが、自分が原因なら話は別だ。
「知り合い探索」
私はそう決めると魔法を発動させた。私の魔法――知り合い探索は関わったことのある相手の位置や個人情報を知ることの出来る能力だ。シローさんたちは学校にいるだろうが、もしお弁当に気が付いて戻ってきたりしていたら行き違いになってしまうかもしれないので、一応のためどこにいるのか把握しておくことにする。
「……坂之上高等育成学校、二年A組。あ、沙紀さんも同じクラスなんですね」
シローさん、沙紀さんともに、現在地を捜索すると二人の結果は同じだった。これならばひとつの場所にしか行かなくていいので手間が省ける。
「でも勝手に学校に入っていいんでしょうか? それとも事務員の方とか探したほうが……? まあ、その辺は向こうに着いてから決めましょう」
考えてもしかたないことなので、私は身支度を済ませると学校に向かう準備をする。実はシローさんが家を出て行ってからすぐにシャワーを浴びさせてもらったので、支度にたいして時間はかからなかった。沙紀さんには申し訳ないが、お借りした寝巻きは血だらけになってしまったので処分した。というのもシローさんが部屋を出て行くときに、
『そういえば沙紀が言ってたんだけど、その寝巻きは捨てていいってさ。本当は緋乃さんをその血だらけの服から着替えさせてやりたかったんだけど、夜は人の出入りが多くなるから沙紀が服を取りに行って俺の部屋から出てくるところを見られても困るし、緋乃さんは服を一着しか持ってないしで出来なかったんだ』
それからシローさんは小さく笑って『俺の服ならあったけど緋乃さんは嫌がるだろうし。とにかくそんなわけでごめんな』と言ってくれた。
もちろん私としてはシローさんの服でも構わなかったが、しかしお二人から借りた服に私の血が付いてしまうのは申し訳なかった。けれど今さらそんなことを言ってもどうしようもないので、お言葉に甘えることにしたのだ。
「学校に着いたらまず沙紀さんにお礼を言わないとですね」
ちなみに私の服は昨日のうちに洗濯していて、すでに乾いているので今はそれを着ている。履物は昨日ブーツの紐が切れてしまったので、適当に置いてある靴を履くことにする。勝手に使うことになってしまうことに申し訳のなさを感じるが、お弁当を届けるためにはやむをえないだろう。きっとシローさんも許してくれるはずだ。
「さて、じゃあ行きましょう」
私は誰に言うわけでもなくそう言うと、颯爽と玄関を飛び出した。




