23.
※
何か暖かいものに包まれている気がする。この暗く、何もないところにでさえ届くその温もりはなぜかとても優しいもののような気がした。
「緋乃さんっ!」
不意に私を呼ぶ声が聞こえてきた。その声はこの暗闇から抜け出す道しるべかのように、真っ暗な空間を照らし出す。その光に縋るように手を伸ばす。
「シ、ロー……さん?」
ゆっくり眼を開くと、心配そうにこちらを覗き込むシローさんと沙紀さんの姿があった。普段より近い位置にあるシローさんの顔。それを意識した途端、意味もなく体が熱くなるのを感じた。もしかしたら今、私の顔はゆでだこみたいになっているかもしれない。
「緋乃ちゃん、大丈夫? ずいぶんうなされてたみたいだけど……」
しかし、どうやら沙紀さんはそのことに気がつかなかったようだ。私は心のなかで安堵しながらこくりと頷く。
「はい、大丈夫です!」
もちろん嘘だ。でも夢の内容を二人に話したところで何もならないし、何より心配をかけたくなかった。ただでさえ私がいることで迷惑をかけているのに、これ以上迷惑をかけてしまったら申し訳なさ過ぎる。
――やっぱり二人に迷惑はかけられないです……。
心のなかでそんなことを思いながら、なんとか体の震えを止める。正直なところ、昨晩の夢は最悪の一言だった。あそこまで嫌な夢は初めてだ。だからこそ二人の姿を見たときは嬉しくて少し泣きそうになった。ここに――こんな暖かい場所に帰ってこれたと。しかし、それだけに心配をかけさせたくなかったのだ。そのため涙も泣き言もぐっとこらえ、いつも通りに振舞う。
「本当に大丈夫? 顔色も悪いし、病院とか……」
だがどうやら顔色までは変えることが出来なかったらしく、沙紀さんはそう言ってくれた。しかし今日は平日なので普通に学校もあるはずだし、あまり時間を取らせるわけにもいかない。
「はい、平気ですよ。でもちょっと寝たりないので、もう少し横にならせてもらってもいいですか?」
もちろんもう一度寝るつもりなどさらさらないのだが、こうでも言わなければずっと心配させてしまうことになるかもしれない。たった一晩一緒にいただけだが、それでも二人がどれほど優しいかはわかっていた。
「それはもちろんいいけど……」
「ありがとうございます。というか、それよりそろそろ学校に行く時間じゃないんですか?」
そう言いながらちらりと時計を確認する。壁にかけられた大きな時計の指す時間は八時三十分。二人の学校が何時に始まるのかはわからないが、そろそろいい時間だろう。




