12.
でも確かに沙紀の言うことには一理ある。俺も話を聞いたときは耳を疑ったほどだし。
「だからシローや緋乃ちゃんだっけ? があたしに嘘をついてないのは何となくわかるんだけど、全部の話を簡単に鵜呑みにすることは出来ないかな」
「それでも、たとえ全部じゃなくても信じてもらえて嬉しいです。それに通報しないでくれるだけでもありがたいですし……」
「え? あたし通報しないなんて言ってないけど……」
「えぇ⁉」
「あはは。冗談よ、冗談! あたしも協力できることあったら力になるから許して」
「沙紀は相変わらずだなあ」
俺の幼馴染はいつもこうだ。優しいというか、おせっかいというか……、困っている人がいると放っておけない。しかも面倒見までいいから、ちゃんと最後まで付き合ってくれる。俺も何度もお世話になってるし、今日もこうしておすそ分けを持ってきてくれた。本当、沙紀には感謝してもしきれないな。
「ところでさ、緋乃ちゃん。話を聞いた限りじゃ、頼みごとをするのは別に今のシローじゃなくてもいいのよね?」
と、内心で沙紀に感謝していると唐突にそんなことを言い始めた。正直、いくら事実だからって本人の前でそんなこと言わなくてもいいのにと思う。沙紀は俺がガラスのハートの持ち主って知らないのかな……。ほら、緋乃さんが言いにくそうに俺のことチラチラ見てるし。
「俺のことなら気にしないで大丈夫」
このままでは話が進まないのでそう言うと、緋乃さんは本当に申し訳なさそうに頷いた。沙紀にも緋乃さんのこういうところは見習ってほしい。
「はい。シローさんには悪いですけど、正直もう少し未来のシローさんのほうが良かったです……」
「……………………」
「あ、えっと、でも今はこの時代のシローさんで良かったと思ってます! 優しいですし、頼りになりますし!」
ああ、何でだろう。またしても素直に喜べないや……。
「ほら、シロー。そんな落ち込まないの! 未来に期待出来るってことなんだから。それより、緋乃ちゃんの問題なんとか出来るかもしれないわ」
「えっ!」
「本当ですか⁉」
俺と緋乃さんの声が被る。もしそれが本当なら落ち込んでる場合じゃない。
「というか、なんでシローが驚いてるのよ……。本当ならあんたが一番最初に思いつく方法でしょうに」
「俺が?」
「うん。ほら、つくもちゃんよ」
「あ!」
そこまで聞いて俺にも理解できた。妹のつくも。あいつなら確かに何とか出来るかもしれない。
「えっと、どういうことですか?」
俺はひとりだけ置いてきぼりになっている緋乃さんに説明することにした。
「ああ、俺にはつくもって妹がいるんだけどな。つくももタイムリープ出来る魔法を使えるんだよ」
タイムリープ――過去や未来を行き来できるかなりレアな魔法だ。緋乃さんが過去に来たのもこの系統の魔法だろうし、同じ要領で再び未来に行くことも可能なはずだ。まあ、強力な魔法なぶん負担も大きいのが難点ではあるけれど……。
「でも、それが何の関係があるんですか? もう一度未来に行くにしても、今度もその時代にシローさんがいるとは限りませんし……」
「それがね、つくもちゃんはいつ・どこにタイムリープするか決められるの」
そう、そこが緋乃さんの母親とつくもの魔法の大きな違いだ。話を聞く限り緋乃さんの母親は未来・過去、どちらかの時間軸へ移動することは出来るが、いつ・どこかという細かい点までは選べない。それに比べてつくもは未来・過去はもちろん、いつのどこにタイムリープするかまで決めることが出来る。つまり――、
「シローさんの妹さんに頼んで、シローさんが亡くなる少し前にタイムリープしてもらえれば……」
「うん。呪いも解けるし、魔女のことも注意することが出来るわ」
「す、凄いです!」
「まあ、そのつくもに頼むのが一番の難関なんだけどな」
「つくもちゃんだしね……」
何も知らずに喜ぶ緋乃さんを尻目に、俺と沙紀は苦笑いを浮かべる。つくもが
協力してくれれば万事解決だが、そう簡単にはいかないんだろうなあ……。
「とりあえず電話かけてみる。緋乃さんのことは言わないほうがいいよな?」
「うん。黙っててくれるとは限らないし、協力してくれる了承を得てからのほうがいいと思う」
「いろいろ気を遣ってもらってすいません……」
「いや気にしなくて大丈夫だよ」




