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1.
「本当にこれしか方法がないんですか?」
肌寒さが辺りを包み込むなか、誰かが心配そうに言った。
白い吐息が広がる。先ほどからパラパラと降り注ぐ白い粉が、頭の上に積もりはじめていた。天気予報では今日は晴れとのことだったが、どうやら大はずれだったみたいだ。
「緋乃、聞いてるの? あなたのことなのよ?」
そんなことを考えていたからだろうか。上の空だった私を、隣にいた母が咎めた。
「聞いていますよ。ですが、これはもう既に決まったこと。今さらどうこう議論する必要はありません」
「確かにその通りだけど。みんな、あなたのことを心配しているのよ? そんな言い方しなくてもいいじゃない」
まただ。母は未だに私のことを子ども扱いする。それが嫌で大人っぽく、落ち着きを持って行動するようにしているのに。もちろん、そんなこと本人に直接言うことは出来ないのだけれど。
「大丈夫です。何度もシュミレーションしたじゃありませんか。心配は無用です、さあ行きましょう。……過去へ」
もう今さら引き返すことなど出来ないのだから。