十三歳の俺と人助け 後編
「う、うーん、あれ? 私はいったいどうしたんだっけ?」
まどろむ意識の中あたりを見回してみると、そこが何処かの部屋の中であることがわかった。
意識が少しずつ覚醒していくなか不意にコンコンっとドアを叩く音が耳をうつ。
ガチャっ、パタン!
「目が覚めたようだな! 何処か体に不調はないか?」
「えっ、えっ? 神様?」
「はっ神様? どうやらまだ意識が混濁しているようだな。整理が出来るまでもう少し休むといい、一応此処に食事を置いておくから後で食べるといい。」
「あっ、ちょっ、ちょっと待って下さい。」
「なんだ? 何処か悪い所があるのか?」
「いえ、体は大丈夫です悪い所はありません。そうではなく、私は確か魔物に襲われていたんですよね? 此処はいったいどこ何ですか?」
「そうか、意識も体も問題無いみたいだな。確かに君はフレイムタイガーに襲われていたよ。そして此処は俺と師匠の家さ!」
「貴方が助けてくれたんですよね。本当にありがとうございます。家という事は、業魔の森から無事に出ることができたんですね。よかった。」
「ホッとしている所悪いが、此処はまだ業魔の森だ! 正確に言うならば、最奥に有る精霊の泉近くの家さ。」
「えっ? もしかして業魔の森に住んでいるのですか?」
「ああ、師匠が住んでいる家に拾われて来てからは、ずっと此処に住んでいる。師匠は俗世から離れ隠居中だからな。」
「隠居中ですか、何でまたこんな森に?」
「まあ、理由はいろいろあるが本人も変わり者だからな。」
ガチャっ、
「誰が変わり者だってもう一辺言ってみな!」
「盗み聞きなんて行儀が悪いぞ師匠!」
「えっ師匠? このキレイな女性が!?」
「ほう、あんたは中々見る目が有るようだね。」
「騙されるなよ、こう見えても何百さ『ドガっ』い」
「どうやら死にたい様だね!」
「ひっ」
「おいおい、いいのか? 彼女怯えてるぜ!」
「ちっ! それでこの子の事は聞いたのかい。」
「いやまだだ。落ち着かせている所を、誰かさんが怯えさせたからまだ時間が掛かるかもな。」
「うるさいよ! それで、あんたはいったい何があってこんな森の中に来たんだい?」
「ひっ、わ、私は、、、」
そして、つっかえながらも彼女は此処に来た経緯や彼女自身の事を話はじめた。
彼女は、ティスカ・アベルといい業魔の森から徒歩で二日程の位置にある「ディナント」の街に住んでいるらしい。両親は他界しており、街では教会のシスター見習いとして教会に住み働いている。年は十二歳。
話を聞き終えた後、俺と師匠の事も軽く彼女に話した。
「あのぉ、私はこれからどうなるのでしょう。一人では此処から帰る事も出来ませんし。」
「キョーヤ、あんたが拾って来たんだからあんたが道をしめしな。」
「ああ、ティスカ君には三つの選択肢がある。一つは、俺が街まで君を送り今回の事は悪い夢だったんだとして忘れ、今まで通りの生活にもどる。そしてもう一つは、これからの自分の為に此処で自分を鍛え、自分の力で理不尽に対して抗う事が出来る力を身に付け街に戻る。まあ幸いティスカには、才能があるから此処で鍛えれば間違いなく強くなれる。そして最後の一つは、自分の為ではなく理不尽に晒される人を助ける為に此処で理不尽に抗う力をつける。この場合、将来的には俺のやりたい事が実現したおりに力を貸してほしい。」
「やりたい事ですか?」
「ああ、俺は将来的には理不尽に晒される人を護る為に守護者と呼べる力を持つものを集め、依頼があれば依頼者を守護する。そんな組織を作って、少しでも理不尽に晒される人を護りたいと思っている。」
「それは、冒険者ギルドの護衛依頼の様な物ですか?」
「そうでもあり違うとも言える! 確かに冒険者ギルドの護衛依頼の様な仕事もあると思うが、護りたい物ってのは人それぞれあるだろ、その護りたい物が自分の力で護る事が出来ない人達の為に、変わりに護り守護するそんな組織を作りたいのさ!」
「……私でも、守護者になれるのでしょうか?」
「なれる! それだけの才能はティスカの中にある。それに、一番大切な「理不尽に晒される人の気持ち」それをティスカはわかるだろ。それがわかるなら強くなれるさ!」
「どうするんだい。私としては、このまま元の生活に戻る方が何事もなくいいと思うけどね。シスターとしてでも、誰かを守る事は出来るからね。ただ強くなりたいと言うのであれば、鍛えてやるのもやぶさかではないさね。」
「私は……強くなりたい! 私の為じゃなく誰かを護る為に!」
そう言い切ったティスカの目は淀みなくどこまでも真っ直ぐに前を見つめていた。
これが後に、絶対守護者の庇護の盾と呼ばれる女性。ティスカ・アベルとの最初の出逢いであった。
彼女は特に、力の弱い者達の盾となり、多くの弱き者達を庇護し必ず護り通した。
庇護された者の中には、彼女が昔は自分達と同じ弱き者であった事を知り、彼女に憧れその背中を目指し追いかけ新たなる守護者となる者が何人もいた。