≫後編≪
何気に閑にーしゃん多く出没します。
これは茂が鬼蘇家に引き取られてからの記憶。
「初めまして。茂です」
茂は家の人々に挨拶をする。
少し嫌悪の表情をする者もいれば、興味津々、といった表情をする者もいる。
「今日からウチの家族になるから。皆宜しく頼むぞ」
父から紹介をされ、一段落したとき、一人の男が近付いてきた。
「やあ、俺は閑。君の兄ちゃん。宜しく」
茂が返事をすると閑はにっこり笑った。
「今から君の部屋を案内するよ」
茂はそう言われ、先を進む閑の後をついていった。
部屋は綺麗で兄も優しい。周りの人達も自分を本当の家族みたいに接してくれている。
ただ一人を除いて。
「あの、すみません。俺の分の夕食は……?」
「貴方の分の夕食なんか無いわよ」
そう言ったのは閑の母、理子。理子はやはり、浮気相手の息子の事など視界にも入れたく無いだろう。
そしてこう言うときばかり皆見て見ぬふりをする。
「食べたければ自分で作ればいいじゃない」
「はい……解りました。失礼します」
茂は席をたち、食卓を後にして、台所へ向かった。
冷蔵庫を適当に漁っていると、食事を終えた閑がやって来た。
「今から何か作るんだろ? 手伝うよ」
「いえ。大丈夫です。これぐらい慣れているので」
「そんなこと言うなよ。それにそのしゃべり方やめなよ。兄弟なんだから」
「うん……わかった」
「よし! じゃあ、何か作るか!」
兄の閑は不器用でちょっと邪魔だったような気がするが、それでも楽しかった。その日は二人で野菜炒めを作って食べた。
茂は二人で野菜炒めを作って食べるのが大好きだった。
だが、日が経つにつれ、理子の茂に対する態度はどんどん辛辣なものになっていき、次第に誰も茂に近付かなくなっていった。
兄の閑も離れていき軽蔑するようにさえなった。
×
治と美那は心配そうな顔をしている。
治が口を開く。
「お前……大丈夫?」
「何がだ?」
「いや、何でもない」
そこで美那が不思議そうな顔をして言う。
「今もいじめられてるの?」
「うん、まあ……それなりに?」
「そうなんだ……」
「もうこの話は止そう」
「そうだね。処で二人とも今日はどこで寝る?」
すると美那が急に明るい声で話す。
「ねぇねぇ。じゃあここの広いスペースにお布団敷いて三人で寝よう? 幼稚園のお泊まり会みたいに」
「えー、まあ、いいけど。しげっちは?」
「はあ、まあ、いいけど」
茂と治は呆れた態度をとる。そんなのを他所に美那は笑顔で笑っている。
三人は早速寝るための準備を始める。
治は布団を持ってきて、美那が敷いて、茂が寝る。
「おい! 何サボってるんだよ!」
「ミッちゃん。踏んじゃうよ」
「わかった、退くから」
茂は退いたものの、のんびりまったり寛いでいる。
その姿を見た二人は「も~」と言い準備を終えた。
「早いな」
「そりゃね~」
三人は横に並んで寝転ぶと美那が治と茂の手を握った。
「懐かしいね~。昔に戻ったみたい」
「そうだね」
「そうか?」
「しげっち。空気読めよ」
「何がだ?」
「あはは。じゃあもう遅いから、おやすみ」
「うん。おやすみ」
「…………」
「あ、しげっち、もう寝てた」
「あはは……」
これが最期になるだろう。
三人が笑って一緒にいられるのは。
何故ならこれから”進むべき道“に歩んで行かなければならないからだ。
お泊まり会を終えて、茂は家へ帰宅した。
家は静かで人の気配がない。これは少しおかしい。
何か起こったとしか考えられない。
「父さん? 居ないの?」
返事がない。父、将勝は動けないはずだ。家に居れば必ず返事をする。今までもそうだった。
家中探し回るがいない。
誰もいないのはおかしい。
縁側の方を見る。すると一人の男が立っていた。
「おかえり、茂。待ってたよ」
「クソ兄貴……」
「そんなこと言うなよ。昔はあんなに仲が良かったじゃないか」
閑は茂に近付いてくる。
昔と変わらない笑顔で。
まるで今までの閑は偽物だったように。
茂は恐る恐る聞いてみた。
「皆は何処に行った」
「ああ。……父さんは病院。症状が悪化したから。そして今日からこの家、この家の人間、この家の財産は全て、俺と……お前のものになった」
「理子さんはどうした」
「殺したよ。邪魔だったから」
殺した。あの兄貴が人を殺した。
虫すら殺せないような顔をした奴が。
「それで、提案があるんだ。二人で残ったものを分け合おう。あと今後の方針についても話しておきたい」
「俺を下僕にしたいって?」
「下僕だなんて……ただ部下になって貰いたいだけさ」
「部下も下僕も変わらないだろ」
「変わるさ。それに、そうだな…………仮にお前が断ったとしても手段は他にもある……よし。美那? だったっけ? あの子を殺そう」
「なッ!! 何言ってる!? そんなことしたら……」
「許さない?」
「………………」
「そもそも俺はお前を軽蔑した時点でお前に許して貰おうだなんておもってなかったよ。それが俺の受ける罰だと思ったから」
「何が罰だ…………」
「どうする? 十数えるまでに決めてくれ。じゃなかったらあの子を殺しに行く。じゃ数えるぞ……じゅう」
「待て」
「……九……」
どんどん時間は過ぎていく。
早く結論を出さなければならない。
けど、これでいいのだろうか?
「……三……にぃ……いーー」
「わかった!! わかったから!!」
「……ちょっと、時間切れなんだけど?」
「はあ!?」
「というか……お前の意見が聞きたかっただけだから……あ、今の録音しておいたから」
「子供かよ」
「あと……いや、いいや。また明日話そう」
「美那は……」
「どうだろうね」
「……は?」
「行って見るといいよ。家に」
その言葉を聞き終わる前に茂は走り出していた。
無我夢中に美那の事だけを考えてひたすら走った。
角を曲がれば美那の家だ。美那は一人暮らしをしているから、たまに面倒を見に家に行った記憶がある。
家が見える。周りには人がたくさん群がっている。
その中に一人、見覚えのある顔。
「治……何で、ここに…………」
「……茂はさ、何か知ってるの?」
「……治」
「答えろよ。警察の話じゃ女の子の叫び声がするって通報があったんだ。そのあとに男が数人、家から出てきたって。犯人は手慣れているらしい」
「治……何が言いたい?」
「家の前に、お前ん家の、家紋が入ったボタンが落ちてた。僕が拾った。……昨日は三人で仲良く、笑ってたのに……」
治が茂の胸ぐらを掴む。
涙を流しながら、怒声を浴びせた。
「仮に、お前が犯人じゃ無くても! 美那を助ける事ぐらい出来ただろ!!」
「治、聞いてくれ」
「お前の話何か聞きたくない!」
「頼む!! 聞いてくれ!!」
「うるさい!!」
治は少し間を開けて、小さな、それでいて怒りが籠った、低い声で一言。
「…………お前なんか、いなくなればいいんだ…………」
一言。そう言って、その場をふらふらと立ち去って行った。
美那はもういない。警察がいるということは、殺されたのは少し前。おそらく帰ってすぐ。そもそも閑が美那を殺す理由は?
茂は重い足取りで自宅へ向かった。
家には、やはり閑がいた。
「どうだった?」
「……んで……」
「ん?」
「何で殺した!! あいつは、関係無いだろう!!」
「関係あるんだなー。あと、邪魔だったから殺した」
茂は怒りに目の前が真っ白になった。
右手は隠し持っていた自動小銃に飛び付こうとしていた。
が、それより先に閑が銃を引き抜いていて。
「あぐ、ぅ……」
銃を弾かれてしまう。この状況で銃を取りに行けば間違いなく殺されるだろう。
「お前は俺を殺せないよ。まだね」
「お前なんか、死んじまえ……!」
「怖い顔するなよ。それにあの子はお前に相応しくないよ」
「うるさい!」
「まあいい。今後について話し合おう。まだやることがたくさんあるよ。俺の計画を成し遂げる為にはお前が必要なんだ」
「計画?」
「知りたいかい?」
「…………」
なら、俺の部下になりなよ。
そう言った兄の顔は無邪気で、少し、悲しそうな顔をしていた。
×
数年後。茂は閑と共に跡を継いだ。治は警察署に配属されたが、暫くして、探偵へと職を変えた。
閑から預かった資料を嫌悪の表情を浮かべながら眺めているのは茂。資料には教育された子供の顔、知力、体力、などがずらりと並んでいる。
その中で一際目についたのが、無表情で笑う少年。そしてもう一人。これはにこにこと笑顔の少女。この正反対な子達が目についた。
この二人が、物語を作っていくとも知らずに。
茂は、悲しい表情を浮かべ、呟いた。
「兄さん。俺はお前をーー」
古い建物の一室。静かな空間に治はレトルト食品を食べながら、様々な事件の資料を見ていた。
行方不明の茂を探すために、毎日頭を使っている。
昔は怒りで茂を探していたが、今は違う。
それでも、やはり。
「茂。僕はお前をーー」
お互い、何処にいるかもわからないが、やはり、仲がいいのだろうか。だが、もう、戻ることはない。
資料がパサッと音をたて、机に叩きつけられる。
『ーーお前を一生許さない』
今、二人の、そして兄妹、一人の少年の運命が加速し、それぞれの結末へと向かう。
決して抗うことが出来ない、残酷な運命。
この運命に勝った者は、些細な幸福が待っていることだろう。だが、負けた者には何が待っている? 負けた者は何を受ける?
子供染みた言い方をすれば、こう言うことだろう。
負けた者にはーー
罰ゲームが、待っている。
こんな長々とつまらない話を最後まで読んでくださり有り難うございます。
続いて ≫罰ゲーム2≪ の方も宜しくお願い致します。
最後まで読んでくださり有り難うございました!!