ファンタジーショートショート:派遣魔王
「あなた!魔王の素質ありますよ。」
とある街頭でいきなりスーツを着たおっさんがにこにこしながらこう声を掛けてきた。
「なってみません?魔王に!」
いきなり何を言い出すのか。不審者以外の何者でも無いと感じた俺は無視してその場を去ることした。
「まぁまぁお待ち下さい。」
その一言で世界が暗転、いきなり真っ暗な空間に閉じ込められた。おっさんと二人きりもの凄く嫌な予感がする。
「逃がしませんよ。久しぶりの魔王候補なんですから、私魔王を世界各地に派遣する会社のスカウトをやっておりまして…」
などと言いながら名刺を渡してきた。胡散臭さはいまだ拭えないが、このままではらちが明かない。現在職についていないということもあり、話を聞いてみる事にした。
「で、仕事内容ってのはどんなことすればいいんだ?」
「はい、それはもう単純明快!魔王となってその世界に君臨し続けていただければいいのです。雇用期間は60歳までです。」
「…それって魔王がいるってことは勇者もいるわけだよな?」
「もちろんでございます!世界に平和をもたらそうと勇者や世界の国々が攻めてきますです。はい!」
「それって命がけじゃないか!」
「勿論、手当てもその分充実させておりますです。ちなみに報酬等も含めますと…」
おっさんが懐に用意してた電卓を叩く。そこには見たことも無い金額が提示されていた。
「こ、こんなにか…」
「勿論、雇用期間が過ぎれば此方の世界へ戻りますし、年齢も戻して差し上げましょう。敵が攻めてくるとしても、配下も周辺のモンスターも使えます。何度でも撃退していただければ結構でございます。いかがでしょうか?」
「…大博打に賭けてみるか。」
そう言って俺は魔王になってみることにした。
「それではこの世界に君臨し続けてくださいませ。詳しい事はお渡しした資料にも書いてありますし、何かあれば私まで、スマホに登録してあります。」
そういっておっさんは俺を異世界へ連れて行くとそう行って消えていった。
今の俺の姿は筋骨隆々の赤黒い肌に額に大きな角を生やしている。うつ伏せになれないじゃないか…
どうでもいい心配をしながら資料を読み漁り、自分に何が出来るのかを把握した上で早速魔王としての仕事に入る事にした。
それから数十年、侵略や同盟、防衛等様々な事が起こった。侵略した国が最後の最後にその国総出の自爆攻撃を行いその地が巨大なクレーターになったことも。勇者が何人も結集した結果、配下が全て倒された挙句、何人もの勇者を倒さなくてはいけなくなったこともあった。だがなんか自分は死なずに魔王として60歳まで勤め上げた。因みに魔王だと不老長寿なので見た目はほぼ変っていなかった。
そしてスマホから着信が入る。おっさんからだった。
「お勤めご苦労様でした。魔王様。これで雇用期間が終わりまして無事元の世界へ戻ることが出来ます。しかし素晴らしい!何度も厳しい戦いがありましたがそれを何度も乗り越えられた。私感激しております!」
そこで俺はおっさんにある提案を持ちかけてみた。
「なぁこの魔王って契約延長もできるのか?」
「…まさか貴方様からその言葉が出て来るとは!勿論御座います。これは延長というより一生魔王になって頂くもので御座います。ただし寿命により死ぬ間際に元の世界へ帰還されるものですのでご安心ください。ただし、寿命以外で死ぬと戻れませんのでご注意ください。」
「あぁそれくらいでいいよ。数十年ではまだ沢山国が残っている。こいつらも全て平らげてしまいたいんだ。」
「…!素晴らしいお言葉それでは雇用帰還延長も受理されましたので引き続きよろしくお願いいたします。」
まるでこのことを見越していたかのような延長受理のスピード。
「まぁいいか。これでこの世界全て平らげる事ができるかな?」