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スイ様の言うとおり!  作者: ゆう都
ある男の望み、ある女の望み
50/55

秘密は強さで許される

 夕食の時間になって、翠はギルバートの向かい側ではなく、彼の横の席についた。

「切り分けたら、左手で食べられますよね?」

「……左も重くて動かんな。こちらばかり酷使した所為だろうか」

「……これだけの使用人に囲まれて恥ずかしくないですか」

「さぁ、なんのことやら」

 にやりと笑ったギルバートに溜息をついて、翠は食事を切り分けては、彼の口へ運ぶ。

 その傍らで、自分の食事も済ませているので、とても忙しい。





 食事のために広間へ移動した際に、フィオルナルとは別行動になった。

 広間にいるのは、侍女や女官、侍従と護衛中のルーカリアナたち近衛である。

 見えないところには、ジナオラもいるかもしれないし、他の影もいるかもしれないが、それについては分からない。知りたくもない。

 翠が思うのは、ルーカリアナは一体いつ休んでいるのか、という疑問くらいだ。

 その疑問は決して心配ではない。現時点で、後頭部あたりに熱視線を感じているのだ。そういう意味で、休んでおけばよいのに、とは思う。





「……そういえば、お前、国でも乗っ取るつもりなのか」

 酒を飲んでいたギルバートが思いだしたように、背後のルーカリアナを指した。傷にアルコールは障るかもしれないというのに、飲むのを止めないので、翠も何も言っていない。

 痛みを消す魔法もかかっていないだろうに、傷が疼いたりはしないのだろうか。





 アーガルの件は、ルーカリアナ自ら報告したのだろう。

 むしろ、昼間に聞かれなかったことの方が不思議であった。

「おかげさまで、アナタのお手紙がきっかけですよ。アナタのことが大好きなのに、私にばかり構われるから、嫉妬でもしたんじゃないですか」

「ふん」





 翠の話が不満だったのだろう。ギルバートは鼻を鳴らしただけだし、背後のルーカリアナからの圧力が増した。

「アナタの所為なのは本当でしょう? 私と彼でお遊びになるから」

 伝えてもよいようなことを伝えずに、ルーカリアナの猜疑心を煽ったのは、間違いなくギルバートである。それが分かっているので、ギルバートも文句は言わないのだろう。





「見事に男で固めおって」

「あら、嫉妬ですか?」

「気に食わんだけだ。身のまわりの世話をするのが、結局お前の犬になってしまったではないか。そのうち、女騎士でもつける手筈だったのだがな」

「そうとは知らず」

 それを嫉妬と言うのだ、とは決して言わずに、翠は素知らぬ顔で笑う。





「犬といえば……お前、思ったよりも鼻がきくそうだな」

「腕のいい魔法師の、腕のいい魔法陣を、よく知っているからでしょう」

 昼間の政治言語については触れないが、神語については触れたくなったのか。

 ギルバートは、翠が見つけて読みとった、魔法陣の神語について言っているのだろう。

 王であるギルバートに話がいっているのはもちろんだが、その場にいたルーカリアナやジナオラはもちろん不思議に思っているだろうし、当然、自分の陣のことであるので、フィオルナルも、その不自然さには気付いているに違いない。





 ギルバートが帰るまで、翠が詳しい事情を聞かれずに済んだのは、この王宮で、最も魔法に詳しいとされるフィオルナルが、翠を追及しようとしなかったからである。

 当然、ギルバートにそんなことは関係ない。

 異世界育ちで神語など習ってもいないし、そもそも魔法が使えるとも思われていない翠が、魔法陣を読むのはさすがに不自然だっただろう。





 しかしながら、翠としても正直に答えるつもりはなかったので、言外に、召喚陣が原因ではないか、と言葉を濁してみたのである。

 幸い、ギルバートも無理に聞く気がなかったようで、そうか、と一言、食事に戻った。

 もちろん、不安要素を排除したいルーカリアナは、背後でイライラしているだろうが、残念、ギルバートはそういう性格だし、この超直感の持ち主が聞かずともいい、と判断したのだから、ルーカリアナには何も言えないのだろう。





 ギルバートの鋭さ、危機察知能力というものは、裏を返せば、その網にひっかからない限り、秘密を秘密として持つことを許されるという意味でもある。

 相手の全てを知らなければ安心できない、と思うのは、裏切られることを恐れているからだ。

 ギルバートにはその恐れがないのだろう。だから、彼の前では秘密が許される。

 きっと、他の王の前ではありえないことに違いない。





 彼は他人に秘密を許し、その上で、自らの興味のために人を泳がす。踊らせる。

 でも、それがありがたい場合も、確かにあるのかもしれない。

 翠は、せっせと食事を続けながら、ふと、そんなことを考えた。



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