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スイ様の言うとおり!  作者: ゆう都
第三章 からまる糸
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ほつれた糸

「また外へ行くの?」

「3日ぶりだけど」

「……リーリアって、案外鈍感なんだ」

「そうかもね。……彼らも不安なのよ。未だ下手人が掴まっていない不満を唱えるよりは、私を犯人だと思っていた方が、気が楽だから」

 役立たずの衛士たちの代わりに噂の的になってやっているのだ、と言われては、さすがのルーカリアナも不穏な空気を纏いはじめる。




 とはいえ、翠にとっても完全な手詰まりである。血痕を完全に消してしまえる魔法があるなら、今さら殺害現場など探せるはずがない。ルーカリアナを連れての散歩は、今は散歩以上の意味もなかった。

 もちろん、部屋の外は敵ばかりなので、結局、気分転換にもなりはしないのだが。




 翠が朝の散歩から戻ってしばらく。温かいお茶を飲んで、ほ、と息をついていたところに、ルーカリアナが贈り物を持ってきた。もっとも、中身はそんなにいい物ではないだろう。ルーカリアナが、いつもの裏のある笑みで贈り物をジナオラに手渡す。

 ジナオラはそれを検めるために、箱をテーブルの上へ持ってきて包みを開け始めた。形式的に、一応、翠はその箱から距離をとる。

 箱の大きさは20センチメートル四方程度。そこまで大きなものではない。




「誰から?」

「女官が持ってきたみたいだよ。裏口の方に、リーリア宛てに転がってたって」

「……そんなものが、よく、私まで届いたわね」

 普通なら途中の誰かで止まるだろうに。側妃だということすら忘れられているんじゃないか、と翠は内心で頭をかかえる。

「暇していそうだったから」

 一応危険があってはいけないから、とポーズで部屋に残ったルーカリアナの本心は、当然心配などではない。おそらく中身を知っているのだろう。その口元にうすら笑いを浮かべて翠を見ていた。





「……」

 漸く包みをほどいて箱の蓋をあけたジナオラが無言で溜息をついた。

「どうします?」

 水を向けられて、その手元を覗きこめば、鳥の死体が詰まっていた。

「どうしようかしら」

 隠しもせずに箱を翠へと向けたジナオラもジナオラだが、箱の中身に顔色すら変えず首をかしげた翠も翠である。もちろん、ルーカリアナはその視線を箱の中身ではなく、翠に向けている。……嫌がらせを受けたのは翠のはずであるが、おそらく、嫌がらせをした犯人よりも、彼には嫌われているんだろう。





「それは、死んでいたものを詰めたのかしら。それとも、私にこのために殺されたのかしら」

「それで気分が変わるんですか」

「大きく変わるわよ。後者なら、可哀そうじゃない」

「へぇ」

 ジナオラの質問に答えた翠に、声をあげたのはルーカリアナだった。

「誰が贈って来たかは調べるよ。一応ね」

「出所不明の箱を持ってくることも止めていただきたいわね」

「それはそれは。これからは気をつけるよ。……一応ね」

 本当にそんな気があるのかすら分からない答えに、翠も言っても無駄かと口を閉じる。





「ジナオラ、それ、どうしたらいいと思う?」

「特にお言葉がなければ、ゴミですが」

 それはそうか。ここに、感傷に浸る人間はいない。

 だが、本当に翠に贈られるために殺された子たちであれば、それは紛うことなく、翠が与えた影響の結果である。

「埋めてあげましょう。誰かも言ったけれど、私、暇してるから」

 城内に動物の死骸を捨てれば怒られるかもしれないが、ギルバートなら、そんな細かいことは気にしないだろう。ジナオラも、ルーカリアナも止めなかった。

「自分で行くの?」

「それはそうでしょう。アナタが言ったのよ、暇してるって。私はついていくだけだけど。さすがに土塗れになるわけにはいかないでしょうから、埋めるのはジナオラ」

 ルーカリアナの言葉に返事を返して、翠は外へ行くための羽織りを手にとった。





「死んだものには興味がないと思っていたよ」

「あら、そんなこと言ったかしら?」

 埋葬をジナオラ1人に任せて、翠とルーカリアナは少し離れたところでその様子を見守る。

 ルーカリアナの探るような言葉に、翠はあえてとぼけてみせるが、何も嘘をついたわけではない。翠は死ぬ前から、生きている間だって、興味がないのだから。

 一応、人目につけば眉をひそめられるかもしれないので、人が滅多に通らないような場所をルーカリアナに案内させて埋葬場所に決めた。ここ最近の散歩でも訪れていないような場所で、少し粗雑な剪定がされた植え込みが並ぶ。





 ルーカリアナの追及するような視線を避けて、視線を逸らすと、ふと、そこに銀色のきらめきを見つけて首をかしげた。

 凝視すれば、それが解れた糸のようなものだと分かる。本物の糸でも、蜘蛛の巣でもない。その糸は、実体を伴ったものではなく、魔力で編まれた糸だった。当然のように、普通であれば目に見えるようなものでもない。




 糸の元を視線で辿れば、それが2重のドームのように王宮と、王城の敷地全体をそれぞれ囲んでいるのが見てとれた。

 それは結界だった。解れがある時点で完璧なものではないが、結界の強度に支障を来すほどでもない。何度か張り替えられているのだろうが、そこまで短い頻度で張り直すには、人手や魔力が足りないのだろう。そう、翠が感じるほどに、その結界は強固であった





「リーリア?」

 しばらくの間、虚空へ視線を向けたままであった翠に、ルーカリアナのいぶかしげな声がかかる。

「なんでもないわ」

 気付けば、埋葬も終わったようで、ジナオラが立ち上がって手についた泥を払っていた。

「戻るよ」

「言われなくても」

 少し山になった土を見て、しかし何をするでもなく、すぅっと視線を外す。そんな翠の様子を、やはり、ルーカリアナが観察するように見ていたのだった。



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