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スイ様の言うとおり!  作者: ゆう都
第二章 後宮の片隅で咲く花
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いち増えて、いち減る

「昨日はよく眠れたか」

「えぇ、ステキな贈り物をありがとう」

「唸ることしかしらなかった猫が、猫撫で声を出したのだ。記念品くらいは贈るだろうよ」

 朝食の席、いつもと変わらない態度を見せたギルバートに、翠も同様に返す。

 贖罪のピアス穴が少し痛んだ。




「おはようございます、シスイ」

 再びルーカリアナの先導で朝食から戻ると、フィオルナルが複雑な表情で出迎えた。

 既に仕事の時間であるのに待っていたのだろう。代わりに、アシュレイの姿がない。

 フィオルナルが来るより早く部屋を出たのが気に入らなのか、フィオルナルの後ろで礼をとる、新しいアーガルに思うところがあるのか。




「ありがとう、ルカ」

 なにか言葉を交わす前に、ルーカリアナを追いだそうとして後ろを振り返って、ハッとした。

 今、部屋の前に護衛が居ただろうか。そう思ってルーカリアナを見る。

「そうそう、しばらく、専属で護衛することになったんだ。よろしくね、リーリア」

「そう……お願いね」




 ぱたん、とルーカリアナとの間にできた、扉という壁に、ほっと息を吐き出して、フィオルナルを振り返る。

「アナタに助けられてばかりなのに、私はアナタに無断でいろいろとコトを起こすわね」

 謝罪の言葉は付けないが、混じる感情には気付いたフィオルナルが首を横に振る。ついでに、詳細を説明する気がないということにも気付いたのだろう。僅かに陰った瞳に内心で苦笑した。

 翠を普通の異世界の娘だと思い、その贖罪のため、文字通り命を削っている目の前の存在は、この世界で今のところ一番安心できる男である。

 だからこそ、自分の異常性をあまり知られたくはなかった。その思いこそ、自分の1番の甘えなのかもしれない。それ以上は、執着になる。それは、許されない。

 ゆるり、と首を振ってフィオルナルを見上げた。




「ジナオラに新しい部屋が与えられるハズなの。お仕事の合間でいいから、最低限、人が暮らせるように整えるのを手伝ってあげて欲しいわ」

「仰せのままに。……それでは、これで」

 苦い顔を隠しもせずに頷いて、仕事の為に部屋を出る。それを視線で見送っていたジナオラが、礼をやめて立ち上がった。




「いろいろな葛藤があるのは分かるわ。でも、それをゆっくりと聞いてあげる余裕は、今の私にはないの。ただ世間知らずで、アナタを助けたかった側室の暴走と取ってもいいし、私が何かを狙ってアナタを側に置いたのだと取ってもいい。でも、それを決めるのは、これから先でもいいのじゃないかしら……?」

 翠の真意。それを調べるためにも、彼の立場は有利なはずだ。

「ただ1つ言えることは……。私、アナタから最初に言われた言葉を忘れてないわ。あぁ、それから、私のことは名前で呼んで。これは、最初の命令だから」

『キミと違って、僕はいつでも逃げ出せる』

 ジナオラも思いだし、そして、目を見開いた。逃げ出してもいいのか、と、ジナオラが視線で問う。

「私、この国出身じゃないから、アナタにも苦労かけるかもしれないけれど、よろしくね」

 国の出身ではなから、アーガルの制度など知ったことではない。アーガルは、まさしく法だ。規律だ。だが、魔法ではない。

 だから、いつでも破れる。翠は、それを、許容する。




 王と共に昼食を済ませて部屋に戻ったところで、昼休憩中のフィオルナルが翠の部屋へやってきた。そして、その部屋を一瞥して、首をかしげる。

「……アシュレイは、来ていないんですか?」

 部屋では、ジナオラが翠に命じられてお茶の準備をしていた。

 朝、フィオルナルが仕事へ向かった後も、結局、アシュレイは姿をみせなかった。




「えぇ。疲れているのかしら」

「体調を崩しているのであれば、侍従長から連絡が入るはずですが」

「そう。不思議ね」

 口からスラスラと嘘をつきながら、翠は首をかしげる。

「様子を見てきます。お茶の準備はそのままジナオラに任せましょう。昼休憩が終われば仕事に戻らねばなりませんので、彼の部屋の準備は夕刻以降で構いませんか?」

「えぇ、大丈夫よ」

 翠の返事にフィオルナルは一礼して部屋を出て行く。




「心配だね、リーリア」

 扉が閉まる直前、空いた隙間からルーカリアナが口の端を吊り上げて笑うのが見えた。




 果たして、アシュレイの部屋は無人であった。病に伏して寝ていたわけではない。

 しかし、結局、その後もアシュレイが翠の前に姿を現すことはなかった。


短かめです

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