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スイ様の言うとおり!  作者: ゆう都
第二章 後宮の片隅で咲く花
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選ばせる女

すみません。話の繋がりをもたせるため、1話挿入しました。

「シスイ、おはようございます」

 ギルバートと翠の食事に毒を盛られた次の日の朝、フィオルナルは酷く険しい顔で翠の部屋に現れた。

「……顔が険しいわね。聞いたの?」

 翠がギルバートと食事をとる際、翠はフィオルナルを早く返していた。ギルバートと喋りながら食事をすると、それだけ時間がかかるのだ。食事がなければ、特に困ることはないので、フィオルナルが居なくても問題はない。

「シスイ。朝食の席に呼ばれています。陛下の遣いが先ほど来ました」

「そう。なら準備をしなくてはね。アシュレイを呼び出すのは可哀そうだから、私たちで済ませましょう。朝だから、少し気が抜けてても大丈夫かしら」

 寝台から起き上がり、クローゼットに向かった翠の手を、フィオルナルがとった。




「シスイ」

「……どうしたの」

 翠の手を握ったまま、フィオルナルが膝をつく。

「私も、連れて行ってください。アナタの食事は、私が確かめますから」

「……」

 その言葉に、翠は無言でフィオルナルの手から逃れた。彼だって気付いているはずなのに。翠が、彼の命を背負うつもりがないことを。

 だが、翠だって知っている。フィオルナルが、翠のために彼の命を懸けたいと思っていることを。

 だから、翠はフィオルナルに、正式なアーガルを命じていないのだから。




「私が王の食事に呼ばれた理由は聞いていないみたいね。私、毒は見分けがつくの」

 だから、毒見は不要よ、とだけ告げて、フィオルナルに背をむける。

「シスイ……!」

「それよりも、お願いがあるのよ。私が戻る前にアナタは公務に行くでしょう? その前に、アシュレイに伝えておいてほしいの。話がある、と」

 翠はそれだけ告げると、着替えるわ、と告げてフィオルナルを部屋から追い出す。




 1人になった部屋で、翠は小さく溜息をついた。

 どうして、誰も彼も、翠に選ばせるようなことをするのだろう。

 発端はジナオラである。彼の命を、翠は選んだ。

 でも、それは苦渋の決断だった。自らが選択を間違えるのを恐れていた。




 それでも、ジナオラは直接的には翠に関わりのない人物である。だから翠は、自分がいるときと、いないときを、2択で選択することができた。

 だが、フィオルナルをはじめとした、翠に近しい人間はどうだろう。

 翠がいなかったとして、彼らに命を懸けさせるものは他にないのだろうか。

 翠がいなければ、彼らの運命はどうなっていたのだ?

 分からない。分からないからこそ、嫌になる。

 だから、翠は自分が選ぶのを止めた。 

 ……だったら、選ばせればいいのだ。自分の運命なのだから。








「アナタ、私の侍女を外れる気はない?」

「え……」

 フィオルナルに話があると告げられて、畏まって待っていたアシュレイは、翠の一言に固まった。

「あの、わ、私、何か粗相を……!?」

 途端に涙目になるアシュレイの瞳をしっかりと見つめて、そうではない、と告げる。




「緘口令が敷かれているから、ここだけの話にしてね。……昨日、私の食事に毒が盛られたわ」

翠の言葉に、アシュレイが目を見開く。

「そんな、なんで……っ」

「それは私にも分からない。近衛の皆さんが調査していると思うけど、昨日今日で犯人が分かるかどうかも、私には想像がつかない」

「……よく、御無事で」

 アシュレイは翠の言葉に、食事に毒を盛られた翠を心配してくれた。それで、十分だ、と思う。




「このままだと、私に近い者も危ない目にあうかもしれない。だから、アナタには私の侍女を外れてもらいたいわ」

「……っ」

 翠の言葉に何かに耐えるような表情を浮かべて、アシュレイは目に涙を溜めて翠を見返してきた。




「不敬は承知の上で、お願いさせていただけますか」

「……聞くわ」

「私を、アナタの傍で仕えさせてください。例え、この命に危険があったとしても。私はそんな危ない場所にいらっしゃるアナタ様を1人おいて、自分だけ安全な場所へは行けません」

 アシュレイの言葉に翠は重い息を吐く。




「アナタはアーガルじゃないのよ。私に命を懸ける必要はないの」

「分かっています。私などをアーガルに選んでくださるとは思っていません。ですが、私はリーリアのお傍に仕えたいのです。ただの女官として勤めあげるより、リーリアの侍女としてありたいと、心から思っています」

「フィンは王宮魔法師長だわ。いざとなれば、自分の身を守れるかもしれない。でも、アナタはか弱い女の子なのよ」

「リーリアも、そうでございます」

 アシュレイの意思は固い。

 だが、アシュレイは勘違いしている。翠は、そう簡単には死なないのだ。




「……アナタが危険な目にあっても、助けにいけるか分からない」

「むしろ、そのような危険な場所へはいらっしゃらないでください。私がどれほど危険な場所にいても、リーリアさえ御無事であれば、私は他に何も望みません」

 まだ少女と言うべき年代の彼女が、どうしてそこまで他人に命を懸けられるのだろう。翠には到底想像もつかない。だが……。翠は選ばせた。半ば結論は見えていたが、それでも、翠は選ばせたのだ。彼女自身が、その責任から逃れるために。




「……それで、いいのね?」

「はい。どうぞ、アナタ様のお傍に」

「……分かったわ」

 アシュレイの決意の言葉を聞いて、翠は暗澹たる気持ちで頷いた。


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