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ミュージック・スミス  作者: あーる
三人のプレリュード
4/6

「ちっ、全く“ヒカリ”の奴らぁよぉ。まるで世界平和ってのを分かっちゃいねぇぇよなぁ?」



部下にそう吐き捨て、クジョーは足元の廃材を蹴り飛ばした。

廃材はガランガランと空虚な響きを鳴らすばかり。


部下達は言葉を持たぬ者だけ。何故なら彼らは、この世界に適応するべく進化を安定させてしまった純血の“ベータ”。

不確定要素を何一つ持たぬ哀れな“進化の最終形態”なのだから。



「ったくよぉ……この時代を終わらすのは“ヤミ”のオレらだっつーのに。

あいつら“神の化身であるコリウス様が~”だなんてほざきやがる。

アホかっつぅの。

神なんか居るかよ、なぁ?」



ウエストサイド・ブロック。

かつてブティックであった廃墟にて、クジョーはセントラル外周の一角を警護していた。


野心溢るる彼にしてみればあまり名誉ある仕事ではなかったようで、いつもこんな調子で愚痴を暴言に変換する。


しかして、廃材も、四名の“ベータ”も、クジョーの意思を組む事は出来ない。

そこでまた彼は苛立ちを募らせるのだ。


「ちっくしょう…あぁぁ、ったく、おめぇらに言っても仕方ねぇよな!

あん? 進化の過程で“意思”を棄てたんだもんな?

“個”がねぇぇぇンだもんな! クソがっ」



怒号を上げながらコンクリートの柱を殴りつける。そのクジョーの両手は金属製の“グローブ”だった。

巨大なボクシンググローブに見えるそれは、闘争的かつ短気な彼の性格を表す必然の進化だと見て取れる。


それでも無反応の部下達や、ただ打ち捨てられた廃材は、クジョーの神経を逆撫でする事しか出来ない。



「なまじニンゲンのフォルムしてやがる癖に中身は空っぽ! “DNA”の“全体意志”にだけ従っててよぉ、ニンゲンの苦労も忘れちまいやがって……ムカつくんだよクソ共が!」



「グ…ゴ!」



唾を飛ばし飛ばし喋り、クジョーは唐突に部下を殴り倒す。ゴグンと鈍い音が鳴り一人の“ベータ”が床に伏した。



「ゴ……」



「オレが殴っても“アルファ”が同じモン同士だから反撃もしやしねぇ! 何っっでオレがてめぇらみてぇなデクノボー連れて任務に就かなきゃいけねぇんだよ!

ちっくしょうがよぉ、オレぁこんな外回りで終わる小物じゃねぇのによぉぉ!」



立ち上がろうとしたその“ベータ”の脇腹を蹴り上げ、左の“グローブ”で叩き下ろし、クジョーは臥す“ベータ”の頭部を脚で踏みつけた。



「ったくよぉ…。

それもこれも、みんなあの“ヒカリ”の連中のせいだ……あいつらが“ヤミ”に楯突いたせいで面倒臭くなっちまったんだ。

イデ様が率いる“ヤミ”に任せときゃあ、すぐにでも平和な新世界が作られたっつーのによぉ…」



忌々しく呟くクジョー。

苛立ちの一瞬に疲弊と悲壮感が垣間見えるのは、決して気のせいではなさそうだ。

もしかするとそれこそが彼の本音なのかも知れない。


かと思いきやすぐにまた苛立ちを露わにして、クジョーは足元の“ベータ”を蹴り飛ばす。



「――んな事言ってもてめぇらにゃ分かんねぇよな、クソ!

分かりやすく言ってやらぁ!

“ヒカリ”をぶっ殺すぞってハナシだよっ、このデクノボー共! 分かったか!?」



「ゴ…」


「“ヒカリ”ヲ殺ス」


「殺シマス」


「“ヤミ”ニ勝利ヲ」



クジョーの鬨に合わせて、他の四名全員が声を上げた。


“ベータ”達は“ヒカリ”と“ヤミ”に関する単純な文章しか理解出来ない。

それはクジョーが言っていたように“全体意志”しか持たぬ生き物の、一つの終着点なのだ。


クジョーはそれがまた気に入らなかった。



「…デクノボー共がよぉ…。

種の保存以外にゃ何の興味も持ちやがらねぇ…“オレ”ってニンゲンをまるで認識しねぇ…クソ、クソ、クソっ」



クジョーは“ベータ”の無個性が気に入らなかった。


クジョーは“アルファ”の絶対さが気に入らなかった。


クジョーは“ヒカリ”の宗教心が気に入らなかった。


クジョーは自分に対する“ヤミ”の待遇が気に入らなかった。




クジョーはこの荒廃した世界の全てが気に入らなかった。



そこで一斉に声を上げる“ベータ”達。



「グ…ゴ…!

“ヤミ”デハナイ存在!」


「敵! “ヒカリ”!」


「“ヒカリ”! 殺ス!」



亜種という名の敵を、寸分違わぬタイミングで悟りあったのである。



「けっ、ちょうどいい。

…おいデクノボー共! 憂さ晴らしがてら“食事”にするぞ!」


『オォォォォン!!』



彼等は同時にビルの出入り口を見やり、各々の肢体に光を灯していく。

ある者は右手を“猫爪”に。ある者は両脚を“逆関節”に。

光が取り払われた後に現れたのは、生きる為に必要な武器達。

獣で言う爪。爪であり牙。


ニンゲンが頭脳を唯一絶対の武器としていた時代は、とうの昔に終わりを迎えている。


今、必要な武器。

それは獣たる爪。爪であり牙――それのみである。




***




『ゴアァァァァ!』



廃墟ブティックに足を踏み入れた瞬間、中に居た“ベータ”達は一斉に飛びかかって来た。



「ふん、能の無い」



が、カイの“バイザー”には百も承知の動き。



「甘いわ!」


「でりゃ!」



ユラとミーナは三名の“ベータ”に先制のカウンターを喰らわせ、距離を置く。


――カイを後方中心にし、右手前方にミーナ、左手前方にユラという、逆三角形の陣形。


敵方は牽制と遊撃の包囲。

後方から遅れて参入した一名の“ベータ”を含め、ユラ達の両翼と前方を囲い込んだ。



「予想通りか、“ベータ”はやはりつまらないな。

…うん?」



ふと“バイザー”に手を当てて、カイは廃墟奥の暗がりを注視する。

そこには人影が居り、事前に確認していた五名の内、それが最後の一人の正体であると知った。


人影は肩で風を切り、だらしなく踵をすりながら歩み寄って来る。お世辞にも柄の良い風体ではない。


「ニンゲンの姿…!?

カイ、あいつは俺達と同じ……!」



「ああ…居たのは“ベータ”だけではなかったようだな」



口端を吊り上げ苦笑するカイ。

だがすぐに鋭い顔付きに戻り、人影――クジョーを睨み付けた。


クジョーはカイの視線に不愉快さを露わにし、所々が金属と化した顔を歪ませる。



「ちっ、“ベータ′(プライム)”たぁ言え“ヒカリ”の連中はこんなガキまで引き入れてんのか。

“ヤミ”じゃあ使い物になんねぇようなガキなんかをよぉ」



「俺達は“ヒカリ”じゃない!」



「ユラ、情報を与える必要は無い。

速やかにここを制圧するぞ」



「ガキの分際でうぜぇ口だな…おいデクノボー共!」



クジョーのこめかみに青筋が浮かび上がり、彼はその血管から飛び出させるようにして声を張り上げた。



「クソガキ共をぶち殺せっ!」



――リーダー足り得る“プライム”の号令によって、“ベータ”達は瞬時に本能のスイッチを入れる。


ユラ達を包囲していた四名の“ベータ”は同時に飛び上がり、だが絶妙にタイミングをずらして一同へ襲いかかった――。



「キョオォォォォ!」



「バォォォォア!」



背筋を凍らせる奇声が廃墟内に反響し、ニンゲンの恐怖に突き刺さるつんざき音は不協和音のセッションを醸す。

獣哮に威嚇と牽制の意味があるように、この、絶叫に近い“ベータ”の咆哮もまた同じ意味合いを持っている。

だがニンゲンのみならず、既存の生物へ不快さと戦慄を強いるこの声も、今やユラ達に通じるものではない。



「はっきり言って――」


「声が大きいのはいいけど――」



何故ならば、彼等もまたクジョーと同じく亜種“プライム”。

知性を残したまま“ベータ”へと進化を遂げたという、ある意味では“ベータ”の上位種にあたる存在なのだから。



「――こけ脅しに過ぎないわ!」


「――それじゃうるさいだけだ!」



ユラの“立方体”が一体の“ベータ”を叩き飛ばし、

またミーナの“直刀”から一閃が走り、金属を打ち鳴らす高音域がもう一体の“ベータ”の胴から廃墟内へ、

まるで今しがたの咆哮をかき消すようにして響き渡った。


頭部に異形の進化を集約させていたその“ベータ”は、呻き声を絞り出し、傷口から細かな金属片と血液を吹き上げる。


血液は赤く赤く、とある果汁に似た濃厚な真紅をしている――というのが前世代の概念だ。

しかし今はそうではない。

赤い血の生物は最早この地上における絶滅危惧種。存在しないに等しくもある。



「グ、ゴホッ…」



飛びかかった勢いのまま胴を両断された“ベータ”。

慣性に任せ地に跳ね、二つに別れた肉体は数秒後の死を表した。


その鮮やかな断面から滴るのは、実に銀色の液体。これは血液。

これがこの時代の常識。

これが世界の常識なのだ。



「ギギ! ギギィ!」



四体一対での攻撃予定が崩れ、斬り伏せられた片割れを見て後方の“ベータ”達はひどく狼狽えてしまう。

ユラに吹き飛ばされた者も着地様すぐに身を翻し、併せて三人の“ベータ”は先程とは打って変わって様子を窺い始めた。


これが知性を持つ者“プライム”と持たぬ者“ベータ”の、唯一にして決定的な違いである。


知性を持つ者は常にありとあらゆる事を想定し、それに対し備え策を講じ、その通りに実行するという論理性を扱う事が可能だが、

“ベータ”には、論理を乗せる思考という土台がまず存在しない。


彼等にとって学習から生まれる行動とは、条件反射の反応パターンを増やすだけに過ぎず、思考ではなく反応速度と情報適用のみに依存するだけの明快さ。


だが、思考無き個体のみで習得出来る反応パターンは限られている。

その単純さを補う為に、状況に対し吸収する情報量は“ムシ”を通じ“アルファ”に集積され、“アルファ”から再び“ムシ”を介し個体へと転送される。


“ベータ”全体が一つの感覚を共有していると考えていい。

この場合“アルファ”が脳の役割を果たし、“ベータ”が四肢であると言い換える事も出来る。

“アルファ”と“ベータ”を一つの生命体として見立てると、これほどの強みはないだろう。


だがしかし、その統一され過ぎた情報体系では、“プライム”に残る不確定要素の塊・即ち人間の自我を推し量ることが不可能なのだ。



「さあ、どんどんいくわよ!」



猛り、ミーナは疾風の速さをもって駆け、怯む一体の“ベータ”に肉薄した。

と同時の刺突。


鈍い金属音が“ベータ”のみぞおちを貫いた。



「ゴ、ゴゴ……」



一拍の遅れを埋めんと、二体の“ベータ”が各々の武器を振り下ろす。

だがその凶刃は“立方体”によって防がれ、またもう一方の一撃は“船舵”が止められていた。



「遅いね、“アルファ”との通信が上手くいってないんじゃない?」



おどけて見せると、ユラは大車輪の如く腕を回し敵の“猫爪”を弾き、それでもなお余る速度をそのままに強烈なアッパーカットを放つ。



「せーの!」



天井に打ち上がった“ベータ”を合図に、ミーナも“船舵”の腕をそのまま地面に叩きつけ、その刃で敵の“ハンマー”を床に固定した。



「恨みっこなしよ…!」



「トドメだ!」



“直刀”と“立方体”が渾身の力で振るわれ、天井から落下してきた者と、腕を磔にされた者、二体の“ベータ”がここに息絶えた。


ほんの僅かの間にクジョーの部隊は壊滅。

であるにも拘らず、その様子を不敵に眺めるクジョー。

彼は部下が葬られていくことを喜んでいるようだった。



「よおよお、ガキのクセにやるじゃねぇかてめぇら。

さては“殺し”に慣れてやがるな?」



歪な笑みを浮かべながら、クジョー。

「殺し」という言葉がユラとミーナの表情を引きつらせた。

そう、“ベータ”が例え人間でなくとも、フォルムは人間のそれそのものなのだ。

倫理観の云々を抜きにしても、蚊や蟻の命を奪うのとは、その手に残された感触がまるで違う。



「よぉ、どうなんだ? ええ?

今まで何匹殺ちまちたか~? へっへへ」



「それは…」



クジョーの言葉は二人の子供の心を強く突き刺した。

そこで成り行きを見守っていたカイが静かに出てくる。



「下がっていろ、僕がやる」



「カイ……」



「障害を排除しただけだ。

お前も生きる為なら何でも食うだろう?」



“バイザー”の、白目と黒目の境が無い翡翠色の瞳が、クジョーの神経を突付いた。



「ちっ、賢ぶったガキが偉そうな口利いてんじゃねぇ。

質問してんのはオレの方なんだよ。“殺し”に慣れてるだろってよぉ?」



「これだけ見て分からないとはな。

観察力と推理力に自信が持てないほど、自分の脳味噌が頼りないのか?」



「てめぇ……随分と口の減らねぇガキだな、そんなに早くオレに“喰われ”てぇのか」



「僕がお前に?」



カイは何も映さない瞳でクスリと笑う。



「もしも“プライム”でなければ、お前のような下卑た者なんて“食事”の足しにしたくないぐらいなのに…」



冷笑をこぼしながら、カイはコキコキと首を鳴らし、わざとらしく大きくため息をついた。



「…ましてや、僕がお前に“喰われる”だって?

つまらないジョークだな」



「オレに上等くれてんのか、オッケーだ、殺す!」



顔から火を吹くクジョーが、まるで氷のような顔のカイへと飛び掛った。


ほぼ瞬きの速度で放たれる“グローブ”がカイの頬を掠め、不気味な摩擦音を鳴らして風を打ち抜く。

僅かなスウェーでそれをかわされたクジョー、戸惑いが浮かぶ刹那の合間に、その三白眼を見返す冷たい翡翠色があった。


目を合わされているのだ。

この一瞬の世界の中で。



「ふっ……」



鼻でせせら笑うカイ。

ストップウォッチを作動させ始めたように、その声が合図になり時間の流れが戻ったのかと錯覚させられる。



「何だその顔は! 舐めてんじゃねぇぇぞぉ!」



怒り心頭を貫くと言わんばかりに、クジョーは恐ろしい速度でラッシュを繰り出していく。

右フックからスナップを利かせた牽制、重心を巧みに移行しての左ハイキック、更にキックの勢いを殺さず、素早くターンを入れて左ソバット。

そこから強烈なワン・ツーのコンビネーション。


しかしそのどれもは“バイザー”の完全なる見切りによって当てる事叶わず、

攻撃を外せば外すほどクジョーの激昂のボルテージは上がっていき、生来のものにプラスして冷静さを忘れていく。



「男のクセにチョロチョロなよなよ避けやがってよぉ……むかつくぜぇ、このカマ野郎が!」



クジョーは怒りの咆哮を上げた。

そして攻めの一手を止めたかと思うと、彼は背中を丸めながら両腕をぐっと胸に寄せ、厳つい両肩に顔を埋めたではないか。

低い低い姿勢からは、フットボール選手のタックルを彷彿とさせるものがあった。



「何だ、学習能力はあるのか」



攻撃の当たらない相手に効果的な攻めをするには?

カイにはその答えが、即ちクジョーの次の一手が読めていた。



「言ってろや女男! 自慢そうなその顔をゲロ祭りにしてやらぁぁ!」



それはミーナの地擦りに似た動きで、しかしクジョーの体躯ではまるでそれとは違う迫力で、彼は一瞬でカイの懐に潜り込んだ。


そもそもカイのようにアウトサイドから攻撃をかわす戦法というのは、打たれ弱さを素早さでカバーする為にある。

ならば足を止めさえすれば、一撃でスタンスを崩しさえすれば、戦闘の主導権はすぐに切り替わる。


攻撃の当たらない相手に効果的な攻めをするには?

そう、答えとは即ち――インファイト。

自らを壁に檻にと使い、圧倒的至近距離から一撃一撃を放つことだ。



「反吐ぶちまけなっ!」



「カイ!」



「カイ君!」



クジョーの右“グローブ”が手首までめり込み、重い音域が廃墟内を震わせた。



「が…はっ……」



「おおっと! どてっ腹に貫通したか!

ゲロ所じゃなかったなぁぁ?」



がくんとうなだれた勢いで、カイの、女性を思わせる細い唇から銀色の液体がこぼれ出る。

そしてクジョーに貫かれた腹部からも、大量のそれがどろどろと流れ落ちていく。

“ベータ”であっても“プライム”であっても、絶対的な致命傷。

一分も満たぬ内に彼は息絶える。

それは間違いなかった。



「“目”が進化して“腹”が弱点とは笑えるなぁ? ええ?

賢いクソガキちゃんよぉぉぉぉ!」



勝ち誇るクジョーの高笑いがユラとミーナを戦慄させる。



「せめて“腹”を守る“武器”ぐらい準備しとけってんだ!

大人に逆らおうなんて百年早ぇぇんだよカス!」



飛び出そうとしたユラをミーナが捕まえ、鋭い眼差しで制止をかけた。

その瞳はひどく悲しい光を灯している。

彼女の意を汲んだのか、ユラは悔しそうにその手を振り解き、小さく、強く、廃墟のコンクリ-トを蹴りつけた。



「ふふん、仲良しこよしのお仲間も助けてくれないとさ、哀れだなぁぁおい?

まあオレがリーダーを殺ったんだから、自分達じゃ勝てないのは当たり前か! あいつらの方が賢いなぁぁぁ!」



「お前は、二つ誤解を、して……いる」



「…あん? まだ喋れんのか、子供は元気でいいなぁ?

あーっはっはっは!」



器官を侵す血液にむせ返りつつも、カイは絞り出すように声を発した。



「まず一つ、あの二人は僕の言う事を忠実に守っているだけ、だ」



「ちっ、またクソガキのゴタクかよ。もう聞き飽きたっつぅの。

さっさと死ねや!」



心底うんざりした顔で吐き捨て、クジョーが“グローブ”の拳を引き抜こうとした、その時。

彼の腕をガッチリと掴むカイの手があった。



「もう一つは、僕の“腹部”は弱点などではない、という事だ」



「あん……?」



カイが面を上げる。

銀の一筋を垂らすその口端はぎりぎりと吊り上がり、いつかの都市伝説にあった“口裂け女”を思い出させるような、恐ろしいまでに残酷な異形の笑いがそこに浮かんでいた。


クジョーの拳とカイの内腑の接合点から、あの、“変化”の閃光がほとばしる。

同時にミーナはその光景から顔を背けた。

その理由は眩しさからではなく、これから起こる“プライム”の、ニンゲンでなくなったニンゲンの業深い行いから目を逸らす為に。



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