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ミュージック・スミス  作者: あーる
三人のプレリュード
3/6

そこは、荒廃した前世紀の文明の名残が、ひたすらにどこまでも続いていた。


空には体を発光させる“ムシ”が埋め尽くし、しかし塵の如き小体は土埃と科学スモッグに紛れ、それらをスクリーンにするようにして擬似的な黄昏時を演出する。


擬似的とは言え、この時代では既にそれが常識ではあるが。



「――そろそろウエストサイドに着く頃だ。

セントラルも近いぞ」



カイは旧世代の地図を取り出し、現在地を二人の仲間に指し示す。

仲間とはユラとミーナの事だ。



「セントラルには“アルファ”が在るんだよね? 菌床が。

…私達は“アルファ”に近付いても大丈夫かな?」



「大丈夫さミーナ。

俺達は“ベータ”だけど“ベータ”じゃないんだし、“アルファ”の支配は及ばないよ」



あっけらかんと言い放ちつつ、ユラは建ち並ぶ廃墟郡に目をやりやり、何やら感嘆の様子。



「おっ。

あのビルの崩れっぷり、凄い創作意欲がそそられる!

ほら見てよ、こう、巨人にかじられた跡みたいな欠け方!」



おもむろにポーチからスケッチブックを取り出し、そこへペンを走らせ始めたユラ。



「呆れた…。

セントラルの近くは“ヒカリ”も“ヤミ”も多いっていうのに」



「全くだ。

――ユラ、さっさとノートをしまえ。足手まとい扱いはされたくないだろう?」



地図をしまうカイ。


膨れるユラ。



「えええ?

そりゃカイは“バイザー”持ちだからいいけどさ……俺はそこまで“目”が進化してないから、アナログに頼んなきゃいけな」



ユラが言い切る前に、二人の仲間は各々の体の一部を発光させ、その肉体の形状を異形のモノへと変えゆく。


カイは額と目の周りを“バイザー”へ、ミーナは右手と左手を“直刀”と“車輪”へと、それぞれ光を伴い変化させた。



「え? え? 二人共なに?」



「絵筆を握る事を志しているのに、観察力が著しく低いな。

やはりお前に漫画家は向いていない」



カイは眼光鋭く周囲を見渡し、警戒心をあちこちに向ける。

彼の玉石の瞳には何かが“見えている”のだ。



「カイも言い過ぎよ。

…ユラ、構えて」



そう言ってミーナが右手に力を込めた瞬間、“車輪”は外周にペティナイフ程の刃を生やした。

数本のそれらを纏う“車輪”は“船舵”にも見える。



「て、敵?

――分かったっ」



仲間達が戦闘体勢をとった事でようやく事態を察して、ユラは小さく屈み右手に全神経を注ぐ。


すると左手で抱えるようにして握られた右手が、輪郭をそのままに激しい光を放ち始めた。

光は右手の輪郭を変えてゆき、

カイやミーナと同じ、ヒトならざるものへと変貌を遂げさせる。


二人のように瞬間的な変化ではなかったが、そこには確かに、武器となった右腕が存在していた。


形態は――“立方体”。

ホテル用の冷蔵庫のような、ただの大きな立方体である。



「準備万端!

敵はどこだ!?」



「…数は五、ここから六十メートル程先の、左手の建物だ」



閑散。そして荒涼とした通りの先を、カイは真っ直ぐに注視している。



「セントラルは激戦区の一つだもんね。…分かりきってるけど、いよいよ“アルファ”に近付いてる証拠だわ」



「僕の調査に間違いは無い。

今回の奴らもおよそ陣の外周に当たるだけだ。さっさと片付けるぞ」



「…了解!」


――荒廃しきった終末の世界に平和を願う三名の若き戦士。


少年ユラ。


少女ミーナ。


青年カイ。


異形の身となった肉体を動かすのは、真の希望の現れか。はたまた闇雲にもがく愚考の境地か。

その答えを知る者は未だ存在しない――。





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