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ミュージック・スミス  作者: あーる
三人のプレリュード
2/6

―ボロボロの鉄板でコラージュした机に、三十枚ばかりの原稿が重ねられていく。



「あっはは、何このマンガ、序盤で死んじゃってどうすんのよユラ君」



最後の一ページを読み終えた後、継ぎ接ぎの鉄板で囲まれた一室に少女の笑い声がこだました。

垂れ目と小鼻が特徴的な、野の花のような印象を受ける少女だ。



「お、ミーナが笑ってくれた。

やったね」



「だって打ち切りエンドじゃん、笑っちゃうよ」



「そりゃあこんな世界だからさ、不条理を不条理な笑いで吹き飛ばしたくて」



“不条理”に強い語気を込めたユラ。

年の頃は十二・三。ミーナと同じか、それよりも少し幼く見える少年である。


ミーナはふんふんと頷き、最後の一ページを原稿の束に戻した。



「ふぅん…。

まあそれが目的なら上出来だと思うよ。……仕事柄ちょっと不吉だけど」



「へへ、シュールを演出してみたんだ」



がたり。


壁材と思われた、継ぎ接ぎの鉄板の内の一枚がスライドして、その向こう側から一人の青年が姿を現した。

青年の背後には鉄板張りの通路が続いている。



「…自分からシュールという言葉を使うな。自賛にしては程度が低いぞ」



「カイ! 前線はどうだった!?」



カイという名の青年はユラ達と机を囲み、その上に置かれていた漫画の原稿を一瞥した。

僅かに嫌悪の表情を浮かべた事を目に認め、ユラとミーナは気まずそうに目を伏せる。


眉をひそめつつカイは言う。



「…どうもこうも、相変わらず“ヒカリ”と“ヤミ”の戦り合いにはうんざりするよ。

僕達が戦争を終わらせようと動くのが、そんなに気に喰わないんだろう」



口を動かしつつ、カイは額を包むようにして手をあてがった。

すると掌で隠された陰で眉丘に光が灯り、彼が手をどかした時には“それ”は“それ”で無くなっていた。


この間、僅か一秒に満たない。


見るとカイの双瞳からは白目が失われ、緑色に輝く玉石が目となっている。

その両目を囲うようにして、縦幅は頬骨から額の富士・横幅は左右のこめかみに渡る金属が、それぞれ“顔の一部”として役目を果たしていた。


まるで瞬時に暗視用のスコープを装着したように見える。形状はカトーマスクという所。

これを“バイザー”と彼らは呼んでいる。



「あいつらと来たらいつも争い続けてる癖に、僕がフリーだと気付いた途端、血相変えて僕を狙って来る。

…まぁ僕に限らず、お前達もだろうが」



カイは“バイザー”の瞳で机を見やり、そこに置かれていた原稿を纏めて手に取った。

原稿の右下には小さく“YURA”と記されてある。



「ともかく、あいつらは只の戦争狂だって話さ。“世界を平和に”なんて言ってるのも、もう既に意味の無い戯言だ。

戦争の為に戦争してるんだよ」


手にした原稿をめくるでも無く、しかしもう読み終えたかのように“バイザー”の発現を止めて、大きく溜め息をついたカイ。


玉石でなくなったその瞳がユラを睨む。ユラは蛇の眼下に鎮座する蛙の如く凍てつき、気まずさの極みと言った面持ちで伏し目になった。



「…で、僕が前線の偵察に行ってる間、お前はこんな下らない物を描いて遊んでいた、というのが待機報告なんだな?」



「あは、あはは…。

いやぁ“笑い”でカイを迎えようかな~なんて思って…」



「笑えないな」



断じるカイに反論も言い訳も不可能だと、ユラもミーナもよく知っている。


しかし驚いた事に、カイは打って変わった柔らかい表情を浮かべて、すぐに言葉を継ぎ足した。



「…だが努力と心意気を評し、礼の代わりに良い事を教えてやろう」


思わず顔を上げるユラ。



「お前に漫画を描く才能は無い。

その事を肝に銘じたら、すぐに出立の準備を始めろ」



獅子脅しのようにがっくりとうなだれたユラ。

間髪入れずに、彼の脇からミーナが一歩出た。



「出立って……カイ君、帰って来たばかりで休憩もしてないじゃない。

そもそも行き先はもう決まったの?」



「休憩は要らない。

運良く道中で“食事”を済ませられた。それに道の目処も目的地も確定している」



“食事”と聞いて、ミーナは心配そうな顔から表情を曇らせ、しかし安心したように頷く。



「それなら、いい、けど。

次の目的地は…どこ?」



机に突っ伏したユラを横目に、カイは口を開いた。





「“セントラル”だ」




舞台は地球、場所はとある島国で。

彼らは仮宿から、かつての都心へ。


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