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ジジイ×演説=???

デリム=ヴォートヘルムは、代々『天上機兵(ゼニス・マキナ)』に跨る選ばれし一族だ。人々の魂が埋め込まれたゼニスを操るのは、才能が物を言う。


彼女は長い歴史を紡ぐ一族の中で、歴代最高の適正率を誇っていた。


通常のゼニスパイロットならば、適正率が三割前後。地方のエースパイロットの平均が四割。国が抱えるエースだと六割を超えてくる。しかしデリムは、なんと適正率八十二パーセントを叩き出した。


故に宇宙最大規模を謳う養成機関、『マキナ学園』でも彼女の才能は飛び抜けている。


そのはずだった。


「っ、何なんですかあのムカつく女は!適正率九割五分?……イカサマに決まってるじゃないの!!!」


金の刺繍が施された特殊なカップを乱雑に放り投げ、紅茶が滴るのも気にせずデリムは机を大袈裟に叩く。


八割の時点で机上の空論と呼ばれる才能の持ち主なのに、それを超えてくる才能を自分と同じ年齢の少女が叩き出した。測定器にミスやエラーなどは見つからず、何度検査しても同じ結果が帰ってきたという。


嫉妬の視線を向けられる立場の彼女が、今度は妬む側に回ってしまう怒りは計り知れないものだった。


「……殺すしか、ないわね。ヴォートヘルムの名を継ぐものとして、木っ端の一般人如きに遅れを取る訳には行かないわ」


どうせ死んでも蘇る。

その時には記憶も人格もないが、命や魂が軽くなった時代において殺人はパン泥棒よりも遥かに手の出しやすい手段に成り果てている。


故に、彼女は側近の部下に例の少女の殺害を命じた。


人が容易く息絶える毒を食事の中に混入し、明日の新入生代表挨拶までに殺す。そして後はエスカレーター式で、デリムが代表に成り代われば完了だ。


死んだばかりの器に新たな魂が宿る可能性は低く、宿った頃には例の少女の居場所はない。


──はずだった。


翌朝。

代表挨拶が自分になるという期待を募らせていた彼女に待ち受けていたのは、少女の無事を知らせる通知。


震える指で端末を操作すれば、画面には本日の予定が表示される。マキナ学園入学式、新入生代表挨拶、代表者名──そこに記されていたのは依然として例の少女の名前だった。


欠席通知も死亡報告もない。変更申請も出ていない。


つまり予定通り入学式へ参加するということだ。


「なんですって!?」


この日のためにと化粧をしていたデリムが怒号をあげるのは、当然のことだった。暗部の者が失敗するはずはなく、毒の入った食べ物をしっかりと口にしていた報告も受けている。


なのに何故が生きている。


疑問と怒りが綯い交ぜになる中、入学式は無情にも予定通り開催されてしまった。


マキナ学園中央。

数千人もの新入生が集う巨大な施設の最前列で、デリムは苦々しい表情を隠そうともせず壇上を睨み付けていた。


本来なら、本来ならあそこに立つのは自分だった。適正率八十二パーセントで、歴代最高。ヴォートヘルム家の誇り。それら全てを背負い、新入生代表として華々しくデビューするはずだったのだ。


なのに。


「おいおい、すげぇな……」

「九十五パーセントらしいぜ?」

「人類最高峰って聞いたよ」


周囲から聞こえてくる声は、全てあの女の話題ばかり。デリムは思わず爪が食い込むほど拳を握り締めた。


そんな中、司会者の声が講堂全体へ響き渡る。


『それでは新入生代表による宣誓を行います。


イクシーさん、前へ』


憎き女の名前が呼ばれると同時に、コツコツと壇上に足音が鼓膜を刺激する。そこには報告で見たような眼鏡姿の根暗女──の姿はなく、新雪のような白髪と澄んだ青い瞳の、美麗な少女が歩いていた。


見るものが圧倒される、覇気にも似たオーラ。

今日という晴れ舞台の為にめかしこんできた少年少女、或いは両親の視線のすべからくを、イクシーという少女は釘付けにしていた。


ある者は見惚れ。

ある者は嫉妬に濡れ。

またある者は自身がただのモブに過ぎないと現実を突きつけられる。


それほどまでに、彼女は異質だった。


確かに美しい。遠目で見れば、女神や天使と見惑うほどの美貌を誇っている。だがそんなものは、この学園に集う上流階級の子女なら珍しくもないのだ。遺伝子調整技術が発達した現代において、容姿など金で買える付属品に過ぎない。


壇上へ向かうイクシーにはそれらとは別種の何かがあった。


まるで何十年も人生を生き抜いてきた老人のような落ち着きと──必死に生へしがみつく獣のような眼光。


誰も口を開けずぼうっと眺めることしか出来ない光景に、デリムは“主役”という二文字を嫌でも突き付けられた。


壇上に辿り着いたイクシーは、周囲の視線を奪いながらマイクを手に取る。そして、桃色の小さな唇を粗暴に歪めて口を開いた。


『紹介に預かったイクシーだ。本当ならここで春の訪れがどうのこうのなんて述べるんだが──』


壇上に立った少女は、一枚の紙を見て即座に破り捨てた。


会場がざわつき、教師達の顔が引き攣る。そんな反応など気にも留めず、イクシーは堂々とマイクを握り締めてギラつく青い眼光を新入生徒へ向ける。


『──長ったらしい挨拶はキライだから、単刀直入にいう。お前らはオレの踏み台でしかない。エースパイロットになりたいやつもいるかもしれんが、生憎その席は予約してある。精々、オレに蹴落とされんように頑張れ。


以上』


言い終わるや否や、イクシーは背を向けて国旗に敬礼をする。その間、一度も拍手の音が響くことはなかった。


講堂全体が静まり帰ったのだ。

数千人もの新入生、保護者、教員たち。その誰もが、自分の耳を疑ったからだ。


普通ならば未来への希望を語る場だろう。努力だの友情だの、人類の発展だの、そういった耳障りの良い言葉を並べるのが代表挨拶というものだろう。だというのに、厳しいまでの現実を突き付けてきた天才の言葉に、誰も反応を返すことは出来なかった。


ただ一つ確かなのは今日この日において、イクシーという少女がどれだけぶっ飛んだ生徒なのかを知らしめた挨拶になったことは間違いない。それは勿論、デリム=ヴォートヘルムも変わりない。


彼女は理解したのだ。

マキナ学園に入学したイクシーは決して天才などではない。


──まさしく、怪物だ。




───☆




我ながら良い演説だ。

誰が転生前の肉体()を殺したのか分からんが、そいつにも牽制になっただろ。


オレは壇上から降りながら小さく欠伸を噛み殺した。


正直、入学式だの代表挨拶だのには欠片も興味がない。興味があるのはただ一つ。この世界で最も強いゼニスに乗り、最も高い場所へ辿り着くことだけだ。その過程で金をたんまりと稼いで、老後は静かに隠居する。


それ以外は全部ついでに過ぎん。


死んだら全部なくなるんだから、仲良しこよしも必要ない。人脈作りは大事だがな。そのためにも、クラスメイトとは適度な距離感で接するのがベストだろう。


呆気にとられたままの会場を後にした俺は、青筋を浮かべた教師に叱られながら俺の乗るゼニスについて考えていたのだった。

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