第二章 発見
その日の午後、美咲は実験データを解析していた。千日分のデータ。何百万というデータポイント。その中に、きっと何かが隠されているはずだった。
「先生、これ見てください」
高橋が興奮した様子で画面を指さした。
「何だい?」
「九百八十七日目から九百九十日目にかけて、オーキシンとアブシシン酸の濃度変化に、これまでにないパターンが現れているんです」
美咲は画面を凝視した。確かに、そこには異常な波形があった。
「これは…まるでリズムを刻んでいるみたいだ」
「そうなんです。しかも、このパターン、どこかで見たことがあるような…」
高橋は資料をめくり始めた。そして、ある論文を見つけた。
「これです! 神経細胞のシナプス発火パターンに似ています」
美咲の心臓が高鳴った。植物のホルモン変化が、動物の神経活動に似たパターンを示すというのか。
「待って。他の日のデータも確認してみよう」
二人は夢中になってデータを解析した。そして、驚くべき事実が明らかになった。
植物は、特定のストレス(例えば、水不足や温度変化)に対して、ホルモンのパルスを発していた。そのパルスのパターンは、まるでモールス信号のように、情報をコード化しているように見えた。
「信じられない…」美咲は呟いた。「植物は、ホルモンを使って『言語』を作り出しているんだわ」
「言語、ですか?」
「そう。ただの化学反応じゃない。これは、意味を持ったメッセージよ」
美咲の目に、五年ぶりに光が戻った。母が言っていたこと。植物が何かを伝えようとしているということ。それは、単なる感傷ではなかったのだ。




