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聖女の恋は始まらない  作者: 竹間単
■第三章 世界を変える力

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30/40

●第30話


「個別に監視魔法を掛けることは出来ませんか?」


「さすがに王城内で働く人間全員に監視魔法を掛けたら、私はベッドから起き上がることが出来ないでしょうね。監視魔法とともに、証拠を残すための記録魔法も使用しないといけませんので」


 王城で働く人間は百人規模で存在している。

 そんな人数相手に魔法を使用したら、瞬く間に私の魔力は底をついてしまうだろう。


「今掛けている感知魔法を解いても難しいですか?」


 常識的な意見を述べる私のことを、ルーベンが意外そうな顔で見つめていた。


「ルーベンは私のことを、無限の魔力を持つ化け物だとでも思っているのですか? 私は魔法使用の効率がいいだけで、魔力の量は他の魔法使いとそう変わりませんよ」


「少しだけ、ジェイミーは魔力の化け物かもしれないと思っていました」


「思っていたのですか!?」


 冗談で言ったのに。


「たったの数日で王城内のすべての部屋と廊下、庭園にまで感知魔法を掛けたと聞いてしまうと、はい。化け物染みているな、とは思いました」


「正直ですね!?」


「常識で考えるとあり得ないことですから。王城内のすべての部屋に感知魔法を掛けたいと提案されたときには、魔法使いジョークなのかと思ったほどです」


「なんですか、魔法使いジョークって。本気で提案したのに……ああ、冷静に考えるとジョークに聞こえるかもしれませんね」


 言われてみると、最初の人生の私なら、そんなことは絶対に無理だと断言していた気がする。

 なんだか遠いところまで来てしまった気分だ。

 人生を繰り返したことで、今の私は常識からずいぶんと離れたところに立っているらしい。


「先程の話ですけれど。個々に監視魔法を掛けるなら、ある程度は内通者候補を絞らないと無理そうです」


「内通者候補を絞る、ですか。絞りたくても今のところ手掛かりはゼロですよね。用心深い内通者です」


「王城内に潜り込んで得た情報を外に流すなんて、命懸けですからね。慎重にもなるのでしょう」


 その慎重な内通者を、どのように見つければいいのだろう。

 ローラー作戦……時期を決めて王城内の全員に監視魔法を順々に掛けたのでは、時間がかかりすぎる。

 その間に、組織に私が聖女であることがバレないとも限らない。

 だから怪しい人物を絞って監視魔法を掛けたいところなのだけれど、肝心の怪しい人物が分からない。

 どうすれば内通者候補を絞ることが出来るのだろうか。

 …………そうだ!


「内通者は組織と定期的に連絡を取ってはいるでしょうけれど、もしも急いで伝えるべきことが出てきたら、臨時で休暇を取って組織と連絡を取ろうとするのではないでしょうか!?」


「そうかもしれませんが……組織に急いで伝えるべきことなんてありますかね?」


「無いなら作ればいいのです!」


 私が良いことを思いついたと立てた人差し指は、ルーベンにそっと掴まれ、下に降ろされた。


「さすがにジェイミーが聖女だとカミングアウトをするのは駄目ですよ? そんな話が組織に伝わったら、これまでの苦労が水の泡になりますから」


「駄目かあ」


「もしかして、本当に聖女だとカミングアウトをするつもりだったのですか? ……はあ。ジェイミーは隙が多いと言うか、迂闊と言うか、何と言うか……」


 ルーベンが溜息を吐きながら首を横に振った。

 そんなに駄目な案だっただろうか。

 ……よく考えると、駄目な案だったかもしれない。

 しかし。


「じゃあ他に内通者を炙り出す方法があるのですか!?」


 頬に空気を溜めながらそう言うと、意外にもルーベンは私の意見を肯定してくれた。


「いえ、ジェイミーの作戦自体は良いと思いますよ。カミングアウトする内容が駄目なだけで」


「本当ですか!?」


「はい。組織に伝えたくなるような情報とは何か、一緒に考えましょう」



   *   *   *




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