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聖女の恋は始まらない  作者: 竹間単
■第二章 とても長い一日

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22/42

●第22話


「それにしても組織の内通者が王城内に潜んでいるなんて。困りましたね」


「組織の者ならではの特徴は無いのですか? 特徴的な刺青が入っているとか」


「そういった報告はありませんね。昨日捕縛した組織の者たちにもそういった特徴は無かったようです」


「考えてみると、一目で組織の者だと分かる刺青を入れていたら、刺青を見られた瞬間に正体がバレてしまいますものね。潜伏する人がそんな印は付けませんよね」


 目印が無い状態で組織の内通者を探すのは、骨が折れそうだ。

 どうやって探せばいいのか見当もつかない。

 派手な動きをしてくれたら見つけることも出来るだろうけれど、相手には王城に潜入している自覚があるのだから、滅多なことはしないはずだ。

 王城内の情報を外に漏らしていたことがバレたら、ただで済むはずが無いのだから。

 命がけの潜入をしている人間が、迂闊な真似をするわけがない。


「捕縛した者たちを調査していけば組織の者ならではの共通点が見つかる可能性もありますが……それが潜入する役目を持った人物にも共通するかは分かりません」


「彼らから、内通者の名前を聞き出すことは出来ないでしょうか?」


「実はすでに試みたのですが、組織の末端である彼らは内通者の存在自体を知りませんでした。その他でも断片的な情報しか与えられていないことから考えて、彼らは組織にとって捨て駒だったのでしょうね」


 組織はなかなか用心深いようだ。

 とはいえ過去三度の人生で私は組織の存在に気付きすらしなかったのだから、前進していることは確かだ。


 ……って、あれ。

 思い返してみると、ルーベンは私とは関係なく組織の存在を認識しているようだった。

 もしかして、過去三度の人生でもそうだったのだろうか。

 私を不安にさせないための配慮だったのかもしれないけれど、組織のことは私にも話してほしかった。

 過去の私は組織の話を聞いても何も出来なかったかもしれないけれど、一緒に頭を悩ませたかった。

 そう思うことは、傲慢だろうか。


 ……いや、やめよう。

 過去の人生での出来事を今のルーベンに問い詰めても意味がない。

 今の私に出来るのは、「ジェイミーにも相談をしよう」と思ってもらえるような有能さを見せることだけだ。


「王城内に潜む組織の内通者を見つけ出すのは難しそうですね。難しくても見つけますけれど」


「はい。というわけで、組織の件についてはこれからも小まめに話す必要があります。ですので、ジェイミーは王城内では、俺の恩人兼魔法使い兼未来の嫁として振舞ってください」


「嫁……」


 また嫁発言に引っ掛かってしまった私に、ルーベンが優しく微笑んだ。


「別に今すぐに結婚をしようと言っているわけではありません。頻繁に会う理由付けです」


「そう、ですよね。頻繁に会うためには、そういう嘘も必要ですよね」


「今は嘘ですが、ジェイミーと結婚したいと思っていることは事実です。組織の問題が片付いて、ジェイミーの心の整理が出来たら、考えてみてください。急かすつもりはありませんが、心の片隅にでも置いておいてもらえると嬉しいです」


「……はい」


 私が頷いてから顔を上げると、ルーベンの顔には「しまった」と書かれていた。


「すみません。少しだけ先走ってしまったので、もう嫁候補扱いされていると思います」


「えっ!?」


「考えてもみてください。ジェイミーが俺のことを『ルーベン』と呼び捨てにしているのに、誰一人注意をしなかったでしょう?」


「……確かに」


 私は食事時のことを思い出した。あの場には私たち以外にも何人もの人間がいたのに、誰も私のことを注意しようとはしなかった。

 なるほど。あれはルーベンと私がすでに深い仲だと思っていたゆえの反応だったのか。

 とはいえ、聖女であることを隠しているただの平民の私が、一国の王子であるルーベンのことを呼び捨てにしていたのだから、注意をしても良かった気はするけれど。


「ジェイミーは俺の嫁候補ですから、遠慮をせずに自由に王城を利用してください。部屋はしばらく来賓室になりますが、専属侍女を付けたので不便はないでしょう」



   *   *   *



 ……と、聞いていたのに。

 私の専属侍女であるエディットは、いくらベルを鳴らしても来賓室にはやって来なかった。


 エディットは過去のすべての人生で私の専属侍女だった、赤毛の女性だ。

 これまでの人生では健気に尽くしてくれていたのに、どうしたのだろう。


「……私が聖女だと伝えていないから、かしら」


 これまでの人生と今回との違いは、私が聖女であることを隠している点だ。

 それゆえにエディットは「聖女に対する最大限の奉仕」を、今の私にはしていないのだろう。

 考えてみると、今の私は「ルーベン王子の命の恩人として寵愛される、いきなり現れた平民の女」だ。

 怪しいことこの上ない。

 何らかの方法でルーベンの命の恩人のフリをして、王妃になろうとしている策略家のようにも見える。

 それを考えると、侍女がこのような対応になってもおかしくはないのかもしれない。


「でも専属侍女が近くにいないということは……ある意味、チャンスよね!?」


 自由に動ける今のうちに、王城内を探索しよう。

 エディットが私を蔑ろにしていることが判明したら、叱られて、きちんと専属侍女の役割を果たすようになってしまうかもしれないから。


「まずはどこを見に行こうかしら」


 私はあてがわれた来賓室を出ると、鼻歌を歌いながら王城内を歩き始めた。



   *   *   *




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