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聖女の恋は始まらない  作者: 竹間単
■第二章 とても長い一日

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●第19話


「それより趣味です! 趣味の話をしましょう!?」


「ふふっ、そうでしたね。趣味になりそうなものは見つかりましたか?」


「ええと……そうだ! 魔法は趣味に入りますか!?」


 嫉妬から話題を変えたかったのだろうジェイミーが、また趣味の話に話題を戻した。

 だが、趣味が魔法だなんて、正気を疑ってしまう。


「魔法を趣味にするのですか!? あんなに面倒くさいものを!?」


 ジェイミーは俺が魔法の勉強にどれだけ苦戦したかを知らない。あれは地獄の日々だった。


 魔法はただ魔力があれば使用できるものではなく、魔法の術式を頭の中で構築できるようになった上で、身体中の魔力を一点に集約させる技術を磨くことで、やっと使えるのだ。

 魔法の術式は初級魔法でさえ複雑で、中級以上になると考えただけで頭が痛くなってくるほど面倒くさい。


「確かに術式を覚えるまでは面倒くさいですけれど、覚えてしまえば楽しいですよ。思った通りに魔法を使えたときにはスカッとします」


 魔法の使用でスカッとする、だなんて。

 俺は一度も感じたことのない感覚だ。


「俺も初級魔法だけは習ったので、一応魔法が使えはしますが……やっぱり嘘です。数年単位で使用していないので、もう使えなくなっているかもしれません」


「そういう人、結構多いですよね。魔法って楽しいのに」


「魔法が楽しいものだと言えてしまうのなら、やっぱりジェイミーの趣味は魔法なのかもしれません」


 例えば火を付けるにしても、炎魔法を使用するよりもマッチを擦った方が簡単なため、多くの人は日常で魔法を使用しない。

 魔法を日常的に使用するのは、魔法使いとして生きていこうと決意をした、ごく一部の人間だけだ。

 大抵の人は、自分が魔法を使えることを忘れてしまったかのような生き方をしている。


 それなのにジェイミーは、趣味を考える中で「魔法」という単語が出てきたのだから、それはもう魔法が大好きなのだろう。

 本人はこれまで自覚していなかったようだが。


「ジェイミーの趣味は魔法。覚えました。あとジェイミーに聞きたいことは……好きな食べ物や嫌いな食べ物はありますか? 苦手なものがあるのなら、料理長に言って出さないようにしてもらうことも出来ますよ」


「私はなんでも食べられます。嫌いなものはありません」


「では、好きな食べ物は?」


 俺の質問に、ジェイミーはやや照れたように下を向きつつ呟いた。


「ええと……甘いものが好きです。これまでの人生で、お菓子の美味しさを知ってしまいましたので……もちろん、お菓子は食べなくても良いものだとは分かっているのですけれど。実際、今回の人生では食べてきませんでしたし」


 確かに王城に来るまでのジェイミーは、菓子を食べる生活をしているようには見えなかった。

 それなのに菓子の味を知っているということは、これも人生を繰り返していることの裏付けになる気がする。


「へえ。ジェイミーは菓子が好きなのですね。ではこれからは、毎日ティータイムを楽しんでください」


「毎日ティータイムだなんて、そんな優雅な!?」


 ジェイミーが目を見開いて驚いた。

 過去の人生でも王城で暮らしていただろうに。


 ……いや、少し違うか。

 二度目の人生では地下牢に監禁され、三度目の人生では各地を飛び回っていたのだ。

 最初の人生振り、ジェイミーにとっては数十年振りの王城暮らしになるのだろう。

 今回の人生では、優雅な生活が日常になるように、ジェイミーには幸せに生きてもらいたい。


「これから王城で暮らすのに、ティータイム程度でいちいち優雅だと驚いていては、身が持ちませんよ?」


「あの……ほどほどに楽しませていただきます」


 性格的に遠慮をしそうなジェイミーが遠慮をしなかったということは、ジェイミーはよほど菓子が好きなのだろう。

 それに先程ジェイミーは「今回の人生では菓子を食べてきていない」と言っていた。

 ということは、二度目の人生では地下牢で菓子を、三度目の人生では各地を飛び回りながら菓子を、食べていたのかもしれない。

 王宮と繋がっているのなら、菓子を手に入れることなど簡単だから。

 地下牢に閉じ込められていたとは言っても、俺が料理を運んでいるのなら、ジェイミーの好物を持ってこないはずはないし。


「このあとにもデザートの用意はさせてありますからね」


「本当ですか!?」


 ジェイミーが心底驚いたような声を出した。

 食後にデザートが出ることを、先に伝えておいた方が良かっただろうか。


「もしかして腹十分目まで食べてしまいましたか? 先に言っておけば良かったですね」


「いいえ! デザートは別腹なので問題ありません! ありがとうございます!」


 ジェイミーが力強くそう言った。

 満腹だろうからとデザートをお預けされることが嫌だったのだろう。


 少しして運ばれてきたデザートを、ジェイミーは嬉しそうに頬張った。

 なるほど、これは食べている様子を見ただけで、ジェイミーが菓子好きだと分かる。

 なお今日のデザートは、上に木苺ソースのかけられたチーズケーキだ。

 そのチーズケーキを、ジェイミーがパクパクと口の中へと運ぶ。


「まるでリスみたいですね」


「んぐっ!?」


 頬張るジェイミーが可愛いと思ってそう言ったのだが、ジェイミーは注意をされたと感じたようだ。

 慌てて自身の口元を押さえている。


「ふふっ。はしたないと言っているわけではありませんよ。こんな素敵な顔が見られるのなら、毎時間でも菓子を食べさせたくなってしまうという意味です」


 ジェイミーは驚いたように目をぱちくりと瞬かせながら、それでも口元はもぐもぐと動いている。

 はあ可愛い。


「ですが実際に毎時間菓子を摂取したら、ジェイミーの身体が心配ですね。だから今、まとめてジェイミーの嬉しそうな顔を堪能しておきますね」


 俺が楽しそうにジェイミーの顔を見つめると、ジェイミーの顔がどんどん赤くなっていった。

 それでも手は止まることなくチーズケーキを口に運んでいて、本当にリスみたいだ。

 穏やかで幸せな時間とは、今この瞬間のことを言うのだろう。


 この穏やかな時間がずっと続くように、早く組織を何とかしよう。




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