●第17話
突然名前を呼ばれた私が間の抜けた声を出すと、ルーベンは目をキラキラとさせながら言葉を紡いだ。
「大勢の王宮魔法使いが森へ行っていないことは組織に知られているようですが、数人なら森へ行ったと誤魔化すことが出来るはずです。大勢で動く仕事はさておき、さすがに数人の王宮魔法使いの行き先までは把握していないでしょうから」
それはそうだろう。
王宮魔法使いの個々の外出先なんて、内通者が把握する必要が無い。
数人で動く仕事は小さなものだろうし、ただ単にプライベートで町へ遊びに行っただけの可能性だってある。
そんなものまで調査をしていたのでは、内通者が通常の業務をこなすことが出来ない。
仕事をサボって何かを調査している人物なんて、怪しいことこの上ないから、そんな真似はしないはずだ。
「ルーベンの言う通りだとは思いますけれど、数人の魔法使いでは結界を張ることが出来ないと、組織も知っているのではありませんか?」
「そこでジェイミーなのです。凄腕の魔法使いであるジェイミーが、結界を張るのを手伝ったことにすればいいのです!」
なる、ほど……!?
「さらに俺の傷を治したのも、治癒魔法の使える凄腕の魔法使いであるジェイミーとすれば、こちらにも説明が付きます!」
確かに説明は付く。説明は付くけれど……。
「それ、私が聖女だと疑われませんかね?」
困惑する私に向かって、ルーベンが白い歯を見せて笑った。
「王城内で魔法を披露すれば、ジェイミーが聖女だという疑いは晴れると思いますよ。歴代の聖女は魔法が得意ではありませんでしたから」
「魔法が得意なことが、聖女を否定する材料になる……? 考えたこともなかったです」
「さらに! 瀕死の俺を助けた魔法使いとなれば、ジェイミーが王城にいても不審には思われないはずです。王子である俺の命の恩人ですから!」
「すごい。問題が芋づる式に解決していく……」
思わずルーベンに拍手を送る。
するとルーベンは、お茶目な様子でウインクを飛ばしてきた。
「俺だってやるときはやるのですよ。常時仕事をサボる口実を探してはいますが!」
やはりルーベンのサボり癖は変わっていないのか。
一見完璧な王子様なのに、もったいない。
……いや、親しくなることで見せるこのお茶目さこそが、ルーベンの魅力かもしれない。
私はルーベンに「仕事はサボらないで下さい」と注意をしつつも、あらためてルーベンのことを好ましく思っている自分の心を把握した。
【side ルーベン】
ジェイミーがこれまでの人生の話をしてくれた。
ジェイミーの語った話は、到底信じられるような内容ではなかった。
死に戻りなんてものが、この世にあるはずがない。
しかし。
荒唐無稽な話なのに、筋の通っている部分もあった。
例えば、森には王宮魔法使いが張ったものではない結界が張ってあったし、それならジェイミーは聖女のはずなのに魔法も得意だ。
何より、俺のこの言いようのない感情が、ジェイミーの話を裏付けているような気がする。
ジェイミーは命の恩人ではあるものの、それだけでここまで愛しい感情が芽生えるとは思えないからだ。
「次は隣国対策をどうするか、ですね」
目の前のジェイミーが深刻そうな顔でそう言った。
しかしその話を始めるとまた長くなるだろう。
それならここらで一度、話を区切った方が良さそうだ。
「そうです……が、少し話し過ぎましたね。もう午後です。一旦、お昼にしましょう」
「お昼を食べながら話の続きをするということですね!」
ジェイミーがなるほどという顔をしたが、そんなわけはない。
「いいえ。食事の場には使用人も控えていますので、こういった話は出来ません。食事中は肩の力を抜いて、雑談でもしましょう」
他人に聞かれるとマズい話だというのはその通りだが、そっちは建前だ。
ずっと小難しい話をしていたから、一度クールダウンがしたかったのだ。
それにせっかく目の前にジェイミーがいるのに、このような楽しくもない話ばかりをするのももったいない気がした。
食事の場では、自然に笑みの零れてしまうような気軽な雑談をしよう。
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