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聖女の恋は始まらない  作者: 竹間単
■第二章 とても長い一日

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15/21

●第15話


「なんだ、そういうことでしたか」


 私の言葉を聞いたルーベンは、長い息を吐きつつ安堵の表情を見せた。


「それなら別に構いません。重傷を負ったことでジェイミーと出会えましたし、何より結界のおかげで魔物が国に入らなかったのでしょう?」


「魔物が国に入らなかったのはそうですけれど……あのレベルの大怪我は、もっと怒った方が良い気がします」


「大怪我はしましたが、死んではいません。何より結界のおかげで国内でも死人は出ていませんからね。多数の死傷者が出るはずが、俺の怪我だけで終わったのなら、喜ぶべきです」


 あまりにも立派な考え方だけれど、少し危うい気もする。

 ルーベンは自分の命に対する優先度が低すぎるのだ。

 あのレベルの大怪我では、私の発見が少し遅れただけで死んでいたというのに。

 ……やはりルーベンのことは、私が守らなくてはいけないようだ。


 私が決意を新たにしていると、ルーベンが咳払いをした。


「話が逸れてしまいましたね。組織に聖女の存在を疑われている件ですが、これに関しては何とかなる気がします」


「本当ですか!?」


「ええ。一人で結界を張ることが出来るのは聖力を持つ聖女だけですが、複数人の魔法使いが集まれば魔力によって結界を張ることも可能です。森の結界は王宮魔法使いたちが張ったことにしましょう」


 そうだった。

 結界は聖女だけの特権ではなく、複数人が集まることで、魔法使いでも張ることが出来るのだ。

 あの時期あの森には結界が張られていなかったけれど、日々国の要所要所に王宮魔法使いたちが出向いては結界を張っている。

 しかし結界は一度張れば永久的に効果があるものではなく、時間とともに弱まっていって最後には消えてしまうため、王宮魔法使いはこの国で一番忙しい職業なのだ。

 きっとあの森の結界が消えてしまっていることは王宮魔法使いたちも気付いていただろうけれど、忙しすぎて結界の張り直しの手が回らなかったのだろう。


「あとは俺の治療に関してですね。これは何とでも誤魔化せるような気もしますが……」


 確かに聖力で治療をしたのか魔法で治療をしたのかは、怪我の様子を見せない限り、簡単に誤魔化せる気がする。

 しかし、そもそも。


「ルーベンの治療ですけれど、私は聖力で治療をしてはいません。そんなことをしてはルーベンに私が聖女であることがバレてしまうと思いましたから」


 そう、私はルーベンの怪我を聖力ではなく治癒魔法で治療した。

 聖力で治療をすると怪我は跡形もなく消えてしまうけれど、治癒魔法で治した場合は怪我の痕が残る。

 きっとルーベンの身体には今も暗殺者によって付けられた傷痕が残っていることだろう。

 とはいえ傷の治り具合に関しては、それほど差があるわけではない……少なくとも今回の人生の私が掛けた治癒魔法なら。


「ふむ。治癒魔法で治しているのに……不思議ですね。あまりにも情報が中途半端です」


「情報が中途半端?」


 私が首を傾げると、すぐにルーベンが解説をしてくれた。


「俺が暗殺されかけた上で生還したことは知っているのに、傷の治療方法は知らないなんておかしいとは思いませんか?」


「う、うーん……」


「昨夜捕まえた組織の者は、俺の暗殺未遂事件を知っているようでした。ただ組織がその情報を得た方法については知らないようだったのです。自白魔法を使ったので嘘ではないでしょう」


 ルーベンが暗殺されかけたことは、国民には隠されている。

 暗殺を指示した犯人がルーベンの弟だったからだ。

 兄弟間の問題を公にしたくなかった国王が、秘密裏に処理をしたのだ。

 それなのに組織はその情報を握っているらしい。


「……って、あれ。私が寝ている間に尋問が行なわれていたのですね」


「尋問を後回しにしている間に自殺されては困りますからね。なおあの者たちは組織の末端らしく、それ以外に重要なことは特に知らないようでした。森に結界が張られていたことも知らなかったみたいですね」


 組織の末端……そんな小者に私は負けてしまったのか。

 悔しい。悔しすぎる!




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