●第14話
私が一人で考え込んでいると、ルーベンがパンと手を叩いた。
「ジェイミーの状況は理解しました。差し当たって考えるべきなのは、聖女が現れたという組織の認識をどうやって消すか、聖女を求めて攻めてくる隣国をどう対処するか、魔物をどうするか、疫病をどうするか、ジェイミーの存在をどう扱うか、ですね」
決める事柄を述べるたびに指を一本ずつ立てていったルーベンは、今や五本の指すべてを天に向けている。
五個も考えなければならない事柄があるなんて。
「考えることが、あまりにも多いですね……」
「はい。早くも頭が痛くなってきたところです」
「私もです。頭を痛ませつつ、一つずつ潰していきましょう」
私が自身のこめかみを押さえながら顔を上げると、ルーベンも自身のこめかみを押さえているようだった。
「ジェイミーも頭が痛くなったのですか?」
「はい、とっても」
「ふふっ」
私の答えを聞いたルーベンが、楽しそうに笑みを零した。
「何かおかしいですか?」
「いえ、お揃いだなと思いまして。さすがは元夫婦ですね」
「お揃い、元夫婦……イッ、イチャイチャしている場合ですか!」
「ジェイミーは今のやりとりを、イチャイチャしているように感じたのですか? 純粋で可愛いですね」
ルーベンが可愛いと言った。
あまりにもさらりと、自然に。
「これまでのルーベンは、そういうことを言う人じゃなかったのに……!」
「他の男の話をすると妬いちゃいますよ?」
「他の男って、私がしているのは過去のルーベンの話で……って、それは今どうでもいいのです! 考えることがたくさんあるのですから、会話を横道に逸らさないでください!」
私がぷんぷんと怒ると、ルーベンはまた楽しそうに笑った。
なんだかルーベンの笑顔を見るのは、ずいぶんと久しぶりのことの気がする。
二回目以降の人生は、辛いことばかりだったから。
「順々に解決策を考えていきましょう。まずは、ええと……」
「組織に聖女が現れたと思われている件ですね。そもそも組織がその結論に辿り着いた理由は何でしょう?」
どの問題から考えようかと迷っていると、ルーベンが私の言葉を引き継いでくれた。
組織が聖女の存在に気付いた理由……実はこれには心当たりがある。
「もしかすると私が森に張った結界が原因かもしれません。魔物が町に入ることが分かっていたので、あらかじめ森に結界を張っておいたのです」
きっと組織はあの結界を見て、聖女が現れたと思ったのだろう。
しかも結界を張っているのだから、王宮からの指示があったとも考えたに違いない。
国内に魔物が入らないように結界を張ったり魔物退治の人員を派遣するのは、基本的に王宮の仕事だから。
「ふむ。確かに組織が森に張られた結界を確認したのなら、聖女が現れたと思ってもおかしくはありません。さらに森で暗殺されかけた俺が生きて戻ってきましたからね。森で結界を張っていた聖女に治療してもらったと考えた可能性があります」
考えた可能性がある……そりゃあこれが事実だからね。
聖女である私が森で結界を張り終えて、さてそろそろ移動するかと思っていたところに、重傷を負ったルーベンがやってきたから家で匿って治療をしたのだ。
そういえば私が森に結界を張ったことで、ルーベンを暗殺しようとしていた者たちが魔物に襲われなかったから、ルーベンは刺されてしまったのだった。
そうなることを予測できていなかったとはいえ、ルーベンには悪いことをしてしまった。
「あの、ルーベン。すみません。ルーベンが森で襲われたのは、私のせいなのです」
「えっ……まさか俺に監禁された仕返しで、弟に俺の暗殺をけしかけたとか? ジェイミーを監禁したのは別の俺とはいえ、俺は俺なのでジェイミーを責められませんが……そうですか、殺すほど……」
「違いますからね!?」
見当違いの予想で落ち込み始めたルーベンに、慌てて私の言葉の意味を説明する。
「過去三度の人生では、ルーベンを暗殺しようとしていた者が森で魔物に襲われたことで、ルーベンの暗殺は失敗に終わっていたのです。ですが今回は私が森に結界を張ってしまったから、暗殺者が魔物に襲われず、ルーベンを……」




