●第11話
転移先は町の裏通りにした。
まず解けてしまっていた目視不能の魔法を再度自身に掛け、男から距離を取る。
そうしてから、男に掛けていた拘束魔法を解いた。
拘束の解けた男は、すぐに自身の身体に魔法を掛け、何も魔法が掛けられていないことを確認していた。
追跡魔法を掛けようか悩んだけれど、男が魔法使いだったためやめておいた。どうやらこれは正解だったようだ。
ちなみに男から魔力の大部分を吸収しておいたのは、魔物を召喚されたくなかったのもそうだけれど、それよりも転移魔法を使われると厄介だからだ。
転移魔法の使えない男が組織のアジトまで徒歩で移動してくれればいいのだけれど……どうだろう。
こういう場合、期待は大抵裏切られるものだけれど、なんと期待通りに事が運んでしまった。
男が徒歩でアジトまで向かったのだ。
「こんなの尾行している私が驚くわよ。この組織、大丈夫なの?」
たぶん大丈夫ではない。
大丈夫な組織なら、こんなに簡単にはアジトの場所を追跡されないし、そもそもあの男は喋り過ぎだ。
私にあんなにペラペラ喋っておいて平然と組織に戻ってこられるのだから、組織としてずさん過ぎる。
私が手を下すまでもなく、崩壊しそうな組織だ。
そう。私は組織を潰すために男を追跡してきた。
もしかすると、二度目の人生で魔物が国を占領したのも、ルーベンに『聖女の慕情』の能力を使わせるためだったのかもしれない。
三度目の人生で国に疫病が流行ったのも、『聖女の慕情』を使わせるために、組織が国に感染源を持ち込んだ可能性がある。
いつだってこの国は、男の所属する組織のせいで滅んでいたのだ。
「聖女である私に非が無かったとは言わないけれど、それでも組織がある限り、この国に安寧はないわ」
それに、何より。
「組織にルーベンが狙われ続けるなんて、そんな未来は私が許さない!」
【side ルーベン】
遡ること三十分前。
ホールに集まった令嬢たちを、俺はホール上層の窓から確認していた。
「華奢で、銀髪で……ああ、俺は彼女の瞳の色すら知らなかった」
老婆の姿のときは紫色の瞳をしていたが、本当の彼女の瞳は何色なのだろう。あの紫色の瞳も偽装したものだったのだろうか。
俺は彼女のことを知らなすぎる。
ホールを見ながらひたすら銀髪の女を探していたはずなのに、ふととある茶髪の女に目がいった。瞳は老婆と同じ紫色だが、どこからどう見ても茶髪……なのに、妙な確信があった。
彼女だ、と。
彼女はホールの端に控えていた使用人に何かを言うと、ホールから出て行った。
急いで彼女のあとを追う。
追いかけてから、彼女の行き先がトイレだと気付き、どうしようかと唸った。
しかし彼女はトイレには入らず、なぜかこそこそと大きな花瓶の陰に隠れ、スカートの中から杖を取り出して自身に魔法を掛けた。どうやら彼女は王城内に杖を持ち込んでいたらしい。
……王城の警備体制を見直した方が良さそうだ。
しかし困った。
彼女が使ったのは目視不能の魔法だったからだ。
彼女と話したいという気持ちもあったが、それ以上に目視不能な状態で彼女が何をするつもりなのかが気になった。
「まさか盗みを働くつもりか?」
彼女はそんなことをしないと思いたいが、ではなぜ王城内に杖を持ち込んで目視不能の魔法を掛けたのかと問われると、答えに困る。
そして俺は魔法に詳しくはないため、これでは彼女の痕跡を追うことが出来ない。
「仕方ない。王宮魔法使いたちに頼むか」
今夜は、思っていた以上に大変なパーティーになりそうだ。




