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ホームセンター店員、過労死して異世界へ。聖剣もフォークリフトも俺にはただの「道具」ですが?【ウェポンズマスター】のDIY無双  作者: 月神世一


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EP 9

悪夢と限界

 熱い。

 全身が焼けるように熱い。

 過労で熱を出した時の、あのじっとりとした不快感ではない。

 肌が焦げるような、物理的な熱波だ。

「……ッ、ぐぅ……!」

 俺は息を呑み、目の前の光景を見上げた。

 そこは、全てが燃え盛る荒野だった。

 空は黒い煙に覆われ、地面は溶岩のように赤く脈打っている。

 そして、俺の眼前に「絶望」が鎮座していた。

 全長、五十メートル以上。

 山のような巨体のドラゴンだ。

 その鱗は一枚一枚が鋼鉄の盾のように分厚く、吐き出す息は空間すら歪ませている。

「……危険予知(KY)活動、確認。……対処不能」

 俺の口から、乾いた業務報告が漏れる。

 俺の手にあるのは、自作の『アトラトル(投槍器)』と、石ころだけ。

 『GROOOOOOOOOOAAAAAA!!』

 ドラゴンの咆哮だけで、鼓膜が破れそうになる。

 俺は反射的にアトラトルを構えた。

「貫通しろ……ッ!」

 渾身の力で、木の槍を投射する。

 ヒュンッ!

 音速に近い速度で放たれた槍は、ドラゴンの眉間に吸い込まれ――

 カィィン!!

 軽い音を立てて、爪楊枝のように弾かれた。

 傷一つついていない。

 物理的な質量と硬度が、桁違いすぎるのだ。

「兄貴、逃げろぉッ!!」

 横からイグニスが飛び出した。

 全速力で突っ込み、愛用の両手斧をドラゴンの足指に叩きつける。

 だが、ドラゴンは煩わしそうに尻尾を振っただけだった。

 ドォォォン!!

 「がはっ……!?」

 イグニスがハエのように叩き落とされ、瓦礫の山に埋まる。

 あの頑丈な斧が、飴細工のようにひしゃげていた。

「イグニス!!」

 ドラゴンがゆっくりと俺に向き直る。

 その喉の奥で、灼熱の光が凝縮されていく。

 ブレスが来る。

 防ぐ手段は? ない。

 避ける手段は? 間に合わない。

 俺の『道具』では、この『災害』には対応できない――。

「――ッ!!」

 ガバッ!

 俺は弾かれたように上半身を起こした。

「はぁ……はぁ……はぁ……ッ!」

 荒い呼吸。全身から噴き出す冷や汗。

 視界には、見知らぬ天井。

 窓の外から差し込む朝日と、小鳥のさえずり。

 そこは地獄の戦場ではなく、シェアハウスの一室だった。

「……夢、か……」

 俺は乱暴に前髪をかき上げた。

 心臓の早鐘が止まらない。

 あまりにもリアルな感触だった。ドラゴンの圧倒的な質量と、自分の無力さ。

 俺は震える手でサイドテーブルの『赤マル』を掴み、一本取り出した。

 ライターで火をつける。

 カシュッ、ボッ。

「スーッ…………ふぅ」

 肺にニコチンを流し込み、強制的に脳をクールダウンさせる。

 落ち着け。あれはただの悪夢だ。

 だが、俺の『危機管理能力』が警告している。

 「あれは、いつか起こりうる現実だ」と。

 俺は自分の手のひらを見つめた。

 昨日は浮かれていた。

 石ころ一つで魔物を倒し、ギルドの試験をパスして、いい気になっていた。

 だが、所詮は小手先の技術だ。

 ウサギやオーク相手なら通用する。

 だが、あの夢に出てきたような「本物」が現れた時、石ころや木の棒で家族(シェアハウスの連中やイグニス)を守れるか?

 答えは否だ。

 『安全第一』。

 俺のモットーを守るためには、リスクを排除できるだけの『力』が必要だ。

「……道具が、足りない」

 圧倒的な質量。

 絶対的な破壊力。

 小細工なしで、あの分厚い装甲をぶち抜くための『重機』が必要だ。

 俺は吸い殻を消し、着替えた。

 ポロシャツの襟を正し、隣の部屋へ向かう。

「起きろ、イグニス」

「むにゃ……もう食えねぇよぉ……ラーメン……」

 大の字で寝ているイグニスの腹を、軽く蹴り飛ばす。

「うおっ!? て、敵襲か!?」

「仕事の時間だ。顔を洗ってこい」

「なんだよ兄貴ぃ……まだ朝早いぜ……」

 目をこするイグニスに、俺は真顔で告げた。

「買い物に行くぞ」

「買い物? 金なんかねぇだろ?」

「金を出して買うとは言っていない」

 俺はニヤリと笑った。

 新品の武器防具を買う金はない。

 だが、俺には【ウェポンズマスター】と、ホームセンターで培った【DIYアドバイザー】の知識がある。

「作るんだよ。俺たちの命を守る、最強の『道具』をな」

 俺の脳裏には、既に設計図ブループリントが浮かんでいた。

 繊細な剣技など必要ない。

 どんな装甲だろうが、質量と運動エネルギーで粉砕する。

 そう、あれは剣というより――

「行くぞ。ドワーフの『廃材置き場』を探す」

 俺の目は、完全に「業務モード」に切り替わっていた。

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