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ホームセンター店員、過労死して異世界へ。聖剣もフォークリフトも俺にはただの「道具」ですが?【ウェポンズマスター】のDIY無双  作者: 月神世一


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8/21

EP 8

涙の生ビール

 シェアハウスでの契約(という名の建物修繕)を終えた俺たちは、歓迎会と称して街へ繰り出した。

 向かった先は、大通りに面したファミリーレストラン『タロウキング』。

 オレンジ色の看板が夜の街に輝いている。

「いらっしゃいませ! 5名様ですか? 喫煙席と禁煙席、どちらになさいますか?」

 制服を着た人間の店員アルバイトだろうかがマニュアル通りの笑顔で迎えてくれる。

 俺は一瞬、ここが異世界であることを忘れかけた。

 店内の喧騒、食器がぶつかる音、ドリンクバーの氷が落ちる音。

 前世で幾度となく見た光景だ。

「喫煙席で頼む」

「かしこまりました。奥のボックス席へどうぞー」

 案内された席に座るなり、リベラがメニュー表を広げて宣言した。

「今夜は私の奢りですわ。新入居祝いと、ドアを直してくれたお礼です。遠慮なく好きなものを頼みなさい」

「ゴチになります! オーナー!」

 イグニスが待ってましたとばかりにメニューに食いつく。

 俺も遠慮はしない。ブラック企業の社畜時代、他人の金で飯を食う機会など皆無だった。

「じゃあ俺様は、この『メガ盛りハンバーグ』と『ロックバイソンのステーキ』、あと『山盛りポテト』だ!」

「私は『日替わりスープランチ(パン食べ放題)』で! あ、ドリンクバーもつけていいですか!? いいですよね!?」

「私は……このパフェが食べたいです~」

 イグニス、リーザ、ルナが次々と注文していく。

 俺はメニューの隅にある、ある一点を見つめていた。

 喉が鳴る。

 震える指で、店員に告げる。

「……とりあえず、生中ナマチュウ。あと枝豆」

 ***

 料理が運ばれてくると、テーブルの上は戦場と化した。

「うめぇぇ! なんだこの肉汁は! ソースが絶品だぜ!」

 イグニスがフォークを握りしめ(力が強すぎて曲がりそうだ)、ハンバーグを丸呑みにしていく。

「あぁ……コーンスープが温かい……クルトンも入れ放題……幸せ……」

 リーザはスープバーの前から動かず、ひたすら液体とパンで腹を膨らませている。悲しいアイドルだ。

「見てくださいキャルルさん、このスプーン、曲げると面白いですよ~」

「やめてルナちゃん! 備品破損で出禁になるから!」

 ルナが無意識に『物質変形』の魔法を使いかけ、キャルルが必死に止めている。

 そんな喧騒の中、俺の目の前に「それ」が置かれた。

 ドンッ。

 重厚なガラスのジョッキ。

 表面にはうっすらと霜が張り、水滴が垂れている。

 黄金色の液体と、その上に乗ったクリーミーな泡の比率は、完璧な7対3。

 『プレミアム・モルツ(太郎国醸造)』。

「…………」

 俺は無言でジョッキの取っ手を掴んだ。

 ずしりとした重み。

 冷たさが手のひらに伝わる。

 ゆっくりと持ち上げ、口をつける。

 冷たい泡が唇に触れ――次の瞬間、冷徹なまでの黄金の奔流が喉を駆け抜けた。

 キュァァァァァッ!!

 炭酸の刺激。ホップの苦味。麦の香り。

 そして何より、暴力的なまでの「冷たさ」。

 ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……プハァッ!!

 ジョッキの半分を一息に飲み干し、俺は息を吐いた。

 その瞬間、視界が歪んだ。

「……っ」

 鼻の奥がツンと熱くなり、目から熱いものが溢れ出した。

「えっ? り、竜さん!?」

 キャルルが驚いて声を上げる。

 俺は慌てて手で拭ったが、涙は止まらなかった。

 前世の記憶がフラッシュバックする。

 深夜二時。散らかったワンルームのアパート。

 コンビニで買った発泡酒は、帰宅する頃には温くなっていた。

 味なんてしなかった。ただ、泥のように眠るためのアルコール摂取。

 「お疲れ様」なんて、誰にも言われなかった。

 ――だか、今は違う。

「あ、あの……お口に合いませんでしたか?」

 リベラが心配そうに覗き込んでくる。

「いや……美味い……。美味すぎて、ちょっと……」

 俺は掠れた声で答えた。

 目の前には、美味そうに肉を食う相棒。

 騒がしいが、裏表のない住人たち。

 そして、キンキンに冷えた本物のビール。

 俺は今、生きている。

 過労死して、異世界に来て、ようやく「人間らしい生活」を取り戻したんだ。

「……あらあら。殿方が泣くなんて、よほど苦労されたのね」

 リベラが優しく微笑み、俺のグラスに瓶ビールを追加で注いでくれた。

「飲みなさい。今日は忘れて、楽しみましょう」

「……ううっ、わかりますよ竜さん! 空腹に染みると泣けてきますよね!」

 リーザが勘違いした同意を求めてくる。

「兄貴! 泣くほど美味いのか!? 俺様もそれ飲む!」

 イグニスが俺のジョッキを奪おうとして、キャルルに叩かれる。

 俺は涙を拭い、照れ隠しに枝豆を口に放り込んだ。

 塩気が、涙の味と混ざって、やっぱり美味かった。

 ***

 宴は深夜まで続いた。

 シェアハウスに帰った頃には、日付が変わっていた。

 あてがわれた部屋は、六畳ほどの洋室。

 家具はまだないが、リベラが用意してくれた敷布団が一組ある。

「……布団だ」

 俺は倒れ込むようにダイブした。

 ふかふかの感触。

 森の土の上でも、会社の固いパイプ椅子でもない。

 足を伸ばして眠れる場所。

「……明日は、何時に起きてもいいんだな」

 スマホのアラームをセットする必要はない。

 早朝出勤も、棚卸しの準備もない。

 俺は天井を見上げ、深く深呼吸をした。

 満腹感と、程よい酔い。

 瞼が重くなる。

 おやすみ、俺。

 本当の人生は、ここからだ。

 意識は泥のような眠りへと落ちていった。

 ……その眠りの先に、とんでもない悪夢が待っているとも知らずに。

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