EP 7
リーザとルルシアの潜入捜査(貧乏)
T-SWAT本部。
ボナパルトの自白により、新たな事件の糸口が見つかった。
彼が借金を作っていた『違法カジノ』の存在だ。そこには、数多くの指名手配犯が出入りしているという情報もあった。
「……資金がない」
リーザが亡霊のように呟いた。
彼女の5000万タローは、全て女神のガチャと本部の設備投資に消えた。
今の彼女の財布には、昨日拾った小銭と、期限切れ間近のクーポン券しか入っていない。
「稼ぎましょう、パイセン!」
ルルシアが鼻息荒く、一枚の手配書をテーブルに叩きつけた。
「見てください! この男、『イカサマ師のジョーカー』! 懸賞金はなんと100万タローです!」
100万。
その響きに、リーザの目がカッと見開かれた。
「100万……! もやしが……一生分買える……!」
「違法カジノに出没するという情報があります。潜入捜査して、この賞金首をふん捕まえましょう!」
「乗ったわ! 行きましょう後輩! 私たちの『老後』を取り戻すのよ!」
こうして、金欠アイドルコンビによる、無謀な潜入捜査が始まった。
***
繁華街の裏路地にある、会員制の高級違法カジノ『ゴールデン・スライム』。
その重厚な扉の前には、身長2メートルはあろうかという巨漢の用心棒が立っていた。
「……止まれ」
用心棒が太い腕で通せんぼをする。
目の前には、アルミホイルと古着をリメイクしたドレスを着たリーザと、薄汚れたゴスロリ服のルルシア。
「こ、ここを通しなさい! 私たちは……えっと、大富豪の令嬢よ!」
リーザが精一杯の虚勢を張る。
「会員証は?」
「な、ないわよ! これから作るの! キャッシュで払うわ!」
「……帰れ。貧乏人の臭いがする」
用心棒は鼻をつまみ、シッシッと手を振った。
「なっ!? 失礼な! このドレスは最新の……!」
「アルミホイルだろ。スーパーの裏口へ行け」
ドンッ!
二人はつまみ出された。
物理的にも、社会的ステータス的にも、門前払いだった。
「くっ……! 覚えてなさいよ! 私が売れたら、この店ごと買い取って更地にしてやるんだから!」
リーザが捨て台詞を吐くが、扉は無情にも閉ざされた。
「どうしましょう、パイセン。正面突破は無理みたいです」
「裏口よ! 裏口からなら、従業員のフリをして入れるかもしれないわ!」
二人は建物の裏手へ回った。
そこには、カジノから出たゴミが集められる集積所があった。
生ゴミの腐臭と、高級酒の空き瓶の山。
「うっ……臭いますね」
ルルシアが顔をしかめる。
「我慢なさい。……ん? 待って、この匂い……」
リーザが鼻をヒクつかせた。
彼女の『貧乏センサー』が反応したのだ。
「……高級なオードブルの残り香がするわ!」
「えっ!?」
二人の視線が、巨大な鉄製のゴミ箱に釘付けになった。
カジノの客が残した、手つかずの料理が捨てられているかもしれない。
「も、もしかしたら……キャビアとか、フォアグラとかが……」
「確認しましょう! これは捜査です! あくまで捜査の一環です!」
潜入捜査という目的が、いつの間にか『残飯あさり』へとすり替わっていた。
二人は涎を垂らしながら、巨大なゴミ箱の蓋に手をかけ、勢いよく開け放った。
「御開帳ぉぉぉッ!!」
ガバァッ!
「ひぃぃぃッ!?」
中から悲鳴が上がった。
ゴミ箱の中にいたのは、キャビアでもフォアグラでもなかった。
タキシードを着崩し、顔中をソースと油で汚した、小柄な男だった。
「……え?」
「……誰?」
リーザとルルシアが固まる。
ゴミ箱の中の男も、食べかけのピザを片手に固まっている。
「お、俺はゴミじゃねぇ! 食べないでくれぇぇッ!」
男が叫んだ。
リーザはその顔をじっと見た。そして、懐から手配書を取り出し、見比べた。
特徴的な髭。タレ目。そして、右頬のホクロ。
「……あ」
リーザの瞳孔が開いた。
「100万タロー……!!」
男の正体は、指名手配中の『イカサマ師のジョーカー』だった。
彼はカジノでのイカサマがバレて組織に追われ、なんとこのゴミ箱の中に身を潜めていたのだ。
「ヒッ! け、警察か!? いや、その目は……魔物の目だ!」
ジョーカーは本能的な恐怖を感じ、ゴミ箱から飛び出して逃げようとした。
だが、相手が悪かった。
今のリーザは、賞金首を前にした飢えた獣だ。
「逃がすかぁぁぁッ!! 私の生活費ぃぃぃッ!!」
ドゴォッ!!
リーザのタックルが炸裂した。
彼女はジョーカーの背中に飛び乗り、マウントポジションを取った。
「ルルシア! 足を押さえなさい!」
「はいっ! 観念なさい! 貴方は私たちの糧となるのです!」
「い、いやだぁぁ! 食われるぅぅ! 金ならやる! 金ならあるんだ!」
ジョーカーが懐から札束を出そうとする。
「その金も! 貴方の身柄も! 全部頂くわよぉぉッ!」
もはや強盗である。
リーザは野草生活で鍛えた握力で男の首を絞め上げ、ルルシアは慣れた手つきで男のベルトを抜き取り、手足を縛り上げた。
***
数十分後。
T-SWAT本部に、二人の少女が帰還した。
彼女たちは、ゴミと生ゴミの汁にまみれ、異臭を放つ「何か」を引きずっていた。
「た、隊長……捕まえました……」
「賞金……賞金を……」
リーザとルルシアは、ゾンビのような形相で、ぐるぐる巻きにされたジョーカーを竜の足元に転がした。
「……おい」
竜はコーヒーカップを置いた。
「なんだこの生ゴミは」
「賞金首です……! ゴミ箱の中で……『鮮度抜群』でした……」
リーザが親指を立てて、白目を剥いて倒れた。
竜はため息をつきつつも、その執念に感服せざるを得なかった。
「……よくやった。リベラ、査定してやれ。あと、この二人に風呂と飯を」
こうして、T-SWAT初の潜入捜査(ゴミ漁り)は、見事に大金星を挙げたのだった。
ただし、本部はしばらくの間、カジノの裏路地の臭いが消えなかったという。




