EP 9
LOVE&MONEY
ジャァァァァァン!!
会場の空気を切り裂くような、攻撃的なギターリフが轟いた。
スポットライトが一点に集中する。
そこに立っていたのは、アルミホイルとスナック菓子の袋をパッチワークしたドレスを纏い、しかしダイヤモンドよりもギラギラと輝く少女――リーザだった。
「行くわよタロー国! 私の全てを愛して! 『LOVE & MONEY』!」
彼女が叫ぶと同時に、バンドサウンドが炸裂した。
「All: 愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ!」
「All: (Fu Fu!)」
「All: マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!」
「All: (Yeah!!)」
観客たちは度肝を抜かれた。
「愛」と「マネー(金)」と「ローン(借金)」が同列に叫ばれる歌詞。
だが、そのリズムは中毒性が高く、気づけば観客の体は勝手に動いていた。
「朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)」
「私はまだ眠いわ (おはよー!)」
リーザがステージを駆け回る。
その歌詞は、どこにでもいる庶民の日常そのものだ。
「朝シャンしなきゃ (Fu!)」
「朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)」
かつて「半額もやし」に敗北感を感じていた彼女はもういない。
今の彼女は、その「生活感」を武器に変えたのだ。
「今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)」
「全て上手くいくわ (絶対!)」
そして、サビ。
リーザは観客席に向かって、手を大きく差し出した。
まるで、何かを掴み取るように。
「愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)」
「ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)」
ドォォォォン……!
会場が揺れた。
「あなたが好き」ではない。「土地が欲しい」。
そのあまりにも清々しい欲望の開示に、観客の脳裏に電撃が走った。
「そ、そうだ……! 俺たちだって、土地が欲しい!」
「綺麗事なんていらねぇ! 俺もダイヤが欲しいんだぁぁッ!」
特に、最前列にいた元ナンバーズの戦闘員(無職・リハビリ中)たちが号泣していた。
彼らは知っている。貧困の辛さを。そして、金の尊さを。
リーザの歌は、彼らの魂の代弁だった。
「貴方の愛で生きていける (Fuuu〜!)」
「愛」と書いて「キャッシュ」と読む。
そのフレーズが決まった瞬間、会場の熱気は最高潮に達した。
そして、2番。
「夕方の鐘が鳴ったわ (キンコンカン!)」
「スーパーのシール見なきゃ (半額!)」
リーザが切なげな表情で歌う。
その目には、スーパーのワゴンセールで戦った日々の記憶が宿っている。
「家賃のために 節約しなきゃ」
「(現実はシビア〜! ガマン!)」
「ガマン!」のコールで、観客との一体感が生まれる。
誰もが日々の生活で「ガマン」をしている。その共感が、巨大なうねりとなってステージへ押し寄せた。
その時だった。
舞台袖で見ていたキュララが、たまらず飛び出した。
「ずるいー! 私も! 私もお金欲しいー!」
「ああっ、キュララさん!? 待ってください、私も……!」
ルルシアも続く。二人はバックダンサーとして、リーザの両脇に滑り込んだ。
天使、貧乏神、元令嬢。
カオスな3人が並び立つ。
「今夜も私の為に星が降る (ひかって!ひかって!)」
「全部手に入れるわ (強欲!)」
3人の声が重なる。
キュララはあざとく、ルルシアは力強く(ラーメンで培った声量で)、そしてリーザは堂々と。
「株券欲しい♪ お城も欲しい♪ (Buy Now! Buy Now!)」
そして、曲はクライマックスの「口上」へ。
演奏が静まり、リーザがスポットライトの中で囁くように歌う。
「だって女の子だもん 夢見るだけじゃお腹は空くの」
彼女はスカートの裾を掴み、アルミホイルのドレスを翻した。
「綺麗なドレスも ガラスの靴も 維持費がかかるのよ」
その切実すぎる現実に、会場中の男たちが拳を突き上げた。
「(そうだー!!)」
リーザはニヤリと笑った。
彼女は背中に隠していた『集金ネット(虫取り網の強化版)』を取り出し、高々と掲げた。
「だから…もっともっと、愛して(課金して)ね?」
「覚悟はいい?」
ブォンッ!!
彼女はネットを客席へ向かって振り下ろした。
「世界中が私の為に愛を叫ぶ (まわって!まわって!)」
「全部抱きしめるわ (最強!)」
観客たちは、まるで操られるように財布を取り出した。
搾取されているのではない。彼らは自ら進んで、この「最強の正直者たち」に未来を託そうとしているのだ。
「ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪ (All Need! All Need!)」
「貴方の全て(人生)を背負って生きていける (Fuuu〜!)」
チャリン、チャリン、バサササッ!
集金ネットの中に、硬貨や紙幣が吸い込まれていく。
キュララもルルシアも、ステージに投げ込まれる金品を笑顔で回収して回る。
「だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ」
「だから、何処までもついて来てね♡」
「(一生ついていくよー!!)」
最後は3人揃って、カメラ目線でのキメポーズ。
「ダーリン!」
「(チュッ♡)」
投げキッスと共に、演奏が終わる。
(ジャーン! …ジャン!)
(チャリーン♪)
最後の音は、レジスターが開く音だった(竜がサンプラーで入れた)。
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!
地鳴りのような歓声と拍手。そして、止まない投げ銭の嵐。
リーザは息を切らしながら、集金ネットの重みを感じていた。
重い。
これが、ファンの愛(物理)の重さだ。
「……勝った」
彼女は確信した。
半額シールにも、自分自身のみじめさにも、全てに打ち勝ったのだと。
舞台袖。
竜は腕組みをして、その光景を眺めていた。
「……とんでもない怪物を生み出しちまったな」
「あら、いいじゃありませんこと? 『ギルティ・エンジェルズ』……悪くないユニット名ですわ」
リベラが電卓を叩きながら微笑む。
こうして、タロー国のフェスは伝説となり、最強に強欲でキュートな3人組ユニットが、芸能界(?)に爆誕したのだった。




