EP 8
フェス開幕! 前座の天使
タロー国、中央広場。
そこには、国始まって以来の巨大な特設ステージが組まれていた。
『戦勝記念&復興支援フェス』。
ナンバーズ壊滅の祝勝会と、タロー国の経済活性化を兼ねた一大イベントである。
観客席は超満員。
タロー国の国民はもちろん、噂を聞きつけた近隣諸国の商人や冒険者たち、さらには――。
「うっ……頭が……」
「大丈夫か? まだトイレ行かなくていいか?」
会場の隅には、社会復帰プログラムの一環として参加している、元ナンバーズの戦闘員たち(失禁の後遺症からリハビリ中)の姿もあった。
「えー、本日はお日柄もよく……。これより、タロー・ミュージックフェスティバルを開催する!」
主催者であるタローが、少し緊張した面持ちで開会宣言をした。
わぁぁぁっと歓声が上がる。
「トップバッターは、今や飛ぶ鳥(鳩)を落とす勢いの超人気T-チューバー! 天界からの使者、キュララちゃんだー!!」
ド派手なスモークと共に、キュララが飛び出した。
「こんきゅら~! 下界の愚民……じゃなくて、愛すべき信者の皆さま~! キュララだよっ☆」
フリフリの衣装に、LEDでピカピカ光る天使の輪。
その愛らしい姿に、観客たちは一瞬で魅了された。
「うおおお! キュララちゃーん!」
「本物の天使だ!」
キュララはマイクを握りしめ、ウインクを飛ばした。
「今日は特別に、画面越しじゃなくて『生』で私の歌が聴けちゃうよ! ……もちろん、入場料だけじゃ足りないよね? 感動したら、その気持ちを『形(硬貨)』にしてステージに投げ込んでね!」
開幕早々、リアル・スーパーチャットの要求。
だが、訓練されたファン(視聴者)たちは、「貢がせてくれ!」と財布を取り出す。
「それじゃあ聴いてください! 『エンジェル・フライ・ハイ(鳩のように)』!」
ポップなイントロが流れる。
キュララは軽快にステップを踏み、歌い出した。
「♪白い翼~ 広げて~ あなたのもとへ~」
歌声は、意外にも透き通った美声だった。さすがは腐っても天使族。
しかし、1番のサビに差し掛かった時、悲劇は起きた。
「♪空高く~ 舞い上がる~ ……あれっ?」
キュララの動きが止まった。
歌詞が飛んだのだ。
直前の楽屋弁当(唐揚げ)のことで頭がいっぱいで、歌詞を覚えるのを忘れていたらしい。
「♪ららら~……お、お金~……」
彼女は誤魔化した。
あまりにも露骨な替え歌で。
「♪美味しいご飯~ 食べたいな~ ……あ、スパチャだ!」
チャリン。
客席から銀貨が一枚、ステージに投げ込まれた。
その瞬間、キュララの「天使モード」が解除され、「公園の鳩モード」が発動した。
シュバッ!
歌唱中にもかかわらず、彼女は地面を滑り込み、その銀貨を素早く拾い上げた。
「ゲット! ……あ、いけない! ♪ららら~愛を込めて~(今の見た?)」
歌いながら小銭を拾うアイドル。
そのあまりに残念で、しかし欲望に忠実な姿に、会場は逆に沸いた。
「拾ったwww」
「歌えよ!」
「ほらよ、これも拾え!」
チャリン、チャリン!
面白がった観客たちが、次々と硬貨を投げ込む。
キュララは歌うのを完全に放棄し、四つん這いになって小銭回収に奔走し始めた。
「クルッポー! あ、ありがとう! これであと三日は食いつなげるわ!」
会場は温まった。
いや、苦笑いと熱狂が入り混じる、カオスな空気が出来上がっていた。
***
舞台袖。
その光景を、冷ややかな目で見つめる影があった。
リーザだ。
彼女の衣装は、アルミホイルとお菓子の袋をパッチワークした、手作りのサイバーパンク風ドレス。
だが、その立ち姿には、以前のような迷いも焦りもなかった。
「……ふん。相変わらず品がないですね、あの駄天使は」
リーザは鼻で笑った。
彼女の手には、マイクスタンド……ではなく、先端に大きな虫取り網がついた特製の『集金ネット』が握られていた。
「準備はいいか、強欲歌姫」
後ろから、竜が声をかけた。
彼は腕組みをして、ステージの小銭拾いを見ながらニヤリと笑った。
「あのバカ天使が場を温めてくれた。……あとはお前が、その熱ごと財布の中身を奪い尽くすだけだ」
「ええ、わかっていますわ」
リーザは集金ネットを担ぎ直し、不敵な笑みを浮かべた。
その瞳は、獲物を狙う狩人のようにギラついていた。
「小銭拾いなんてセコい真似はしません。……私は、紙幣を狙いますから」
ステージでは、キュララの出番が終わりかけていた。
「みんなありがと~! 次は私の大好きな先輩だよ! ……たぶん、私よりガメついよ!」
キュララが懐をジャラジャラ言わせながら退場する。
照明が落ちる。
一瞬の静寂。
そして、爆音のギターリフが鳴り響いた。
『LOVE&MONEY』のイントロだ。
「さあ……稼ぎの時間です!」
リーザが光の中へと飛び出した。




