EP 6
竜の楽曲制作
「……おい、生きてるか? 貧乏神」
ぶっきらぼうな声と共に、部屋のドアが開けられた。
入ってきたのは、竜だった。
彼は手に、どこから出したのか――おそらく『道具作成』で作ったのだろう――シンセサイザーのような鍵盤楽器を抱えていた。
「……あ、竜さん」
リーザは枕に顔を埋めたまま、力なく返事をした。
顔を上げる気力もない。化粧も涙で崩れ、借り物のドレスはシワシワだ。
「笑いに来たんですか? どうぞ笑ってください……。私なんて、所詮は半額もやしがお似合いの、みじめな女ですから……」
「そうだな。お前はみじめだ。見てられないくらいにな」
竜は遠慮なく肯定した。
リーザの背中がピクリと跳ねる。
「……ひどい。少しは慰めてくれたっていいじゃないですかぁ……」
「事実だろ。自分を偽って、似合いもしないお嬢様のフリをして。挙句の果てに、後輩の寿司を見て嫉妬で泣く。……救いようがないな」
竜は部屋の隅にあった椅子を引き寄せ、ドカッと座った。
そして、持ってきたキーボードを膝の上に置いた。
「だが、俺はそんなお前を『つまらない』とは思わん」
リーザがゆっくりと顔を上げた。
パンダのようにマスカラが滲んだ目で、怪訝そうに竜を見る。
「……どういう、意味ですか?」
「新曲を作るぞ」
竜は唐突に言った。
「は……? し、新曲?」
「ああ。タロー国のフェスでお前が歌う曲だ。リベラから依頼されてな」
リーザは鼻を啜り、首を横に振った。
「む、無理ですよぉ……。今の私に、キラキラしたアイドルソングなんて歌えません……。愛だの夢だの、そんな綺麗な言葉、口にしただけで吐き気がします」
彼女は自分の腹をさすった。
そこにあるのは、空腹と、満たされない渇望だけだ。
「『愛』でご飯は食べられません。『夢』でお腹は膨れません。……そんな嘘、もう歌いたくない」
リーザの言葉は、悲痛な叫びだった。
だが、それを聞いた竜は、なぜかニヤリと口角を上げた。
「当たり前だ」
竜は鍵盤に指を置いた。
「アイドル曲なんて、愛だの希望だの、綺麗事を並べ立てた『嘘吐きの発表会』だろ?」
「えっ……?」
予想外の言葉に、リーザが目を丸くする。
「お前は聖女じゃない。天使でもない。……ただの、金と食い物に意地汚い、サバイバル根性だけの小娘だ」
竜の指が鍵盤を叩く。
ジャンッ!!
鳴り響いたのは、甘いバラードのイントロではない。
攻撃的で、どこか焦燥感を煽るような、アップテンポなロックサウンドだった。
「だから、嘘をつくな。無理して綺麗になろうとするな」
竜はリーザの目を真っ直ぐに見据えた。
「お前の『本当』をぶちまけてこい」
「……本当?」
「ああ。金が欲しいなら金と言え。ダイヤが欲しいならそう叫べ。……嫉妬も、欲望も、貧困への怒りも、全部エネルギーに変えてマイクに叩きつけろ」
竜の奏でるメロディが、リーザの心臓を直接ノックする。
ドクン、ドクン。
萎んでいたはずの彼女の野心が、その音色に共鳴して熱を帯び始めた。
「それが『ロック』だ。……お前にしか歌えない歌だろ?」
リーザは呆然としていた。
欲望を、歌う?
アイドルが? そんな浅ましいことを?
でも――。
不思議と、胸のつかえが取れていく感覚があった。
「清純派」という重い鎧を脱ぎ捨て、泥だらけのジャージに戻った時のような、あの解放感。
「……私、歌っていいんですか? 『お金が欲しい』って」
「構わん。むしろ推奨する。……歌詞はもう書いてある」
竜はポケットから、クシャクシャになったメモ用紙を取り出し、リーザに投げ渡した。
そこに書かれていたタイトルは――。
『LOVE&MONEY』。
「……っ!」
リーザはその歌詞を目で追った瞬間、息を呑んだ。
そこには、彼女が心の奥底に封じ込めていた「叫び」そのものが記されていたからだ。




