表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホームセンター店員、過労死して異世界へ。聖剣もフォークリフトも俺にはただの「道具」ですが?【ウェポンズマスター】のDIY無双  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/77

EP 4

半額シールの敗北感

 タロー国、庶民の台所『タローマート』。

 夕方のタイムセールが始まるその刻、二つの影が精肉・青果コーナーを疾走していた。

 一人は、ジャージ姿の金髪少女、リーザ。

 もう一人は、ゴスロリ服だが所々が薄汚れた少女、ルルシア(新人)。

 かつて敵対していた二人は今、同じ目的のために連携する戦友(貧乏仲間)となっていた。

「あっちです! 店員さんがシール貼り機を持って移動しました!」

「ナイスです、新人ルルシアちゃん! 狙うは『見切り品』ワゴン、一点突破ですよ!」

 二人は他の主婦たちを華麗なステップでかわし、ワゴンコーナーへ滑り込んだ。

 そこは戦場。

 少しでも傷んだ野菜や、賞味期限ギリギリの食材が並ぶ、貧者たちの聖域。

「あっ! ありました!」

 ルルシアがワゴンの一角を指差し、歓声を上げた。

 彼女が宝物のように両手で持ち上げたのは、少ししなびた袋入りの野菜だった。

「パイセン! もやしですよっ! 10円です!」

 通常20円のもやしに、輝かしい『見切り品:10円』の赤札が貼られている。

 ルルシアの瞳がキラキラと輝いている。かつての伯爵令嬢の面影はない。完全にこちらの世界に染まっている。

「でかした! 素晴らしい成果です!」

 リーザはもやしを受け取り、深く頷いた。

「後輩、今日は豪勢にいきましょう。公園で摘んできたタンポポとオオバコ、それにこのもやしを合わせれば……『シャキシャキ野草サラダ(もやし増量)』が食べられるわね!」

「わぁっ! 楽しみですね! パイセン! マヨネーズもかけちゃいますか!?」

「ええ、今日は特別です。チューブの残り、全部絞り出しちゃいましょう!」

 10円の出費で得られる、最大限の幸福。

 二人は顔を見合わせ、へへへと笑い合った。

 これぞ、清く正しい貧乏生活の知恵と喜び――のはずだった。

 ピロリン♪

 その時、ルルシアの懐に入れていたスマホ(竜からのお下がり)が通知音を鳴らした。

「あれ? 誰か配信を始めたみたいです」

「ん? ああ、あの『駄天使』ですか?」

 リーザはカゴにもやしを入れながら、何気なくルルシアのスマホ画面を覗き込んだ。

 画面に映っていたのは、タロー・プロダクション所属の新人T-チューバー、キュララだ。

『みんな~! 昨日はたくさんのスパチャありがとう! おかげで今日は……じゃじゃーん! A5ランクステーキを買っちゃいました~☆』

 画面の中のキュララが、霜降りの分厚い肉を見せびらかしている。

 その瞬間、画面上のチャット欄が爆発した。

『うまそう!』

『もっと食え!』

『肉代だ! 取っとけ!』

 チャリン! チャリン! ドサササッ!

 画面を埋め尽くす、赤や黄色の帯。

 スーパーチャット(投げ銭)だ。

 1万タロー、5万タロー……中には10万タローなんていう高額支援も飛び交っている。

「えっ……すご……」

 ルルシアが口を開けて固まる。

「パイセン、見てください! この『赤スパ』一本で……もやしが1000袋買えますよ!?」

「……は?」

 リーザの思考が停止した。

 1000袋?

 たった数秒、カメラの前で肉を見せただけで?

 私たちが必死にワゴンセールを駆け回り、10円のもやしで喜んでいる間に?

『あむっ! ん~おいひぃ~! みんな大好き~! 愛してる~!』

 キュララが適当な愛想を振りまくたびに、さらに金が舞い込む。

 その総額は、リーザの全財産(タンス貯金含む)を遥かに超えていた。

「…………」

 リーザの手から、愛おしいはずの10円もやしが滑り落ちそうになった。

「パ、パイセン? どうしました? 顔色が……」

「……後輩」

「は、はい」

 リーザは震える声で言った。

「私たち……これでいいんでしょうか?」

「えっ?」

 カゴの中の、茶色くなりかけた10円のもやし。

 スマホの中の、輝くステーキと数百万の現金。

 圧倒的な格差。

 そして何より、あのポンコツ天使に「稼ぎ」で負けているという事実。

「私……先輩ですよね? アイドル……ですよね?」

 リーザの中に、どす黒い焦燥感が渦を巻き始めた。

 貧乏は楽しい。サバイバルは誇りだ。

 でも――。

「(……悔しい。なんであの子ばっかり! 私だって……私だってお金持ちになりたい!)」

 スーパーの明るい照明の下、リーザは初めて、自分の手に握られた「半額シール」が、敗北の烙印のように見えてしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ