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ホームセンター店員、過労死して異世界へ。聖剣もフォークリフトも俺にはただの「道具」ですが?【ウェポンズマスター】のDIY無双  作者: 月神世一


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EP 10

精神崩壊と「ごちそうさま」

 犯罪者集団『ナンバーズ』のアジト、司令室。

 かつて世界の支配を夢見た場所は、今や灼熱の地獄の入り口となっていた。

「アハ……アハハハハ!」

 ナンバー0(ギアン・アルバード)は、瓦礫の散らばる床に座り込み、虚空を見上げて笑っていた。

 彼の手には、先ほど床に落とした高級チョコレートが握られている。

 溶け出し、土埃にまみれたその茶色い塊を、彼は嬉しそうに口に運んだ。

「美味しい……チョコ、甘いねぇ……アハハ!」

 彼の瞳孔は開ききり、そこには知性の光も、野心も、恐怖さえも残っていなかった。

 無限に繰り返される『死の予知』によって脳の処理領域が焼き切れ、彼は幼児退行――あるいは完全な廃人へと堕ちてしまったのだ。

『……チッ』

 天井の大穴から覗き込んでいた『紅蓮の地獄龍』が、つまらなそうに鼻を鳴らした。

『壊レタ人形カ。……喰ラウ価値モ無イ』

 龍にとって、抵抗する意志のない弱者をいたぶる趣味はない。

 だが、あるじの食事を邪魔した「害虫の巣」を残しておく理由もなかった。

『掃除ダケハ、シテオクカ』

 ゴォッ!!

 龍が軽く息を吐いた。

 それは攻撃ですらない、ただの溜息のような炎。

 だが、それだけでアジトのメインコンピューター、通信機器、そして悪の野望が記されたデータバンクは、瞬く間に溶断され、灰へと変わった。

「アハハ! あーかい! きれー!」

 炎の中で手を叩く0を残し、龍は興味を失ったように首を引っこ抜いた。

 任務完了。

 巨大な翼が羽ばたき、龍の姿は陽炎のように空へと溶けて消えていった。

 ***

 一方、街外れのラーメン店『豚神屋』。

「……ふぅ」

 俺はドンブリを持ち上げ、最後の一滴までスープを飲み干した。

 ガツンとくる塩分と脂が、食道を通って胃袋に落ちる。

 その重みこそが、生きている証だ。

 ドンッ。

 俺は空になったドンブリをカウンターに置いた。

「ごちそうさま。……いい勝負だった」

「へい! まいど!」

 店主がニカッと笑う。

 続いて、隣の席からもドンブリを置く音が響いた。

「ぷはぁーッ!!」

 豪快な息を吐いたのは、ルルシアだ。

 あの山のような『大豚ダブル・全マシマシ』が、綺麗に消滅していた。

 彼女のゴスロリ服は汗で張り付き、仮面はテーブルの隅に置かれている。

 その素顔は、脂でテカテカと輝き、満腹の幸福感で紅潮していた。

「く、食ったわ……! 私、勝ったのね……この山に!」

「見事だ、新人。今日からお前も『ジロリアン』の仲間入りだ」

「ふふふ、やるじゃないですか。貴女の胃袋、才能ありますよぉ」

 リーザが先輩風を吹かせながら爪楊枝を使う。

 イグニスも、ルナも、リベラも、全員完食だ。

 ルナが「ごちそうさまでした~」と手を合わせると同時に、外の空気がふっと軽くなった気がした。

「よし、帰るか。腹いっぱいで眠くなってきた」

 俺たちは席を立ち、代わる代わる店主に礼を言って店を出た。

 ガララッ……。

 外に出ると、そこには異様な光景が広がっていた。

「……ん?」

 店の前の路上に、数十人の男たちが転がっていた。

 全員が白目を剥き、口から泡を吹き、股間を濡らして気絶している。

 その中心には、ニット帽が脱げ落ち、ツルツルの頭を晒したナンバー1(ヴォルフ)の姿もあった。

「なんだこいつら? 集団食中毒か?」

 俺は1の体を跨ぎながら首をかしげた。

「兄貴、きっとアレだぜ。ニンニクの匂いに当てられて、貧血起こしたんじゃねぇか? 軟弱な野郎どもだ!」

 イグニスが鼻で笑い、1の頭をペチペチと叩く。

「ま、どうでもいいですね~。あ、見てください、あっちの山の方」

 ルナが指差す先、遠く離れた山間部から、黒い煙がモクモクと上がっていた。

 ナンバーズのアジトがあった場所だ。

「山火事か? ……まあ、消防が来るだろ」

 俺は興味なさげに視線を切った。

 今の俺は、満腹で思考能力が低下している。

 世界征服を企む組織が壊滅しようが、最強の刺客が失禁してようが、今夜のデザート以上に重要な問題ではない。

「ねぇパイセン! 竜さん!」

 ルルシアが俺の服の袖を引っ張った。

 その顔には、もう「ナンバーズ幹部」としての陰鬱な影は微塵もなかった。

「お口直しに、アイス食べに行きませんか? しょっぱいものの後は、甘いものが食べたくなります!」

 彼女はニヘラと笑った。

 その笑顔は、ただの「食いしん坊な少女」そのものだった。

「……たく、底なしの胃袋だな」

「いいですねぇ! コンビニで『タロー・アイス』買い占めましょう!」

「わぁい! アイスですぅ!」

 俺たちは夕焼けの商店街を歩き出した。

 背後には、泡を吹いて倒れる悪の組織の残骸と、燃え上がるアジト。

 だが、誰も振り返らない。

 最強の社畜とその仲間たちにとって、悪の組織との戦いなど、ラーメンのトッピングほどの価値もないのだから。

 「あーあ、明日の朝飯、何にするかなぁ」

 「気が早いぞ、兄貴!」

 平和な笑い声が、街に溶けていく。

 こうして、世界のリセットを目論んだナンバーズの野望は、豚骨スープの海に沈み、完全に潰えたのだった。

 (第4章 ラーメン編・完/次回、第5章へ続く!)

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