EP 9
バッドエンド確定の未来
目の前には、全てを灰にする紅蓮の地獄龍。
喉の奥で高まるブレスの輝きは、このアジトどころか、山一つ消し飛ばすほどのエネルギーを秘めている。
「視えろ……! 視えろぉぉぉッ!!」
ナンバー0(ギアン・アルバード)は、充血した目で虚空を睨みつけた。
彼のユニークスキル【未来予知】が限界駆動する。
これは数秒先、あるいは数分先の未来の分岐を視覚化し、最適な行動を選択できる「勝利の方程式」だ。
今まで、彼はこの力で数々の死線をくぐり抜け、組織を大きくしてきた。
今回も必ずあるはずだ。
この化け物の隙を突き、生き延びる『正解ルート(ハッピールート)』が!
ブンッ。
0の脳内に、無数の未来図が展開された。
【ルートA:右へ緊急回避】
(未来の映像)
0が右へ跳ぶ。龍のブレスが逸れる。助かった――と思った瞬間、龍の巨大な前足が横薙ぎに振るわれる。
グシャァッ。
0の上半身が、トマトのように弾け飛ぶ。
→判定:死亡(圧死)
「ひッ……!?」
0は右へ踏み出そうとした足を止めた。
だめだ、右は死ぬ。なら左だ!
【ルートB:全魔力で防御結界を展開】
(未来の映像)
0が最強の障壁を張る。龍のブレスが直撃。
障壁は0.1秒で蒸発。0の体は分子レベルで分解され、燃えカスすら残らず消滅する。
→判定:死亡(焼失)
「ば、馬鹿な……防御不能だと!?」
正面突破は無理だ。なら逃走だ!
緊急脱出ポッドへのルートは!?
【ルートC:地下水路を使って脱出】
(未来の映像)
0は奇跡的にアジトを脱出する。泥まみれになりながら、裏山へ逃げ延びる。
そこで待ち構えていたのは、満腹で幸せそうな顔をした2(ルルシア)と、鬼の形相のイグニスだ。
ルルシア「あ、0様だ。パイセン、こいつが元凶です」
イグニス「テメェか! 俺の至福のラーメンタイムを邪魔したのはァ!」
ドゴォォォォン!!
イグニスの拳が0の顔面にめり込み、首が180度回転する。
→判定:死亡(撲殺・裏切り)
「に、2(ルルシア)ィィィッ!! 貴様、裏切るのかァァッ!?」
0は幻影に向かって叫んだ。
だめだ、逃げても殺される。
なら、いっそ降伏して交渉だ! 金か? 地位か? 何でもやる!
【ルートD:土下座して命乞い】
(未来の映像)
0は龍に向かって土下座する。「助けてくれ! 世界を半分やる!」
そこへ、空間転移で現れた竜が、冷ややかな目で見下ろす。
竜「悪いな。残飯処理は迅速にやれって、ルナに言われてるんだ」
スラリ。
日本刀『天羽々斬』が閃く。
0の視界が上下にズレていく。
→判定:死亡(斬首)
【ルートE……死亡】
【ルートF……死亡】
【ルートG……死亡(捕食)】
次々と開くウィンドウ。
その全てが、赤黒い『DEAD』の文字で埋め尽くされていく。
どこへ逃げても、何をしても、誰に会っても。
結末は「死」のみ。
ピーーーーッ!!
脳内で警告音が鳴り響く。
『エラー! エラー! 生存ルートが存在しません』
『回避率0.000%』
『バッドエンド確定』
「あ……あぁ……」
0は頭を抱えて膝をついた。
目の前の龍がブレスを放つまでの、わずか数秒の間。
彼は脳内で、数千回、数万回の「自分の惨たらしい死に様」を体験させられていた。
焼かれる熱さ。潰される痛み。裏切られる絶望。首を斬られる寒さ。
それらがリアルな感覚として、彼の精神をレイプする。
「な、何なんだ……!? 何なんだお前らはぁぁぁッ!?」
0は血の涙を流して絶叫した。
最強の能力者集団? 世界征服?
そんなものは、彼らに関わった時点で崩壊していたのだ。
「こ、コイツらと関わったこと自体が……バッドエンド(詰み)だったのかぁぁぁッ!?」
理解した時には、もう遅かった。
彼の精神は、無限に続く死の予知によって焼き切れようとしていた。
プツンッ。
0の瞳から、理性の光が消えた。
彼はダラリと手を垂らし、半笑いを浮かべた。
「アハ……アハハ……」
精神崩壊。
龍が口を開け、終焉の炎を放とうとしたその瞬間、0の心は既に砕け散っていた。




