EP 8
アジト強襲
犯罪者集団『ナンバーズ』のアジト、司令室。
無機質な白い壁と、最新鋭のモニター群に囲まれたその空間は、冷ややかな静寂――いや、凍りつくような沈黙に支配されていた。
リーダーであるナンバー0(ギアン・アルバード)は、手に持っていた高級チョコレートを口に運ぶことすら忘れ、メインモニターを凝視していた。
「……な、なんだこれは?」
画面に映し出されているのは、敵との激しい攻防ではない。
泡を吹いて気絶し、股間を濡らして倒れている最強の部下、ナンバー1(ヴォルフ)の無様な姿だ。
そして、その周囲には、同じく失禁して全滅した戦闘員たちの死屍累々(気絶)が転がっている。
「戦わずして……漏らした、だと?」
0の手からチョコレートが滑り落ち、床に転がった。
理解不能だ。
1は組織最強の戦闘力を持つ男だ。それが、魔法一発撃つこともなく、ただ上空の『何か』に怯えて自滅したというのか。
「ありえない……。僕のシナリオに、こんな茶番は……!」
その時だった。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥ――ッ!!
司令室に、けたたましい警報音が鳴り響いた。
照明が赤色に切り替わり、オペレーターたちの悲鳴のような報告が飛び交う。
「こ、高エネルギー反応接近! 速度、計測不能! こっちに来ます!」
「馬鹿な! このアジトは地下深くに隠蔽されているんだぞ! 場所が特定されるはずが……」
0が叫んだ、その直後。
ズガァァァァァァァァァァンッ!!!!
天地がひっくり返るような衝撃が、アジト全体を襲った。
モニターが爆発し、天井から瓦礫が降り注ぐ。
0は椅子ごと床に投げ出され、無様に転がった。
「ぐっ……!? な、何が起きた!?」
「ほ、報告! 第一防衛ライン突破! 第二、第三も……紙切れみたいに破られていますッ! 物理障壁、魔法結界、全滅ッ!」
オペレーターが絶叫する。
このアジトは、旧王国の軍事要塞を改修した鉄壁の守りを誇っていたはずだ。
それが、わずか数秒で?
「来る……! 本丸に来るぞぉぉッ!」
メリメリメリメリッ……!
頭上で、何かが引き裂かれる音がした。
分厚いコンクリートと特殊合金でできた天井が、まるで缶詰の蓋のように、強引に『こじ開けられて』いく。
ギャアアアアアンッ!!
金属の悲鳴と共に、天井が吹き飛んだ。
地下深いはずの司令室に、突如として眩い『赤』が差し込んだ。
それは太陽の光ではない。
地獄の業火の輝きだ。
「……ひッ」
0は床を這いながら、空いた穴を見上げた。
そこに『それ』はいた。
空を覆い尽くすほどの巨大な翼。
溶岩のように脈打つ真紅の鱗。
そして、ビルほどもある巨大な頭部が、穴からヌッと司令室の中を覗き込んでいた。
『……見ツケタゾ。薄汚イ害虫メ』
紅蓮の地獄龍。
その黄金の瞳が、0という小さな存在をロックオンした。
吐き出される息だけで、室内の気温が一気に数百度まで上昇し、プラスチックの機材が溶解を始める。
「ば……化け物……」
0は震える唇で呟いた。
Aランク? Sランク?
いや、そんな次元ではない。これは『天災』だ。
たかがラーメン屋の騒音トラブルへの報復にしては、あまりにも過剰すぎる戦力。
『我ガ主ノ食事ヲ邪魔シタ罪ハ重イ。……死デ償エ』
龍が口を大きく開けた。
喉の奥で、太陽のコアのような光が凝縮されていく。
極大ブレスの予備動作。
「ま、待て……! 話し合おう! 僕は選ばれし者だぞ!?」
0は錯乱して叫んだ。
だが、龍は聞く耳を持たない。
圧倒的な『死』が、秒読み段階に入っていた。
「くそっ……! くそぉぉぉッ!!」
0は最後の手段に出た。
自身のユニークスキル、【未来予知】。
数秒先の未来を視て、この絶体絶命の状況から生き残る『正解ルート』を探し出す。
「見えろ! 生き残る未来が! 僕が勝つ未来が!!」
0の瞳が怪しく輝き、彼の脳内に無数の未来の分岐図が展開された。
だが、それが彼にとっての本当の地獄の始まりだった。




