EP 8
激闘!ミディアムレアの恨み
「ヒャッハー! 俺のハラミを返せオラァァァ!!」
イグニスの咆哮がリビングを震わせた。
彼は武器である両手斧を取りに行く暇すら惜しみ、素手で戦闘員たちに殴りかかった。
ドゴォォォォッ!!
丸太のような腕が唸りを上げる。
ナンバーズの戦闘員が、まるでボウリングのピンのように吹き飛び、壁にめり込んだ。
竜人族の怪力に、『空腹』と『食い物の恨み』というバフが掛かったその破壊力は、戦車すら粉砕するレベルだ。
「ひ、ひぃぃっ! なんだこいつら! 目がイッてやがる!」
「下がるな! 相手はただの冒険者だ!」
戦闘員たちが剣や槍を構えて殺到する。
だが、そこにはもう一人の獣がいた。
「ご飯の邪魔をする奴は……万死に値しますッ!」
シュバッ!!
キャルルが音速で駆け抜ける。
彼女の手には、フォークとナイフが握られていた。
キィン! ガガガガッ!
すれ違いざま、戦闘員たちのベルトや鎧の留め具だけが正確に切断される。
ズボンがずり落ち、鎧が外れて転ぶ男たち。
「隙ありです! イヤーッ!」
キャルルのドロップキックが、無防備な顔面に次々と炸裂する。
「……ふん。雑魚ばかりか」
俺はホットプレートの前から一歩も動かず、トング片手に応戦していた。
迫りくる剣をトングで挟んで受け流し、カウンターで顎を砕く。
「くらえ! 特製・激辛タレ噴射!」
俺は左手に持った『タレ噴射機』のトリガーを引いた。
プシュァァァッ!!
ハバネロとニンニクを凝縮した赤い霧が、戦闘員たちの目と鼻を直撃する。
「グアァァァッ!! 目が、目がぁぁぁ!」
「からぁぁぁい!!」
のたうち回る敵を尻目に、俺は素早く肉を裏返す。
よし、いい焼き色だ。
あっという間に、リビングは呻き声を上げる戦闘員たちの死体(気絶)で埋め尽くされた。
立っているのは、仁王立ちするイグニスと、耳を立てたキャルル、そして肉番人の俺だけだ。
「……チッ。使えねぇ部下どもだ」
瓦礫の上で、ナンバー1(ヴォルフ)が舌打ちをした。
彼は鬼の仮面の奥から、苛立ちと興奮の混じった視線を俺に向けてくる。
「おい、肉焼き係。テメェがリーダーか?」
「今は『焼肉奉行』と呼べ。……何の用だ? 見ての通り、取り込み中なんだが」
俺が冷たく返すと、1は右手を掲げた。
その掌に、赤黒い、不吉な魔力が収束していく。
「用? 決まってんだろ。テメェらを『破壊』しに来たんだよ!」
1が掌を近くのダイニングテーブル(木製)に向けた。
バヂチチッ!
魔力が触れた瞬間、頑丈なテーブルが音もなく崩れ去り、灰のような粉末となって散らばった。
「なっ……!?」
「『破壊』。俺のユニークスキルだ。触れたもんを分子レベルで崩壊させる。……防御不能の即死攻撃だぜぇ?」
1がニヤリと笑い、その掌を俺たち――そして、その後ろにあるホットプレートへと向けた。
「テメェらも、その肉も、まとめて灰になりなァ!!」
ゴォォォォォォォッ!!
1の手から、不可視の衝撃波が放たれた。
触れれば終わる、死の波動。
イグニスもキャルルも、その異質な危険を感じ取って身を固くした。
だが、俺は動じなかった。
トングを置き、腰に差していた『天羽々斬』の柄に手をかける。
「分子崩壊か。……厄介な能力だが」
俺の脳内で、【ウェポンズマスター】が1の攻撃の術式を解析する。
物理的な破壊ではなく、魔力による「結合の強制解除」。
ならば――。
「その『概念』ごと、切ればいい」
――斬。
俺は抜刀した。
銀色の閃光が、迫りくる破壊の波動と交差する。
キィィィィィン!!
高周波のような音が響いた。
俺の刃は、何もない空間を切り裂いた。
だが、次の瞬間。
パァァァァン……。
1の放った衝撃波が、俺の目の前で左右に分かれ、霧散した。
背後のホットプレートには、微風すら届いていない。
「は……? あぁ!?」
1が目を剥く。
自分の最強のスキルが、ただの刀一本で無効化されたことが信じられないようだ。
「ば、馬鹿な……! 俺の破壊は物理無効だぞ!? なんで斬れるんだよ!」
「物理法則ごと切るのが、最近のトレンド(流行り)でな」
俺は天羽々斬についた魔力の残滓を振るい落とし、静かに納刀した。
「それに、俺たちの食卓を汚そうなんざ、一万年早い」
カチンッ。
鍔鳴りの音が、1への死刑宣告のように響いた。
「……くそっ! 化け物かテメェは!」
「いいえ、ただの社畜です。……さて、イグニス、キャルル」
「おう!」
「はい!」
俺たちはジリジリと1を追い詰める。
だが、その時だった。
「あらあら、随分と騒がしいですわねぇ……」
二階の階段から、能天気な声が降ってきた。
最強の天然兵器、ルナとリベラのお出ましだ。




